1.課題の分類 畜産 肉用牛 繁殖 新得畜試 北海道 家畜 2.研究課題名 胎子心電図による牛の双胎妊娠診断 (双子の生産率・連続性向上等による肥育素牛の低コスト生産技術の確立) 3.予算区分 緊急開発 4.研究期間 平成元〜5年 5.担当 新得畜試 生物工学科・肉牛飼養科 6.協力・分担関係 畜試・東北農試・青森・秋田・宮崎 鹿児島各畜試・家畜改良事業団 |
7.目的
近年,胚移植技術や過剰排卵技術の応用により,人為的双子生産が行われるようになり, 飼養管理や分娩管理の面から双胎妊娠診断の重要性が増加した。妊娠前期の双胎妊娠診断は超音波断層法により可能となったが,妊娠中後期の双胎妊娠診断技術は未確立である。そこで,胎子心電図検査を利用した双胎妊娠診断技術を確立し、双子生産技術の安定化を目指す。
8.試験研究方法
(1)供試牛
2胚移植した受胚牛
双胎妊娠牛:アンガス5頭,ヘレフォード4頭の延べ36頭。
単胎妊娠牛:アンガス4頭,ヘレフォード2頭の延べ24頭。
(2)心電計
三要素心電計で一要素は母体用とし,二要素は増幅器(増幅率1,000倍)を取り付けて胎子用とした。
(3)胎子心電図誘導点(図1)
左右の側腹部にそれぞれ4点,臍直後の正中線上に1点の計9点で,9点の組み合わせ36組の双極誘導。
母体心電図はAB誘導。
(4)胎子心電図の判定(図2)
ア.QRSのスパイクがリズミカルに追跡できる。
イ.その間隔がきわめて規則正しい。
ウ.ほかの誘導でも同様のスパイクが確認できる。
工.胎子心電図と同時に母体心電図が記録されている。
9.結果の概要・要約
(1)双胎あるいは単胎妊娠のいずれにおいても,妊娠149日目以降の診断では53例全例にお いて,36組の誘導
のうち,いずれかの誘導で双胎子あるいは単胎子の心電図が検出された 。そのうち52例においては正確
に胎子数の診断ができた。それに対し,妊娠146日目以前の双胎妊娠3例では,双胎子心電図は検出され
なかった。よって,双胎子心電図の検出可能な時期は,妊娠約150日以降であると考えられた(表1)。
(2)双胎子心電図検出率(双胎子心電図が検出された誘導数/検査した誘導数)は,妊娠期の 進行に伴い向上
したが,妊娠180日目以降では60%前後の高い検出率を示した(表2)。
(3)誘導を左側腹部の誘導点どうし(左-左区),右側腹部の誘導点どうし(右-右区),左と右の誘導点の間
(左-右区),左の誘導点と臍直後誘導点の問(左-臍区)および右の誘導点と臍直後誘導点の間(右-臍区)
に分類した場合,左-左区および右-右区よりも左-右区,左-臍区および右-臍区の方が双胎子心電図検出率
の高いことが示された(表2)。
(4)以上から,妊娠期では180日目以降,誘導部位では左右の側腹部間あるいは左右側腹部と臍直後部の間の
誘導で双胎子心電図が得られ易いことが判明した。また,誘導点が左右側腹部にそれぞれ1点,臍付近に
1点の計3点のみでも,妊娠180日目以降であれば,ほとんどの牛で双胎子心電図が検出できるので,
胎子心電図の誘導点を上記の3点としても 胎子数の診断は可能である。
10.成果の具体的数字
表1. 胎子数の診断結果
妊娠日数 | 双胎妊娠 | 単胎妊娠 | |||||
検査 頭数 |
胎子数の診断 | 検査 頭数 |
胎子数の診断 | ||||
0 | 単 | 双 | 0 | 単 | |||
118-146 | 3 | 1 | 2 | 0 | 4 | 4 | 0 |
149-271 | 33 | 0 | 1 | 32 | 20 | 0 | 20 |
表2. 双胎妊娠牛における双胎子心電図検出率(%)
妊娠期 (日数) |
頭数 | 誘 導 区 (誘 導 数) | |||||
左-左(6) | 右-右(6) | 左-右(16) | 左-臍(4) | 右-臍(4) | 全誘導(36) | ||
118-149 | 4 | 0.0 | 0.0 | 4.6 | 0.0 | 0.0 | 2.1 |
150-179 | 6 | 13.9 | 11.1 | 19.8 | 33.3 | 33.3 | 20.3 |
180-209 | 8 | 25.0 | 35.4 | 74.8 | 67.7 | 74.2 | 59.0 |
210-239 | 7 | 26.8 | 52.5 | 76.2 | 69.2 | 76.0 | 62.7 |
240-271 | 7 | 26.2 | 59.5 | 74.1 | 64.3 | 82.1 | 63.5 |
150-271 | 28 | 23.5 | 40.4 | 62.8 | 59.6 | 67.6 | 52.5 |
11.成果の活用面と留意点
(1)胎子心電図検査に際し、床の絶縁、心電計のアースの設置、電極の確実な装着等、心電図検査における
基本的注意事項を遵守する。
(2)被検牛が動いたり牛体が雨雪で濡れて震える等、腹筋の緊張があると、不規則な筋電図の混入が増大し
て胎子心電図の判読が不能になる。
(3)胎子心電図には母体の心電図が混入することがあるので、同時に記録している母体心電図と照合して、
誤判読しないよう留意する。
(4)胎子心電図誘導点が左右側腹部にそれぞれ1点、臍付近に1点の計3点のみで、妊娠180日目以降の双胎
子心電図の検出が可能であるが、誘導点が多ければ、胎子心電図の検出される確率が上がるので、
心電図の記録開始から双胎子心電図検出までの時間は短縮できる。
12.残された問題とその対応