【指導参考事項】1995074

成績概要書(作成平成7年12月)

課題の分類:
研究課題名:春播小麦の初冬播栽培−播種期、播種量と施肥法について−
予算区分:受託
担当科:中央農試畑作部畑作第二科
        農産化学部穀物利用科
    上川農試研究部畑作科
研究期間:平4〜6年度
協力・分担関係:なし

1.目的

 春播小麦の初冬播栽培において、播種期、播種量、窒素施肥法等を検討し、その安定化を図る。

2.方法

 a.供試材料:「ハルユタカ」
 b.試験の構成
試験名 項目 中央農試 上川農試
主区 副区 平4 平5 平6 平4 平5 平6
播種期と播種量 播種期 播種量
施肥法 播種期 施肥時期・量
播種法(覆土・雪上) 播種期 覆土の有無・雪上播種
種子コーティング 播種期 種子コーティング
種子消毒    
 注)年次は初冬播の播種年とし、対照となる春播は次年度の播種である。
   −:未供試 △:播種量なし □:雪上なし

3.結果の概要

1)播種期について(表1,2)

春播小麦の初冬播を安定技術とするためには、根雪前に出芽させないこと、万一出芽しても鞘葉程度で留まることが必要である。このためなるべく根雪直前に播種するのが望ましい。本試験(覆土あり、コーティングなし)で得られた出芽に要する積算気温は平均118℃で、これを平年の根雪始に当てはめ、過去の気象データと照合したところ、中央農試では根雪前25日程度(11月中旬)以降、上川農試では根雪前20日程度(11月上句)以降が安定的に出芽に至らずに越冬が可能な播種期と考えられた。他地域での播種早限は、各地の平年の根雪始を参考に決定する必要がある。

2)種子コーティング資材による播種早限の前進化(表3)発芽を抑制する種子コーティング資材(P剤)の利用により前述の播種早限を半旬程度前へ前進できる。

3)播種量について(図1、2)初冬播では、越冬後の個体数が150〜200個体/㎡程度確保できれば安定的な収量が得られ、播種量は越冬個体率を勘案しても、春播の標準量並からやや多めの340〜400粒/㎡程度で十分であった。

4)施肥量について(表4)

(1)窒素:融雪後なるべく早くに春播栽培の標準量よりやや多めの9〜10㎏/10aをを施用して生育を確保する。これだけでは子実の蛋白含有率が低くなるので、止葉期にさらにN6㎏/10aを追肥することにより蛋白含有率を春播栽培並に近づける。

(2)リン酸およびカリ:播種時あるいは融雪後なるべく早くに春播栽培の標準量を施用する。

5)覆土について(表5)

無覆土栽培は、越冬性は向上するが倒伏が多発する場合があり、覆土は必要である。

表1.播種期による越冬性の差異(中央農試)
播種期 出芽期(月日) 越冬前葉数(枚) 越冬前個体率(%) 越冬後個体率(%)
平4 平5 平6 平4 平5 平6 平4 平5 平6 平4 平5 平6
10月下旬 11.8 11.14 11.7 1 O.8 1.1 43 52 75 1 63 9
11月上旬 12.8 雪中 雪中 鞘葉 32 0 0 30 73 69
11月中旬 雪中 雪中 雪中 0 0 0 55 53 61
注)覆土あり,越冬前の葉数は目視による。

表2.播種期による越冬性の差異(上川農試)
播種期 出芽期(月日) 越冬前葉数(枚) 越冬前個体率(%) 越冬後個体率(%)
平4 平5 平6 平4 平5 平6 平4 平5 平6 平4 平5 平6
10月中旬 11.2 11.3 1 1 86 100 3 0
10月下旬 雪中 雪中 11.18 0 0 鞘葉 0 0 71 69 70 78
11月上旬 雪中 雪中 0 0 0 0 73 74
 注)覆土あり,越冬前の葉数は計数による。

表3.種子コーティングの効果(上川農試)
播種期 種子コー
ティング
処理
出芽期
(月日)
越冬後
個体率(%)
平4 平6 平4 平6
10月下旬 無処理 11.12 11.12 45.9 33.2
雪中 雪中 65.6 77.9

表4.施肥改善による収量・品質の差異(中央農試)
処理 窒素量
(kg/10a)
成熟期
(月日)
穂数
(本/㎡)
子実重
(kg/a)
千粒重
(g)
蛋白含
有率(%)
ファリノグラム
Ab(%) VV
③春N 10+O 7.28 599 39.9 41.7 9.9 61.7 62
⑥N増 15+0 7.30 672 49 42 10.6 60.8 65
⑧止N6 10+6 7.31 586 49.1 42.5 11.7 62.9 65
⑭春播 10 8.7 410 34.2 41 11.3 61.1 48

表5.覆土の有無と生育・収量(平成4年上川農試)
播種期 覆土の
有無
越冬後
個体数
(本/㎡)
倒伏
程度
稈長
(cm)
穂数
(本/㎡)
一穂当
り総重(g)
子実重
(kg/a)
10月15日 96 65 149 1.86 11.7
232 69 271 1.78 21.4
10月26日 249 71 299 2.10 28.6
199 72 328 1.86 272
 注)1穂当りの総重=総重/穂数

4.成果の活用面と留意点

  1.「ハルユタカ」を用いた多雪地帯(土壌非凍結地帯)に適用する。
  2.滞水する圃場は避ける。
  3.播種量決定の際には使用する種子の発芽率を考慮する。
  4.止葉期の窒素追肥は、無追肥に比べて増収効果も期待できるが、成熟期が2〜3日遅くなることがある。
  5.種子消毒は必ず実施する。
  6.融雪後の病害虫防除は春播栽培に準ずる。

5.残された問題点とその対応

  1.安定的に播種できる播種機および播種法(雪上播種等)の開発
  2.さらに播種期の前進化が可能な出芽抑制資材の探索
  3.発芽および越冬性に及ぼす土壌条件・気象条件の影響解析
  4.高品質・多収栽培のための効率的な施肥法の検討
  5.品種間差の検討
  6.雑草防除法の検討これらは後続課題の「道産小麦の品質向上試験(パートⅢ)」で対応する。