1.課題の分類 総合農業 営農 経営 1-2-3 北海道 経営 2.研究課題名 道央稲作地帯における切花産地の類型別特徴と産地展開の方向 (移出型花き産地の成立条件と育成方策) 3.予算区分 道費 4.研究期間 (平成4〜5年) 5.担当 中央農試経営部 流通経済科 6.協力・分担関係 |
7.目的
切花の産地が拡大し、それに伴って産地形成の形態や抱える課題も多様化している。本研究は生産シェアの大きい道央稲作地帯における切花産地の類型別特徴と今後の展開方向を明らかにして、道産切花の生産拡大並びに新規産地育成に資することを目的としている。
8.試験研究方法
(1)道央稲作地帯における切花の栽培、出荷動向からみた切花産地の類型化。
(2)類型の代表的産地における産地形成の特徴と今後の展開方向
9.結果の概要・要約
(1)道央稲作地帯における切花産地の類型と特徴
昭和50年代の後半を境に産地形成の形態が異なってきおり、特徴として以下の点があげられる。
①先発産地では生産組合が独自に産地形成を進めた場合が多いが、新興産地では農協役場、普及センター等の主導性が強い。
②先発産地では栽培が容易な宿根カスミソウ等から産地形成が進み、次第にカーネーション等が増える傾向にあったが、新興産地では基幹品目が多様化し、しかも当初からアルストロメリアやトルコギキョウ等の栽培が多くなっている。
③先発産地では地場市場から移出市場へと漸次的に移行し、特定市場との結び付きが強いのに対して、新興産地では産地形成の当初から移出割合が高く、取引関係も合理的になってきている。
(2)類型別産地形成の特徴と展開の方向
上述した類型の代表事例としてA、B両産地における産地形成の特徴と展開の方向を整理すると以下のようになる。
A産地(先発産地:札幌近接の中規模稲作地帯)
①稲作の生産調整を契機に昭和40年代の中頃から切花の栽培が始まったが、農業地帯における切花栽培の機運が乏しく、生産組合の独自活動によって産地形成が進められた。このような産地形成の経緯のもとでは特定市場と生産組合とが結びついた閉鎖的となり、産地拡大が停滞しやすいが、A産地ではその後も産地の拡大が著しい。その要因の一つは複数の若手農家がリーダーとなり、研修や技術交流、共選共販体制の早期確立等の開放的な生産組合活動が進められてきたこと。二つにはたまねぎ、その他野菜が複合作物として定着しなかったこともあって農協の取り組みが強化されたことによる。
②SPカーネーション、スターチス等の基幹4品目は本共選、宿根カスミソウ他6品目も箱共選が行われ、共選作業の農家出役を利用して規格の統一や栽培技術の交流が図られている。共選料金も本共選の負担を軽減する体制をとっており、規格の統一と大量継続出荷では先進的な集出荷体制が確立されている。その結果SPカーネーションでは相対的に高値水準を実現して農家の所得水準の向上に寄与している(表1、2)。
③しかし、新規栽培農家が増加する一方、旧来農家の専業化が進行しており、それに伴って栽培品目が多様化し、農家間の技術格差や出荷時期による価格差も大きくなっている(図1)。また分荷対応も、旧来の市場との結び付きから大規模市場への出荷が少なく共選共販のメリットを生かすには不十分であり、全量が航空輸送に依存しているため輸送費が割高となる等の問題がある。これらの課題を解決する方向として、組織的な技術や営農指導体制の確立、産地拡大を基礎にした分荷先市場の再編や輸送体制の再編を長期的に進める必要があろう。
B産地(新興産地:北空知中規模稲作地帯)
①米の単収や品質向上が重視され、複合作目の導入が立ち遅れてきたが、稲作の先行き見通しが深刻になる中で、平成元年からメロン、ねぎ等の野菜とともに切花の産地形成が進んできた。切花の品目は当初宿根スターチスが導入されるが、その後は、ねぎ、メロンの補完作目としてアルストロメリアやストックが中心となっており、アルストロメリアの栽培は道央では最も早い。平成元年には切花生産組合が設立され、栽培技術の研修や先進地視察等の活動が進んでいるが、普及センターとの連携が密接で、品目選択や技術指導の徹底、婦人部独自の視察研修等は普及センターの主導のもとに進められている。
