1.課題の分類 北海道経営 2.高生産性・高収益酪農法人経営の形成手順と運営方式 −農業法人化の動機とその成立・誘導条件− 3.予算区分 道費 4.研究期間 平成5〜6年 5.担当 根釧農試 研究部 経営科 浦谷 孝義 6.協力・分担関係 中央農試 経営部経営科 十勝農試 研究部経営科 |
7.目的
酪農法人経営の生産性・収益性および構成員の所得水準を明らかにするとともに、法人経営の形成手順およびこれを安定的に存続・発展させうる管理・運営のあり方を解明する。8.試験研究方法
1)検討項目:①酪農動向と法人経営、②酪農法人経営の形成過程、③酪農法人経営の運営
方式、④酪農法人経営の生産技術と収益性
2)検討方法:根釧、十勝および網走管内の酪農法人経営を対象として、既存資料の収集、
聞き取り調査を実施する。規模・装備等から「高生産性・高収益」法人経営の代表として、また法人化・共同化の動機や経過を検討する素材としてA法人経営を選定した。設立された経営の運営問題やその解決策を検討するためにBおよびC法人経営を選定した。さらにCは構成員の確保のあり方を検討するうえで参考になる事例でもある。
9.結果の概要・要約
1)酪農法人経営の生産性および収益性
①A法人経営の生産性・収益性は以下の通りである。経産牛1頭当たりの勤務時間は70時間強、従事者1人当たりの牛乳生産量は335t、男性の年間勤務時間は3,900時間弱(女性:2,600時間)、男性の年間休日取得日数は22日(同:33日)、1人当たり純生産は937万円である。労働時間が長く休日取得日数が少ないのは、設立後日が浅いことと疾病多発の影響によるもので、近い将来年間勤務時間3,000時間、休日取得日数50日程度は可能と考えられるので、フリーストール方式の個人家族経営のトップクラスの生産性は実現可能と推測される。
②現状では、営業利益率、付加価値率、総資本利益率等収益性はほぼ標準的なレベルにあるが、自己資本比率、当座比率等安定性は必ずしも良好とは言えない。借地による自給飼料増産により購入飼料費の削減を計画中であるが、物財費を中心とする費用の低減により収益を向上し、資本蓄積を進めて安定性を高めることが必要であろう。
③給料・報酬の実績は、1人当たり650万円、1戸当たり1,200万円強である。これは分配原資を超えているが、理由は構成農家の負債償還を保証しなければならないためであり、給料の引き下げは難しい。今後は物財費を中心として費用の低減を図り、収益性を向上して、分配原資を増加させる必要がある。
2)酪農法人経営の形成手順
A法人経営の設立過程とB、C法人経営の組織運営の検討により、設立過程で特に重要な
検討事項として4点をあげることができる。第1は構成農家の生活と法人経営の収支・財務とが両立するか否かの検討で、参加農家の負債額に留意する必要がある。第2は出資の原則と運営の基本方針を明確にすること。既存農家が丸ごと法人に参加する場合は当初は平等主義的な組織運営をとることになるが、世代交代等をも考慮すると、同様の運営を目指すなら農事組合法人を、経済組織としての機動性効率性をより重視するなら有限会杜を選択すべきであろう。第3に当面(3〜5年)の到達目標を設定すること。法人化前の個人経営には格差があるが、上層農家は法人化によって所得等の面で不利益を受ける可能性があり、そうした状態を長く続けることはできない。第4に牛舎施設の規模・構造と資金運用の見通しを慎重に検討することである。この過程では、できるだけ参加者全員が意見を出せる雰囲気が大切であり、その面での農協・普及センターの役割は大きい。
3)酪農法人経営の運営方式
①大規模な施設投資を行うため、次の施設投資を伴う規模拡大のさいには資本蓄積等内部の
準備とともに、出荷乳量枠の確保や価格動向等に関する見通しが重要なため、意思決定には時間を要する。この間の収益確保のために飼料費低減の努力が必要である。
②既存の酪農経営の共同化により法人経営が設立される場合、構成員は所有者=管理者=労働者という性格を持ち、平等に扱われる。役員(特に代表)は労働以外にも責任を負うが報酬は必ずしもこれに見合ったものになっていない。また社会保険上は役員(同)は雇用主とみなされ、退職給与引当や雇用保険の対象から除外され、身分の安定性に格差が生じている。役員(同)報酬を高める方向で見直し、小規模企業共済制度等への加入が必要である。
