成績概要書(作成 平成7年1月)
1.課題の分類  家畜衛生 豚 微生物感染共通
           北海道 畜産
2.研究課題名  コンベンショナル養豚場におけるSPF種豚の導入技術
          (清浄種豚の有効活用技術の確立に関する試験)
3.予算区分  民間共同
4.担当  滝川畜試 研究部 衛生科・養豚科
5.研究期間  平成4年〜6年
6.協力・分担関係  ホクレン農業協同組合連合会

7.目的
 近年、全国的にSPF種豚の生産が増大し、北海道においてもホクレン農業協同組合連合会が大ヨークシャー種系統豚ハマナスW1の維持・増殖をSPF環境下で実施している。それにともない、SPF種豚の新たな利用法として“病気を持ち込まない種豚”として在来の養豚場(コンベンショナル農場)へ導入することが検討されはじめた。SPF豚をコンベンショナル農場に導入する場合、受け入れ農場に常在し、かつ導入SPF豚が保有していない病原に初感染し発病する危険性がある。そこで、本試験では導入時の発病を阻止または緩和させるいわゆる馴致法の確立をめざした。

8.試験研究方法
 1.コンベンショナル農場へのSPF豚導入法の検討
  1)コンベンショナル農場の疾病浸潤状況調査
  2)コンベンショナル農場への試験的導入
 2.Haemophilus parasuis感染症の予防・治療法の検討
  1)異なる血清型株に対する市販ワクチンの防御効果の検討
  2)ワクチンの接種間隔の検討
  3)治療法の検討
 3.現地におけるSPF種豚導入とその定着成績
 4.馴致導入マニュアルの作成

9.結果の概要・要約
1. H.parasuis(Hps)、B.bronchiseptica(Bb)、P.multocida(Pm)、A.pleuropneumoniae(App)、M.hyopneumoniaeの浸
 潤が認められるコンベンショナル農場9場に「ワクチン接種」および「抗生物質の飼料添加」の疾病予防処理
 を組み合わせて40頭のSPF豚を導入したところ、ほとんどの豚が発熱以外の臨床症状を示さず、と殺時に
 その60%が病変を保有しなかった(表1)。この方法に治療を加えることによりSPF種豚の導入が可能と
 考えられた。
2.1)導入試験でみられた血清型2型株によるHps感染症に対して血清型5型株を用いた市販ワクチンは十分な
 防御効果を示さなかった。
2.2)Hps感染症ワクチンの接種間隔は、2〜4週の間では4週間隔が望ましく(図1)、これにより「導入の4週前か
 ら2週間隔で2回接種」していた同ワクチンを「導入の5週前から4週間隔で2回接種」するように変更した。
2.3)市販ワクチンによるHps感染症の予防に限界があることから、その治療法を検討したところ、40.O℃以上の
 発熱を確認後24時間以内であれば治療効果が期待でき、また本症の早期発見に体温測定が有効で
 あることを明らかにした。
3. 平成6年9月末までに30場のコンベンショナル農場に導入された313頭のSPF種豚のうち、雄豚5場19頭、
 雌豚7場159頭、計178頭について、雄では供用開始、雌では初産終了までの転帰を調査したところ、馴致が
 直接原因して廃用・死亡した豚は15頭(8%)で、他の理由で廃用・死亡した16頭を除く147頭が生産に供されて
 おり、本試験で検討した疾病予防プログラムの有効性が示された(表2)。
4. 以上の成績をもとに、SPF種豚の馴致導入マニュアルを作成した(図2)。

10.主要成果の具体的数字

表1  導入試験におけると殺時の肉眼病変所見、細菌分離およぴ抗体検査成績


飼育
日数
臨床経過 病変(類似病変を含む) 鼻汁中細菌 病変からの細菌分離 抗体陽転
1)
2)
なし Hps
感染症
App
感染症
MPS3) AR4) Hps Bb Pm
A型
Pm
D型
M.sp5) Pm
A型
Hps App
2型
Hps App
2型
A 6 29 2 0 1 16) 0 4 0 6 4 0 0 2/4 2/5 1/5 0/5 6 0
B 5 31 0 0 5 0 0 0 0 3 0 0 0 NT9) NT NT NT 3 0
C 5 31 1 0 5 0 0 0 0 0 5 0 1 NT NT NT NT 1 0
D 5 31 1 0 4 0 0 1 0 1 0 2 0 NT NT NT NT 5 0
E 4 31 1 4 3 1 0 0 0 1 0 1 0 NT NT NT NT 3 0
F 4 36 0 0 0 1 0 3 0 2 0 0 18) NT NT 1/1 0/1 4 0
G 3 49 2 1 2 0 0 1 0 0 0 0 0 NT NT NT NT 1 0
H 5 49 0 0 4 0 0 1 0 0 0 0 0 NT 1/1 0/1 0/1 0 0
I 3 64 3 0 0 0 37) 37) 2 0 2 1 28) NT 2/3 0/3 2/3 3 1
計40   10 5 24 3 3 13 2 13 11 4 4 2/4 5/9 2/10 2/10 26 1
25% 13% 60% 8% 8% 32% 5%      
1)40.0℃以上,2)抗生物質の筋肉注射,3)マイコプラズマ性肺炎,4)萎縮性鼻炎,
5)未同定のマイコプラズマ,6)発症例,7)混合感染,8)皮膚壊死毒素産生株,9)検査せず

 

図1  Hps不活化ワクチンの接種間隔と2回目接種の2週間後のCF抗体価

 

表2  馴致導入種豚の廃用・死亡理由1)
  農場
導入
頭数
廃用
頭数
死亡
頭数
廃用・死亡の理由
呼吸器疾患 不妊 不明 その他
5 19 4 0 1   0 3
7 159 23 4 14 6 3 4
9 178 27 4 15 6 3 7
      15% 2% 8% 3% 2% 4%
1)雄は供用開始、雌は初産終了までの成績

 

図2  SPF種豚の馴致導入時の疾病予防プログラム

 

11.成果の活用面と留意点
 1.抗生物質・ワクチンは、獣医師の処方せん・指示により使用すること。
  また導入開始前に緊急の治療に対応できる体制を確保すること。

12.残された問題とその対応
 1.馴致導入による農場の清浄化効果の解明
 2.馴致導入種豚の長期的な生産成績
 3.Hpsワクチンの改良とPmおよびMhpワクチンの開発