②宿根スターチス、ストックは箱共選であるが、その他は個選であり、共選体制は必ずしも十分ではないが、品質や規格統一の基礎となる技術指導が徹底しているため農家間の品質・規格の差が小さい(図2)。分荷先市場は産地規模が小さいにもかかわらず当初から東京、大阪の大規模市場が中心となっており、見本品をもとに合理的な取引が始められた。旧来産地と異なる市場対応を可能にした要因は、生産組合と特定市場との結びつきがなく、アルストロメリアの継続出荷や規格統一の徹底をもとに、農協主導で市場対応が進められたこと、及びホクレンの協同輸送による輸送費負担の軽減等があげられる。共選経費や輸送費をはじめとして集出荷費用が割安なこともあってストックの場合は所得補充に効果をあげている(表2)が、アルストロメリアの場合は投資額が大きく、出荷本数が多いため価格変動による収益変動が大きい。
③このような投資規模や収益を反映して、ストックの副業的な栽培農家は増えているが、切花の比重が大きいアルストロメリアの栽培農家は増えていない。そのため、新規栽培農家の多いストックでは技術指導が徹底しているが、アルストロメリアは技術交流も少ない。今後の産地展開は、切花が副業的な位置づけに留まるか、複合的な位置づけに引き上げるかによって異なるが、産地の拡大強化のためには次の2点が重要であろう。一つは、農家数や品目の増加に対応した営農、技術指導体制の強化であり、これまでの普及センター主導の開放的な体制を生かしつつ、先進農家のアドバイザー起用等によってより広範な指導体制に強化する必要がある。もう一つは、これまでの農協主導の市場対応を生かして、協同輸送を基盤に系統内の協力体制の強化・ロットの拡大を図ることである。
10.成果の具体的数字
表1 A、B産地の概況
指 標 | A産地 | B産地 | ||
農業 概況 |
平均耕地 ha | 7.0 | 6.8 | |
兼業(第2)農家割合 % | 20.8 | 16.7 | ||
農産額中野菜割合 | 5.5 | 19.9 | ||
切花割合 | 10.0 | 1.9 | ||
切花 生産 出荷 概況 |
切花栽培戸数 | 99 | 36 | |
同上H4/S63 | 165 | 1800 | ||
切花生産額 | 854558 | 49024 | ||
同上H4/S63 | 256 | 1877 | ||
H4年 生産 額の 割合 |
カスミソウ % | 20.5 | 0.0 | |
カーネーション | 22.2 | 0.0 | ||
デルフィニューム | 12.0 | 0.0 | ||
スターチス | 8.8 | 8.0 | ||
アルストロメリア | 0.0 | 56.9 | ||
ストツク | 0.1 | 18.9 | ||
その他 | 36.5 | 16.2 | ||
道外移出量割合 % | 67.2 | 63.1 | ||
共選 品数 |
本共選 | 4 | ||
箱共選 | 6 | 2 |
表2 主要品目の費用と所得
指 標 | A産地 | B産地 | |||
カスミソウ | カーネーション | ストック | アルストロメリア | ||
100 本当 |
販売単価 | 21400 | 6890 | 6100 | 6500 |
生産費用 | 9914 | 3196 | 1044 | 4116 | |
流通資用 | 7609 | 2105 | 2398 | 1794 | |
内共選、出荷費 | 135 | 532 | 13 | 14 | |
包装費 | 1920 | 236 | 299 | 260 | |
運賃 | 3200 | 510 | 1344 | 750 | |
手数料 | 2354 | 827 | 742 | 770 | |
所得 | 3877 | 1589 | 2658 | 590 | |
一戸平均所得額(千円) | 345 | 550 | 423 | 4781 | |
出荷本数(百本) | 89 | 346 | 159 | 8103 |
11.成果の活用と留意点
事例的な検討であり、品目選択等は地域の農業条件によって異なる
12.残された問題点とその対応
1)切花栽培農家の類型別技術水準と農家経済の実態解析
2)切花の産地形成と価格補償制度のあり方