成績概要書(作成 平成7年1月)
1.課題の分類 総合農業 経営 1-2-3 北海道経営
2.研究課題名 移出野菜の保鮮輸送の実態と産地対応の方向
       −鮮度保持を要する北海道農産物の低コスト物流システムの確立−
3.予算区分 民間との共同
4.研究期間 (平成4〜5年)
5.担当 中央農試経営部 流通経済科
6.協力・分担関係 社団法人北海道地域農業研究所

7.目的
 野菜、牛乳等を中心に道産農産物の移出が一層増加する見通しにあり、いずれも保鮮輸
送を必要としている。高品質で安価な道産農産物の供給のためには、保鮮輸送の効率化や
コスト低減が重要になっている。本研究は移出野菜の保鮮輸送の実態を把握し、今後の産
地対応のあり方を明らかにしようとするものである。

8.試験研究方法
(1)農協、輸送業者を対象としたアンケート調査
(2)クールコンテナの開発利用の実態調査と産地対応の検討
(3)積合せによる保鮮協同輸送の実態調査と産地対応の検討
9.結果の概要・要約
(1)移出野菜の保鮮輸送の実態(アンケート調査)
①ばれいしょ、たまねぎ、かぼちゃ等の一部を除き、殆どの品目が保鮮輸送を主としてお
り、保鮮輸送の移出の伸びが大きい。保鮮輸送の輸送手段別割合ではトラック・フェリーが60%を占め、JRコンテナ39、航空機3となっており、JRコンテナの割合が増加する傾向にある。②保鮮輸送の期間は夏秋の4〜5ケ月と期間が短い上にピークが鋭い。そのため、割高な保鮮輸送手段の稼働率が低く、輸送業者は台数の増加よりも超勤や傭車等によってピークに対応する場合が多い。他方荷主側の農協では、輸送の確保のために特定輸送業者との固定的な結びつきを強めたり、同一品目でも多様な輸送手段を利用する等の対応を行っている。③以上のような実状から、保鮮輸送の問題点では、農協、輸送業者ともに「保鮮輸送手段の不足」が最も多くなっている(表1)。この他「流通の一部で保冷が欠ける」や「運転手の知識不足」等の意見もやや多く、その結果、移出先から「品質面で苦情を受けた」農協が80%弱に上っている。④保鮮輸送手段不足の改善方向として農協間の積合わせ協同輸送が進んでいるが、今後の移出の増加に対応するためには、荷主側の対応と同時に立ち後れているJRの保鮮輸送をはじめとする保鮮輸送体制の拡充が必要であろう。
(2)クールコンテナの開発利用の実態と産地対応の方向
①冷凍エンジンの搭載規制から、鉄道の冷凍輸送は著しく立ち後れていたが、国鉄の民営
化に伴って規制が解除され、冷凍コンテナの開発、普及が急速に進んできた。近年、急増しているのは12フィート(5t)の分離型で、集荷から配送までの一貫した保冷が可能となり、特にY社製は温、湿度管理等の性能が向上している。利用形態は、コンテナの開発、所有メーカーからのレンタルやリースによって通運業者が利用する場合が多い。②クールコンテナの利用事例では、道央から大阪までは3日め販売が可能であり、Y社のチルド輸送の品質評価が高い。しかし輸送料金の水準は、航空機に比べると著しく低いが、冷凍トラック輸送に比べると2倍近く割高となっている(表2)。クールコンテナが割高となる要因は、a)普及台数が少ないために製造コストが高い。b)「帰り荷」がなく、空コンテナの回収費用が必要な場合が多い。c)利用時期の季節性や空コンテナの回収期間等からコンテナの稼働率が低いこと等による。③保鮮輸送のモーダルシフトを進めるためにはクールコンテナの利用拡大が重要であり、そのための輸送費低減の方向としては、開発、レンタル会社の製造コストの低減や利用調整の効率化と同時に、荷主側でも都府県産地との連携による「帰り荷」の確保やコンテナの季節別利用調整等を促進する必要があろう。

