1.課題の分類 草地 生産管理 土壌肥料 北海道 畜産・合同 土壌肥料 2.研究課題名 チモシーの1番草の出穂期予測システム (牧草収量を規制する土壌環境要因の解明) 3.予算区分 指定試験 4.研究期間 平成4〜6年 5.担当 根釧農業試験場 研究部 土壌肥料科科・作物科 6.協力・分担関係 なし |
7.目的
根室・釧路支庁管内をモデル地域とし、チモシーにおける1番草の出穂期をメッシュ単位で予測するシステムを作成する。
8.試験研究方法
1)ノンパラメトリックDVR法によるチモシー1番草の出穂期の予測条件(1992)
供試草地:チモシー「センポク」、アカクローバ「サッポロ」交互条播草地(1981〜1991年 造成2年目の草地)
各年次の生育期間中の日平均気温と可照時間を用い、2次元ノンパラメトリックDVR法(田村ら 1989)によりパラメータを計算
2)各メッシュにおける日平均気温の予測誤差が出穂期の予測結果に及ぼす影響(1992)
使用したデータベース:メッシュ気候値(気象庁)、国土数値情報(国土地理院)、アメダス日報(HARIS)、道路気象データ(北海道開発局)、使用したプログラム:「アメダスデータのメッシュ化」(清野1993)
『アメダスデータのメッシュ化」によってメッシュ毎に計算された平均気温と、実測された気温を比較
3)チモシー1番草の出穂期予測の現地適合性(1993〜1994)
根室および釧路支庁管内農業改良普及センターの作況圃場でチモシー1番草の出穂期を調査
(中標津、標津、羅臼、別海、浜中、厚岸、鶴居、阿寒、弟子屈、標茶、釧路、白糠、音別各町村、根室および釧路市のべ168地点)
4)チモシー1番草の出穂期予測システム(1994)
計算実施日までは当年の気温、以後平年値と長期予報の参考年の気温データのいずれを用いることが適当かを比較随時出穂期予測を行えるアルゴリズムを作成。
9.結果の概要・要約
1)ノンパラメトリックDVR法によるチモシー1番草の出穂期の予測条件
(1)1980〜1991年の根釧農試場内の定期作況圃場(2年目草地)のデータを用いて、気温と可照時間に対応したDVR値を求めた(表1)。これを用いたチモシー1番草の出穂期予測には±2日前後の予測誤差が期待された。
(2)根釧地域以外の地域においても、気温と可照時間を用いて本試験と同様の検討を行うことにより、チモシー1番草の出穂期予測を行えることが期待できた。
(3)各メッシュの出穂期を予測する際、萌芽期をメッシュごとに設定することは現状では困難なため、当面、根釧農試の萌芽期を全メッシュ共通の起算日とすることにした。当年の萌芽期の違いが予測結果に及ぼす影響は比較的小さく、上記の運用によって実用性が損なわれることは少ないと判断した。
2)各メッシュにおける日平均気温の予測誤差が出穂期の予測結果に及ぼす影響
(1)日平均気温の予測誤差は標高の高い地点ほど大きい傾向が認められた。
(2)根釧地域における草地の標高から考えて、出穂期予測に用いる日平均気温の予測誤差は±O.5〜1.0℃と思われた。
(3)上記の誤差が出穂期の予測結果に及ぼす影響は±3〜5日以内と考えられた。
3)チモシー1番草の出穂期予測の現地適合性
(1)根釧地域のチモシー1番草出穂期を調査した結果、出穂期は年次および地域によりて大きく異なり、地区ごとに出穂期を予測することの重要性が確認された(図1)。
(2)草地の経過年数の違いが予測日と観測日の差に及ぼす影響を検討した結果、4年目以降の草地における出穂期は、本試験で対象とした2年目の草地よりも約1日早かった。
(3)海岸からの距離が予測日と観測日の差に及ぼす影響を検討した。海岸から10〜20kmの階層を基準とすると、1Okm以内の草地では平均で約2日早く、40kmを越える草地では約1日遅かった。
(4)(2)および(3)により表2のような補正日数を設定し、出穂期の予測結果を補正すると、根釧地域の出穂期の予測精度は±3日では50%、±5日では70〜80%程度と考えられた(図2)。
4)チモシー1番草の出穂期予測システム
(1)計算日以降の気象データには平年値を用い、随時出穂期予測の行えるアルゴリズムを作成した(図1)。
(2)計算の手順は以下の通りである。
①起算日に萌芽期(根釧地域の場合は根釧農試の萌芽期)を入力する。