③今後は外部からの参入者(必ずしも個別経営としての独立を望まない人)をも積極的に受け入れることが望まれる。出資金額を低くする一方内部積立を充実する、組織運営の原則を明確にして参入者が選択し易いようにする等、運営上の工夫が必要であろう。
10.成果の具体的数字
表1 対象法人経営の概況
法人経営事例 | A | B | C |
法人(経営)形態 | 農事組合法人(酪専) | 有限会社(酪専) | 農事組合法人(畑酪) |
設立年月日 | 1991年4月 | 1964年5月 | 1966年4月 |
出資額 | 63,000千円 | 17,312千円 | 7,650千円 |
構成戸数(従事者) | 6戸(11人) | 7戸(10人) | 5戸(9人) |
構成員数 | 6人(組合員) | 10人(社員) | 9人(組合員)) |
耕地面積(法人) | 189ha(Oha) | 189ha(73ha) | 205ha(70ha) |
飼料作面積 | 189ha(0.28ha/頭) | 189ha(0.63ha/頭) | 113ha(0.57ha/頭) |
経産牛(総)頭数 | 460(901)頭 | 216(377)頭 | 130(250)頭 |
牛舎様式 | フリーストール(20頭複列) | フリーストール(12頭複列) | フリーストル(6頭複列) |
出荷乳量(頭当り) | 3,683t(8,949kg) | 1,657t(7,909kg) | 1,170t(9,726㎏) |
表2 対象法人経営の成果
項 目 | 単位 | A | B | C(酪農) | C(全体) | |
生 産 性 |
経産牛当たり勤務時間 | 時間 | 71.5 | 119.4 | 121.1 | - |
1人(時間)当り牛乳生産量 | t(㎏) | 335(112) | 166(64) | 213(74) | - | |
I人当り年間勤務時間(女) | 時間 | 3886(2606) | 3174(1956) | 平均2862 | 3352(2010) | |
1人当り休日取得日数(女) | 日 | 22(33) | 48(68) | - | 37(94) | |
1人(時間)当たり純生産 | 千円 | 12805(4.3) | 6701(2.6) | 8255(2.9) | 11089(3.9) | |
収 益 性 |
経常利益率 | % | 1,1 | 4.1 | 7.4 | 12.2 |
営業利益(所得)率 | % | 5.2(30.7) | 9.9(28.1) | 9.5(26.3) | 14.8(30.4) | |
付加価値率 | % | 39.0 | 38.4 | 37.9 | 43.4 | |
総資本利益率 | % | 4.6 | 4.4 | 3.9 | 11.6 | |
安 定 性 |
自己(固定)資本比率 | % | 20(58) | 17(71) | - | 38(92) |
流動(当座)比率 | % | 81(37) | 47(21) | - | 380(289) | |
償還比率 | % | 16 | 47 | - | 24 | |
分 配 |
1人当り給料等(分配原資) | 千円 | 6481(8664) | 3399(4451) | - | 4056(7631) |
1戸当り給料等(分配原資) | 千円 | 11882(15885) | 4856(6359) | - | 7300(13737) | |
1戸当り標準分配額 | 千円 | 17257 | 6722 | - | 10090 |
11.成果の活用面と留意点
1)A法人の年間労働時間や休日取得日数は、今後B法人程度まで改善可能と思われる。
2)法人共同経営設立に当たっては、新規投資の回収、構成員の既存負債を考慮した給 料・報酬の確保およ び内部蓄積を考慮して綿密に経営計画を検討する必要がある。
12.残された問題点とその対応
1戸1法人および他作目における法人経営の形成・運営との相違