1.課題の分類 畜産 めん羊 栄養飼料 滝川畜試 北海道 家草合同 2.研究課題名 タモギタケおよびヒラタケ処理による小麦稈の飼料価値改善技術 3.予算区分 地域重要新技術 4.担当 滝川畜試 研究部 畜産資源開発科 5.研究期間 (平成3年〜5年) 6.協力・分担関係 埼玉県畜試 飼料部 熊本農研セ 畜研 飼料生産利用部 |
7.目的
小麦稈のリグニンを分解・除去して良質な繊維質飼料に変換するため、作出・選抜した担子菌による処理技術を開発し、家畜を通して担子菌処理した小麦稈の飼料価値を明らかにする。このことにより本道における小麦稈の有効利用の促進を図る。
8.試験研究方法
(1)担子菌処理法の検討(平3〜5年)
1)担子菌処理に用いる菌種、薗株の選抜
2)交雑育種法による有用なヒラタケ菌株の作出
3)担子菌処理温度の検討
4)雑菌処理法の検討
5)コンパクトペールを利用した大量処理法の検討
6)栄養材を添加した小麦稈培地の消化性
(2)担子菌処理した小麦稈培地の飼料価値(平4〜5年)
1)小麦稈培地に対する担子菌の処理期間と栄養価
2)処理に用いた担子菌菌株を異にする小麦稈培地の栄養価
3)ヒラタケTBU1-146で処理した小麦稈培地の栄養価
4)担子菌処理した小麦稈培地の飼料価値査定
9.結果の概要・要約
(1)担子菌処理法の検討
1)稲わらおよぴ小麦稈培地における担子菌菌糸の伸長速度、処理後培地のセルラーゼによる乾物分解率(Ce-DMD)を指標とした消化性から、タモギタケケ タ82-1およびヒラタケTMI 30026を選抜した(表1)
2)交雑育種法により、ヒラタケTMI 30026よりすぐれたTBU1-146を作出した(表1)
3)タモギタケ、ヒラタケによる小麦稈培地のCe-DMDを改善効果は25℃でもっとも高い菌株が多いが、15℃または30℃でもCe-DMDを改善する菌株を見いだした。
4)雑菌の処理温度は小麦稈培地では80℃15分で十分であると考えられた(表1)。
5)小麦稈をタモギタ タ82-IあるいはヒラタケTMI 30026で処理してCe-DMDの改善を図る場合、栄養材(米ぬか)を添加する必要はないと考えられた。
(2)担子菌処理した小麦稈培地の飼料価値
1)担子菌処理で小麦稈培地の採食性や栄養価を改善する場合の処理期間は担子菌の菌糸が小麦稈培地に蔓延した後もさらに処理を継続する必要があり、2.5L容きのこ培養用袋を用いる場合、50日間は必要と考えられた(表1)。
2)交雑育種法で作出したヒラタケTMI 30026菌株の利用で小麦稈培地の栄養価が顕著に改善された(表1)。
3)タモギタケ タ82-1で処理した小麦稈培地を粗飼料としてラムに長期給与したところ、処理した小麦稈培地に由来するTDNの摂政量が無処理の小麦稈よりも51%多く、日増体量は18%多かった(表2〜4)。
以上のことから、タモギタケ タ82-1処理により小麦稈の飼料価値を改善できることが示されたが、ヒタタケTBU-146やTMI 30026処理でもほぼ同様な効果が期待できるものと推察された。
I0.成果の具体的数字
表1 小麦稈に対する担子菌の処理条件と栄養価の改善程度
菌株 | 処理 温度 |
雑菌の 処理1) |
培地の大きさと 培養期間 |
乾物消化率 の改善 |
TDNの 改善 |
(無処理小麦稈との比較、%) | |||||
タモギタケ タ82-1 | 15〜25℃ | 80℃15分 | 2.5L PP袋で50日 コンパクトベールで90日2) |
+3 | -1 |
ヒラタケ TMI30026 | 15〜25℃ | -1 | -5 | ||
ヒラタケ TBU1-146 | 20〜30℃ | +5 | +10 |
表2 ラムに給与した飼料の栄養価
給与飼料 | DCP | TDN |
(DM%) | ||
タモギタケ処理 小麦稈培地1) |
0.3 | 42.2 |
無処理小麦稈 | 0.0 | 45.1 |
配合飼料 | 16.1 | 83.5 |
表3 ラムによる平均摂取量
成分 | タモギタケ処理 小麦稈培地給与区1) |
無処理 小麦稈給与区 |
||
処理小麦稈 | 配合飼料 | 無処理小麦稈 | 配合飼料 | |
(g/kgBW) | ||||
乾物 | 12.7a | 18.8 | 8.4b | 18.8 |
DCP | 0.1 | 3.1 | 0.0 | 3.0 |
TDN | 5.4a | 15.7 | 3.8b | 15.7 |
表4 ラムの日増体重1)
処理区分 | 日増体量 |
(g) | |
タモギタケ処理 小麦稈培地給与区2) |
178(118) |
無処理小麦稈給与区 | 151(100) |
11.成果の活用面と留意点
(1)担子菌処理に用いる菌株により小麦稈培地の飼料価値が変動するので処理に使用できる菌株は当面、本試験で供試した菌株に限定する。
I2.残された問題とその対応
1)雑菌の侵入による培地の損失を防ぐため、雑菌よりも菌糸伸長が速やかな担子菌菌株を開発する必要がある。
2)新飼料の培地調製等、培地の簡易な大量調製法を検討する必要がある。
3)新飼料として認定される必要がある。