②予測計算を行うメッシュコードを読込む。
③起算日のDVIをOとし、翌日からDVRの積算を開始する。
④日平均気温を読込む。計算日以降の日平均気温には平年値を用いる。また、メッシュコードから緯度
を求め、暦日と緯度から可照時間を計算する。
⑤日平均気温および可照時間から表1を用いて可照時間に関するDVR(L)と日平均気温に関するDVR(T)
を参照し、両者の和をその日のDVR値とする。
⑥前日までのDVIに当目のDVRを加算する。
⑦DVI値が1を越えたら前日のDVI値と比較し、どちらか1に近い方を出穂期とする。
⑧根釧地域では海岸線からの距離を計算し、表2を用いて補正を行う。
(3)このシステムでは、計算日は6月とした方が予測精度は良好であった。
今後は当システムを運用し、情報提供を行いながら現地適合性のデータを蓄積することにより、予測精度の向上を図る必要がある。
10.成果の具体的数字
表1 チモシー「センポク」2年目草地のDVR値一覧
日平均気温℃ | DVR(T) | 可照時間(時間) | DVR(L) |
−2.5℃未満 | −0.018131 | 13.125時間未満 | 0.00215447 |
−2.5〜−1.5 | -0.016674 | 13.125〜13.375 | 0.00323171 |
−1.5〜−0.5 | -0.015077 | 13.375〜13.625 | 0.00431568 |
−0.5〜 0.5 | -0.013203 | 13.625〜13.875 | 0.00538108 |
O.5〜 1.5 | −0.010761 | 13.875〜14.125 | 0.00636410 |
1.5〜 2.5 | −0.007657 | 14.125〜14.375 | 0.00718593 |
2.5〜 3.5 | −0.004619 | 14.375〜14.625 | 0.00780381 |
3.5〜 4.5 | −0.002519 | 14.625〜14.875 | 0.00822134 |
4.5〜 5.5 | −0.001170 | 14.875〜15.125 | 0.00850395 |
5.5〜 6.5 | 0.000235 | 15.125〜15.375 | 0.00878658 |
6.5〜 7.5 | 0.002490 | 15.375〜15.625 | 0.00906920 |
7.5〜 8.5 | 0.004608 | 15.625〜15.875 | 0.00935183 |
8.5〜 9.5 | 0.005552 | 15.875〜16.125 | 0.00963447 |
9.5〜 1O.5 | 0.006039 | 16.125〜16.375 | 0.00991711 |
10.5〜 11.5 | 0.006964 | 16.375時間以上 | 0.01019980 |
11.5〜 12.5 | 0.009879 | ||
12.5〜 13.5 | 0.014588 | ||
13.5〜 14.5 | 0.018924 | ||
14.5〜 15.5 | 0.021773 | ||
15.5〜 16.5 | 0.022847 | ||
16.5〜 17.5 | 0.021181 | ||
17.5〜 18.5 | 0.018297 | ||
18.5〜 19.5 | 0.015305 | ||
19.5〜 20.5 | 0.012478 | ||
20.5℃以上 | 0.009651 |
図1 チモシー1番草の出穂期予測システム
表2 草地の経過年数および海岸からの距離による出穂期予測結果の補正日数
経過年数(年) | 補正日数(日) | 海岸からの距離(㎞) | 補正日数(日) |
2〜3年目 | 0日 | 10㎞以下 | −2日 |
4年目以降 | −1日 | 10〜40km | 0日 |
40㎞を越える | 1日 |
図2 チモシー1番草出穂期の補正予測日と観測日の適合性
11.成果の活用面と留意点
当面、根釧地域のチモシー(早生型)を基幹とした採草地に適用する。
12.残された問題点とその対応
1)HARISによる運用
2)全道各地域における変数およびパラメータの設定
3)早生品種以外のチモシーおよびその他の草種への対応
4)草地の経過年数や立地条件が出穂期に及ぼす影響の解析