成績概要書(作成 平成7年1月)
1.課題の分類  北海道 畜産 豚 環境保全 滝川畜試
2.試験課題名  積雪寒冷地における豚ふん尿のメタン発酵による処理利用技術の開発
          (家畜ふん尿の好気性及び嫌気性処理・利用技術の開発試験)
          (低温メタン発酵菌群の分離同定と寒地メタン発酵技術の確立に関する研究)
3.予算区分  道単 共同研究
4.研究期間  平成元年〜5年
5.滝川畜試 研究部 草地飼料作物科
              畜産資源開発科
              養豚科
6.協力分担  衛生研究所

7.目的
 家畜ふん尿の嫌気性処理・利用技術として、低温活性の高い優良汚泥を利用した寒冷地型メタン発酵システムを開発するとともにメタン発酵消化液の液肥としての効果を検討する。

8.試験研究方法
 1.優良汚泥の発酵特性の評価
 2.優良汚泥の大量培養
 3.テストプラントでの実証
 4.メタン発酵消化液の液肥としての効果
 5.メタン発酵消化液のBOD,COD、大腸菌数及ぴ臭気
 6.優良メタン発酵菌群の分離同定

9.結果の概要・要約
1)優良汚泥の発酵特性の評価
  十勝地方から採取した優良汚泥No.110は、25℃、有機物負荷量7㎏/㎡/日の培養条件下で標準汚泥35℃
 培養の89%にあたる1,786L/㎡/日のメタンガス発生量を記録した。なお、標準汚泥は25℃培養では3㎏/㎡/日
 の有機物負荷量で発泡し、メタン発酵能力は低下した。
2)優良汚泥の大量培養
  No.110汚泥を、200Lの培養槽で培養し、メタンガス発生量を測定した。No.11O汚泥は200Lの大量培養下
 でも、有機物負荷量5.O㎏/㎡/日で1253L/㎡/日のガス発生量があった。
3)テストプラントでの実証
  厳寒期にNo.110汚泥をテストプラントで培養した。No.110汚泥は4.Okg/㎡/日の有機物負荷量で1,089Lの
 メタンガス発生量があり、厳寒期でも発酵槽維持を上回る余剰ガスが得られることを実証した。
4)メタン発酵消化液の液肥としての効果
  2種類の汚泥のメタン発酵消化液をアルファルファとオーチャードグラス主体草地に散布し、牧草の生育、
 収量を調査した。
  早春に消化液を3t/10a散布することにより、N-5㎏水準の施肥区を上回る1番草収量が得られた。
  消化液を液肥として散布後、比較的早くに臭気は消失した。
5)メタン発酵消化液のBOD,COD、大腸菌数及び臭気
  メタン発酵材料となる豚糞搾汁液と発酵後の消化液について標記項目を測定した。BODはメタン発酵後約半
 分に低下した。CODは約63%に低下した。大腸菌数は1/1O以下に低下していた。臭気は、豚糞搾汁液が
 硫化水素主体の臭気であるのに対し、消化液はアンモニアの臭気だけが検出された。
6)優良メタン発酵菌群の分離同定
  優良汚泥から有機物分解菌およびメタン生成菌を分離同定した。No.110汚泥からはセルロース分解菌
 Aspergillus niger SHM-1とメタン生成菌Methanogenium olentangyi SHMF-21が分離同定された。

10.主要成果の具体的数字

表1. 有機物負荷量とメタンガス発生量(l/㎡/日)及び消化液の性状
汚泥
No.
培養
温度
有機物
負荷量
(㎏/㎡)
発生ガス 消化液の性状 備  考
ガス発生量 メタン濃度% メタン発生量 pH 固形物含量% 有機物含量%
104
110
標準汚泥
標準汚泥
25℃


35℃
1.0 620
590
654
613
59.4
57.8
59.2
58.7
368
341
387
360
7.39
7.44
7.87
7.93
4.03
8.71
3.80
4.71
2.76
3.20
2.69
2.83
 
優良汚泥の
発酵特性
(200L培養槽)
104
110
標準汚泥
標準汚泥
25℃


35℃
3.0 1350
1192
690
1510
59.7
60.0
58.1
61.4
806
715
401
927
7.68
7.67
7.49
7.88
5.42
5.60
5.71
4.49
3.79
3.65
4.02発泡
2.95
104
110
標準汚泥
25℃

35℃
5.0 912
2182
2205
62.1
64.1
65.8
566
1398
1451
7.73
7.69
7.85
5.91
6.90
4.85
4.14発泡
5.10
3.48
110
標準汚泥
25℃
35℃
7.0 2857
3110
62.5
64.2
1786
1997
7.77
7.93
6.66
5.35
4.92発泡
3.58発泡
標準汚泥
25℃
1.2
2.4
718
1451
61.4
61.6
441
894
7.68
7.81
4.73
5.34
3.07
3.46発泡
大量培養法
(200L培養槽)
110

25℃

2.4
3.6
5.0
1032
1601
1998
58.0
64.2
62.7
599
1028
1253
7.72
7.80
7.75
5.30
5.90
6.50
3.90
3.90
4.50
標準汚泥

37℃
25℃
21℃
4.6
2.0
1.8
1912
1152
802
57.0
60.1
56.4
1090
691
452
8.07
7.70
7.70
7.30
6.80
6.60
5.00
4.70
4.50発泡
テストプラント
での実証
110 25℃ 4.0 1833 59.4 1089 7.42 7.10 5.56

 

表2  消化液を散布した草地の乾物収量                                   (㎏/10a)
項目 平成5年 平 成 6 年
アルファルファ単播 アルファルファ単播 オーチャードグラス+ラジノクローパ
1番草 2番草 3番草 年計 1番草 2番草 3番草 年計 1番草 2番草 3番草 年計
消化液6t/10a 500a 235 191 926ab 547a 212 270 1029 377a 254a 263a 894a
〃 3t/10a 499a 254 182 935b 519a 186 275 980 309b 164b 150b 623b
N5㎏/10a施用1) 443b 219 185 847cd 455b 183 300 938 259bc 141bc 128b 528bc
無 施用 400c 236 178 814d 456b 179 263 897 226c 104c 146b 476c
注 1)化成456(N:P2O5:K2O=14:5:26)36㎏/1Oa散布時施用
  2)異文字間に5%水準で有意差あり

 

表3  消化液のBOD・COD・大腸菌及ぴ臭気
項目 BOD(mg/l) COD(㎎/l) 大腸菌(個/ml) 臭気指数 NH4(ppm) H2S(ppm)
No.110 消化液 30,000 17,000 3,000 53.7 260< ND
標準汚泥 〃 29,000 17,000 20,000 57.4 260< ND
豚糞搾汁液 56,000 27,000 27,000 57.4 1< 6

 

11.成果の活用面と留意事項
 1.No.110汚泥は、寒冷地における25℃でのメタン発酵システムに有効である。
 2.メタン発酵消化液は、スラリーの施用基準に準じて草地に利用出来る。

12.残された問題とその対応
 1.牛糞における効果の確認が必要である。