1995104

【指導参考事項】

成績概要書   (作成平成8年1月)
課題の分類:
研究課題名:栄養繁殖性植物のインビトロ低温保存の実用化
        (栄養繁殖性植物の保存・増殖技術開発試験)
予算区分:道費
研究期間:平成4〜7年度
担当科:北海道立植物遺伝資源センター研究部資源貯蔵科
協力・分担関係:

1.目的

 栄養繁殖性植物の遺伝資源のほ場での保存は、気象災害や病虫害等による被害によって失われる危険性があることから、気象条件が異なり距離的に離れた複数の場所で保存を行う必要があるとされている。
 また、ほ場での保存は、一般に広い面積を必要とし、その維持・管理に多大な費用、労力、技術を要する事が多い。
 これらの問題点の解決として、組織培養技術を利用した手法でインビトロ(試験管内)保存する事が考えられ、これによって死滅の危険分散や維持・管理の効率化が期待される。インビトロ保存には、低温による短・中期的保存法と超低温による長期的保存法があり、栄養繁殖性植物の遺伝資源の管理システムの一環としてそれぞれ重要な位置づけがされている(臨時植物遺伝資源連絡委員会、平成6年)。
 本試験では、ワーキング・コレクションの保存(一時的保存)や登録遺伝資源の増殖・提供用元株の保存等に必要な短・中期的保存法として、また将来の超低温保存法の確立までの緊急対応としての保存法として、インビトロ低温保存法を検討した。

2.方法

1)供試材料イチゴ、ユリ、ニンニク

2)試験方法各植物の茎頂近傍組織を無菌的に摘出し、培地を入れた保存用小型バイアル瓶内に置床した。保存のための培地の種類と保存条件(温度、照明)、保存前の培養条件、品種間差、保存後の馴化のための培養条件等について試験を行い、生存率ならびに保存中の生育状態について検討した。

3.結果の要約

 1)イチゴのインビトロ保存インビトロ保存に用いる培地はMS培地が適する。保存前に1〜2週間程度保存前の培養(照明下)を行い、段階的に温度を下げながらハードニング処理を行った後保存する。保存温度は5℃とし、保存中の照明は行わない。以上の条件で2年間無継代で70%程度の生存率が得られる。保存後の株は草勢が劣るため、馴化のための培養を行うが、培地は1/2MS培地を使用する。

 2)ユリのインビトロ保存保存に用いる培地はMS培地が適する。保存前に1〜2週間程度、保存前の培養を行い保存する。保存温度は5℃〜10℃とし、保存中の照明は行わない。以上の条件で2年間無継代で約70%の生存率が得られる。保存後、馴化のための培地は1/2MS培地またはMS培地を使用して行う。

 3)ニンニクのインビトロ保存保存に用いる培地はMS培地またはB5培地を用いる。MS培地は保存前の培養で異常シュートの発生が認められるが、保存温度を5℃、照明条件下で保存を行うと正常な形態の小球を形成し、異常シュート数が減少する、。B5培地は5℃、照明下の保存で比較的異常シュートの発生が少ない。以上の条件で約2年間、無継代で80%前後の生存率が得られる。保存後、馴化のための培地はMS培地を使用する。


図1MS培地における保存条件がイチゴの生存率に与える影響

3.成果の活用面と留意点

 1)栄養繁殖性遺伝資源保存の一環として、短・中期保存に利用できる。
 2)ウイルスフリー株(無病株)、増殖のための元株の一時的保存に活用できる。
 3)保存期間が長くなることから、培地の乾燥に注意する。
 4)インビトロ保存中の遺伝的安定性は未確認である。

4.残された問題点とその対応

 1)ニンニクにおける異常シュート発現の軽減。
 2)インビトロ低温保存中における変異発現性の確認。
 3)保存中の養分補給等による保存期間の延長。
 4)栄養繁殖性植物の保存システム確率に向けた長期保存技術(超低温保存法)の開発。