成績概要書(平成7年1月)
1.課題の分類  総合農業 営農 経営 2-5-9
           北海道 経営
2.研究課題名  新規参入酪農経営の成立条件と地域支援のあり方
           (酪農新規入植経営の成立条件と地域支援のあり方)
3.予算区分  道単
4.研究期間  5〜6年
5.担当  根釧農業試験場研究部
       経営科 金 子 剛
6.協力・分担関係  なし

7.目的
 新規参入を目指した人材を対象に参入前、参入時、参人後の指導方法、内容、地域的支援体制のあり方を現地実態等を踏まえ明らかにし、本道酪農の人的資源の増強に資する。

8.試験研究方法
 1)新規参入経営実態調査
 2)関係機関調査

9.結果の概要・要約
1)参入経営の経営概況
 参入から時間が経過した新規参入経営は比較的高い1,000万円以上の農業所得を実現しているが、追加投資分を含む元利返済額が多く、それほどの余裕はない。これは中古機械が多いため新規に購入するものがあるためである。
2)労働力
 多くは参入年齢が若く夫婦による営農であるため、乳幼児を抱えており労働投入には制約がある。そのため生産様式にもよるが飼養規模を制約され40頭前後の経産牛飼養規模となっている。参入時の規模が多頭化するにつれ、高い飼養管理能力が求められることと、不足する労働力の調達とコストが課題となる。
3)自己資本
 参入時に持ち込む自己資金が少なく、あっても生活費や当初の運転資金向けに終わる例が多く営農資金調達のほとんどは借入に依存する。その額は酪農の平均負債額の2,000万円台を大きく上回りA町では5,000万円前後となっている。そのため当初からきびしい経営である。
4)技術修得
 これまでの技術修得は農家実習に依存していたが、A町農協は研修牧場を設置し新たな技術修得の場を設け参入希望者の研修を行っている。このような研修牧場の設置に向けた動きは他の市町村にもみられる。しかし、これまで行われてきた実習や研修は必ずしも満足のいくものではなく、指導する側のレベルや人材確保、財源確保などで課題がある。
5)地域支援
 追及び市町村により各種の支援が行なわれている。特に各市町村では独自の支援を行っており内容は財政援助が中心である。また、リ一ス事業(通称)は草地酪農地帯への新規参入を促したとみられる。町村によっては農場価格の半分程度まで財政補助を行っているところもある。
6)地域支援の方向
 新規参入が一般的になるにつれて、受入システムを整備する必要性がある。新規参入に関する情報の整備や希望者への総合的な研修の場の提供などである。研修中は自己資金の蓄積、最低限持込資金を減少させないための対策が求められる。また、参入者受入の必要性を地域に啓蒙する必要がある。新規参入だけではない農村での就農を希望者する人材を受入ることは様々な面でメリットが考えられる。特に新規参入者の受入れを行うことは農地の流動化、地域社会の活性化などにも効果があると期待できる。研修施設の設置においては財源、人材確保面などの問題から広域的に取り組むことも検討されるべきである。加えて今後は、情報網を整備し担い手の循環に役立てる方向が強く望まれる。
7)経営の確立
 新規参入経営は彼らが経営移譲するときに、どのような経済状況であるかが重要であり、より長期的な経営および生活設計を作成することが望まれる。特に追加投資、参入時の資金返済、家計費の増大時期を十分に踏まえて参入させることが必要で、そのためには確実に収益をあげられるように研修を行うことが必要と考える。また、40頭前後の経営試算では現状のリース料金の半額補助の範囲内でも個体乳量7,000㎏、所得率25%で開始して最終的に所得率を40%強に向上させれば成立する可能性がある。しかし、生産性の微妙なバランスでその成果も大きく変動するために事前の研修、参入後の指導の強化が求められる。そのためには参入者が自己資金を携行してくること、また地域支援の中でも資金蓄積のための対策を講じる必要がある。
8)今後の方向
 高齢農家の増加と地域社会の維持のため新規参入の増加が見込まれ、様々な地元支援が行われている。それに伴う財政負担が増加するため、地元負担増加への制度および財政的支援を検討しなければならない。

10.成果の具体的数字

図1  新規参入情報の収集・発信

 

図2  生産性の違いによる累積余剰の差

注1)乳量水準は1頭当たり7000kgを最終目標
注2)凡例のある・なしはリース料の補助のある・なしのこと

 

図3  泌乳水準の違いによる累積余剰の差

注1)生産性の水準は所得率25% 注2)凡例のある・なしはリース料の補助のある・なしのこと

 

11.成果活用の留意点
 市町村等の地域段階でも行える経営指導など個別的対応の他に、広域及び道、国の支援により効果的に成果が現れると考えられる参入ルートの整備や研修施設などは、事前に十分な検討が必要である。

12.残された課題
 参入時の生産規模に応じた投資限界及び新規参入経営が機械・施設の追加投資をどれだけ長期的必要とするかを平均的な金額等の指標で示す必要がある。