【指導参考事項】

1995003

成績概要書(作成平成8年1月)

課題の分類:
研究課題名:水稲の不耕起・無代かき移植栽培Ⅰ
        不耕起移植栽培(低コスト稲作総合技術開発・水稲中苗の不耕起移植栽培適応性試験)
予算区分:道費、受託
担当科:中央農試稲作部栽培第一科
           農業機械部機械科
           農業土木部生産基盤科
           経営部経営科
     上川農試研究部水稲栽培科
           研究部土壌肥料科 研究期間:平成5〜7年度
協力・分担関係:なし

1.目的

 不耕起移植機を活用して耕起、代かきを省略した不耕起移植栽培技術を確立し、春先の労働競合の軽減、それに伴う規模拡大や土壌の理化学性改善に役立てる。

2.方法

 1)試験地
   空知管内:上幌向(グライ土)、北村(泥炭土)、栗山(灰色低地土)
   上川管内:比布(褐色低地土)、東神楽(褐色低地土)、鷹栖(灰色低地土)
   慣行移植栽培:耕起→入水→代かき→移植2)
   栽培区分不耕起移植栽培:入水(移植6〜10日前)→移植3)
   栽培条件品種:きらら397
   菌種類:中苗マット
   施肥:側条、側条+幼穂形成期追肥、側条十育苗箱施肥マット苗用6条植え不耕起移植機:MFP605VPG5)

 2)試験項目
   ①移植機の性能評価と適土壌、適圃場条件の設定
   ②施肥法の確認
   ③土壌の理化学性改善効果の確認
   ④雑草の発生と防除対策
   ⑤技術導入の経営的評価

3.結果の概要

1)不耕起の移植精度は土壌硬度が高くなるにしたがって低下した。移植精度からみた適応土壌は、クラスト硬度計指示値(パネ定数:2㎏/40㎜)で15㎜以下であった(図1)

2)土壌の硬さ、コンシステンシー特性、土性、スレーキング特性を指標として、移植精度からみた土壌別難易度を可能、やや困難、困難の3段階に分類した(表1)

3)側条施肥と幼穂形成期追肥の組み合わせにより、慣行移植水稲並の収量を確保した(表2)また、被覆尿素(LPS60)用いた育苗箱施肥は窒素の利用効率が高く、今後有望な施肥法とみなされた。

4)不耕起田は、慣行田に比較して、土壌の固相率が大きく、含水比は低かった。また、心土の透水係数が高く、縦浸透量は増加する傾向であった。このことから、透水性の向上が認められた。

5)落水後の地耐力をみると、小型矩型板沈下量は慣行田よりも著しく小さく、地耐力の向上は大きかった(表3)。したがって、コンバインの走行性が大きく向上することを認めた。

6)土壌の酸化還元電位は各試験地とも慣行田より高かった(表4)。これに対応して、2価鉄、ブレイリン酸、アンモニア態窒素生成量が少なかった。

7)スズメノカタビラ、スズメノテッポウなどの「畑雑草」が多発した。その対策として、グリホサート液剤の春処理または秋処理が有効であった。ただし、処理にあたっては稲わらを搬出する必要がある。

8)春季労働(耕起、基肥、代かき、移植)の省力効果は高く、慣行移植栽培技術に比べて15.4〜20.4%の省力化が可能である。また、圃場作業開始日別にみた移植可能面積の変化を検討したところ、排水不良などによって耕起作業の開始時期に強い制約を受けている経営において不耕起移植栽培技術導入の経営的効果が高いものと判断された。

9)以上のことから、不耕起移植栽培では土壌の理化学性とくに土壌還元の抑制と収穫期の地耐力向上効果は極めて高く、また適期作業が遅れる地帯での規模拡大効果が期待される。しかし、この技術の普及にあたっては、移植機の改良による適土壌条件の拡大および雑草の総合的防除技術の確立などさらに改善を要する課題が残されている。

表1 不耕起移植の土壌別難易度の策定
土壌の適応区分 可能 やや困難 困難
作土表層の硬さ
クラスト硬度
(下げ振り深)
15㎜以下
(40〜50㎜以上)
  15㎜以上
(40㎜以下)
コンシステンシー 弱〜中
土性 中〜粗
スレーキング特性
(表層の乾燥)
該当する土壌型 中粒色低地土(東神楽)
中粒灰色低地土(栗山)
無機質表層(中粒)泥炭土(北村)
中粒褐色低地土(比布) 細粒グライ土(上幌向)
細粒灰色低地土(鷹栖)
 注)作土表層の硬さ:移植時

表2 精玄米重(kg/10a)
栽培区分 施肥法 空知 上川 平均
上幌向 北村  栗山  平均  比布  東神楽 鷹栖  平均 
慣行 全層 522 641 592 585(100) 551 579 585 572(100) 578(100)
不耕起 側条 481 608 570 553(95) 485 602 555 547(96) 550(95)
側条+追肥 496 622 585 568(97) 557 660 569 595(104) 582(101)
 注)H6〜H7の平均値、( )は慣行区に対する比率(%)、試験区は補植を行った。
  追肥時期:幼穂形成期、追肥量:N2㎏/10a

表3 収穫時の地耐力(H6年9月)
試験地 栽培区分 小型矩形板
沈下量
(㎝)
円錐貫入抵抗値
(底面積2cm2)
(㎏/㎝2)
上幌向 慣行 17 0
不耕起 1.8 0.4
北村 慣行 3.7 0.5
不耕起 1 1.8
栗山 慣行 11 0.4
不耕起 2 5.3
 小型矩形板沈下量:垂直荷重30㎏
 円錐貫入低抗値:深さ0〜15㎝の平均

表4 土壌の酸化還元電位(mV)
試験地 稲わら 栽培区分 調査時期
分げつ 幼形期 止葉期 出穂期
上幌向 搬出 慣行 183 127 32 -54
不耕起 (+48) (+68) (+113) (+115)
施用 慣行 110 47 -39 -87
不耕起 (+65) (+84) (+96) (+77)
北村 施用 慣行 105 22   -77
不耕起 (+131) (+120) (+101)
栗山 施用 慣行 125 -28   -121
不耕起 (+42) (+20) (+72)
 上幌向、北村:H5〜7の平均値、栗山:H5,7の平均値
 ( )は慣行区との差(不耕起一慣行)

4.成果の活用面と留意点

1)「水稲機械栽培基準2.中苗」に準じて、不耕起移植専用の移植機を用いて行う。その際、別に示す栽培上の注意事頃に留意する。

2)ここで示した適土壌条件は、本試験に供試した不耕起移植機の移植精度から策定したものであり、他の機種についてはさらに検討を要する。

3)移植精度の確保と雑草対策上、不耕起移植栽培の継続が困難となった場合は、慣行移植栽培に切り換える。

5.残された問題点とその対応

1)広範囲な土壌条件にも適応可能な不耕起移植機の開発

2)不耕起移植栽培田の経年変化

3)肥効調節型被覆肥料の有効利用とケイ酸資材の施用法

4)雑草の発生生態の解明と総合的防除対策