(3)農協間協同輸送の実態と展開の方向 ①アスパラガスの移出における航空輸送から冷凍トラック輸送への転換を図るため、上川で始まった農協間の協同輸送が、現在、全道的に拡大している。協同輸送は、ホクレンの支所を単位に大型冷凍トラックによる農協間の積合わせ輸送を行うもので、東京、名古屋、大阪には中継配送業者を配置し、集荷から配送までの一貫的な保鮮輸送システムとなっている。ただし、いずれの地域も出荷量や出荷先は個々の農協が決めており、輸送のみの協同である。
②協同輸送の実績では、先行の上川では産地の展開に伴って農協の独自輸送が拡大し、協同輸送が減少している。それに対して近年網走、十勝が急増し、輸送量の割合では網走が最も大きくなっている。網走では、畑作物やたまねぎの過剰を契機に昭和63年頃から根菜類や葉茎菜類の栽培が増加しており、協同輸送が、輸送条件の厳しい遠隔地域における新規導入野菜の産地形成に大きな役割を果している。しかし参加農協の一部は当初からロットのまとまり難い時期や品目のみを協同輸送に依存しており、また産地の拡大に伴って協同輸送から農協の独自輸送に切り換える品目も増えつつある。
③産地拡大に伴って協同輸送から農協独自輸送に転換してゆく要因は、一つは運賃の格差、もう一つは協同輸送が輸送のみの協同に留まっていることによる(表3)。過積載規制によって積載量の違いによ る運賃格差差は縮小するが、集荷、配送条件の違いによる運賃格差は依然として残る。従って協同輸送が輸送のみの協同に留まる限りは、ロットの拡大に伴って農協の独自輸送への転換が進むのは必至であろう。しかし、協同輸送を通じて地域内の大量のロットがまとまっており、これを生かしたブランドの統一や協同の分荷に結び付ける協同出荷に展開させる場合には、運賃の割高さを上回る価格面での上昇や安定が可能になろう。

10.成果の具体的数字

表1  保鮮輸送の問題点(回答割合:%)
機関
項目
農協 輸送
業者
○冷凍保冷トラック不足 18 23
○JR保冷コンテナ不足 23 12
○航空保冷コンテナ不足 6 8
○保冷技術開発立遅 12 7
○流通一部保冷欠如 14 14
○交通障害鮮度低下 13 8
○物流業者知識不足 6 7
○収穫予冷方法不適 8 16
○その他 1 5
注)H4年度アンケート調査

 

表2  鮮度保持輸送の輸送手段別運賃(札幌発)
(単位:束kg当は円、他は千円)
  品目 輸送手段 積載量
(ケース)
運賃 内コンテナ
レンタル料
集荷料 配送料 合計
(税込)
束kg当
輸送費
指数
種類 規格

ほう
れん
そう
コンテナ 12ft 400 95 44.4 17 13.5 130 16.2 100
トラック 10t 1,900 250       258 6.8 42
航空   400 176   22.2 21.7 226 28.3 175
にん
じん
コンテナ 12ft 500 95 44.4 17 13.5 130 25.9 100
トラック 10t 1,600 250       258 16.1 62

ほう
れん
そう
コンテナ 12ft 400 116 53.8 17 13.5 150 18.8 100
トラック 10t 1,900 330       340 8.9 48
航空   400 267   22.2 21.7 320 40.1 213
にん
じん
コンテナ 12ft 500 116 53.8 17 13.5 150 30.1 100
トラック 10t 1,600 330       340 21.2 71

 

表3  網走Y農協の輸送方法とケース当運賃(単位:円)
  東京 名古屋
冷凍トラック JR
普通
コンテナ
航空 冷凍トラック JR
普通
コンテナ
航空
協同
輸送
農協
ロット
協同
輸送
農協
ロット
ながいも 190   200   214   207  
軟白ねぎ 245 200     265      
ブロッコリー 300       355 217    
アスパラ 480       575      
ホウレンソウ 550 530   750 670 560   960
いんげん         180      
かぼちゃ 275 206 179   295 218 180  
ごぽう 275 206 179   295 218 180  
にんじん 275 206     295      
 注)農協ロット運賃は1車当運賃から試算した。

11.成果の活用と留意点
 平成6年5月からの過積載規制の実際影響は考慮されていない
12.残された間題点とその対応
 消費地段階における保鮮輸送の実態解明