成績概要書(平成7年1月)
1.課題の分類  総合農業 経営
           北海道 経営
2.研究課題名  稲作地帯における農業法人化の動機とその成立条件
          −農業法人化の動機とその成立・誘導条件−
3.予算区分  道費
4.研究期間  平成5年〜平成6年
5.担当  道立中央農試経営部経営科
6.協力・分担関係  十勝農試研究部経営科
             根釧農試研究部経営科

7.目的
 新政策のもとでは協業経営体による法人経営の創出が打ち出されている。しかしながら、本道の稲作地帯においては今後も個別前進的営農展開の可能性を有しているため、協業経営とは異なる法人設立の可能性を吟味する必要がある。このため、農地流動化の条件を異にする地域において法人経営を展開させてきた事例から、本道稲作地帯における法人の形態とその成立条件を明らかにする。

8.試験研究方法
(1)稲作地帯における農業生産法人の類型化
(2)農業生産法人の成立条件
(3)調査対象地区 1)大規模稲作経営の展開地区…空知管内A・B町
            2)小規模稲作経営の展開地区…空知管内C市・上川管内D町

9.結果の概要・要約
(1)本道の稲作地帯における耕種型法人は、有限会社の1戸1法人が主であり、特に石狩・南空知・中空知の地域は1世帯家族による法人と考えられる構成員が4人以下の法人が大部分である。農事組合法人に多くみられる共同法人は経営体数が減少する傾向にあり、この中で近年増加しているのは作業受託や施設野菜を部門協業として取り入れている法人である。このことから、稲作地帯を代表する法人として1戸1法人の類型と作業受託の共同法人の類型とが考えられた。
(2)1戸1法人が多く存しているA町においては、稲作を経営の基幹部門とする法人の多くは昭和40年代に設立されており、昭和55年以降設立の法人はみられない。法人においては、転作奨励助成金の圧縮記帳による損金算入を行えるが経営の内部留保を高める面では、個人経営の方が法人よりも有利であり、昭和50年代に本格化した転作はその後の法人化を阻害する条件の一つとなったと考えられた。
(3)1戸1法人の場合、法人化による税制面での有利性は家族構成や転作の程度により異なるが農業所得が1,200万円以下の経営では所得税に大差はなく、農業所得1,400万円以上の経営になって発現することが認められた(図1・図2)。したがって、恒常的に1,400万円以上の農業所得を形成する大規模経営において法人化による節税が作用すると考えられた。ただし、この場合にも転作奨励助成金の圧縮記帳が節税の条件となるので資金管理への配慮が必要である。
(4)農地の流動化が進まない市街地周辺において部門協業によって作業受託を拡大させている共同法人(構成戸数2戸の農事組合法人)事例から耕地面積8.3ha規模で農家所得856万円(平成3〜5年平均)を形成していることが認められた(表1)。このことから農地の流動化が停滞し農業者の高齢化が進む地域であって小麦転作が定着している場合には作業受託法人の形成による所得拡大が可能であると考えられた。
(5)ただし、共同の作業受託法人においても構成員の間には経営者と被雇用者とへの分化がみられる。構成員の労働内容が等質的な作業受託組織の場合は共同性が維持されるが、法人における今後の事業選択によっては、1戸1法人へ分化する要因を有している。

表1  構成員農家Sの所得推移(単位:千円)
  H3年 H4年 H5年
農従者(人) 2 2 2
耕地面積(ha) 8.3 8.3 8.3
農業収入 12,380 13,054 14,340
農業経営費
   (うち償却費)
   (うち支払利子)
8,105
(1,768)
(442)
9,683
(1,756)
(438)
9,031
(1,789)
(337)
事業所得 4,275 3,371 5,309
配当所得 34 35 29
給与所得 4,043 3,.943 4,611
その他農外所得 16 - -
所得合計 8,367 7,350 9,949
農従者1人当り所得 4,184 3,675 4,975
注)所得は税引き前の所得。

11.成果の活用面と留意点
 1戸1法人については稲作地帯全般に適用可能であるが、作業受託法人については転作が定着している地帯に限られる。

12.残された問題点とその対応
 作業受託における共同法人の個人経営受託に対する有利性の解明が問題として残されている。