【指導参考事項】1995131

成績概要書(作成 平成8年1月)
課題の分類
研究課題名:道央タマネギ栽培における減化学肥料の実証
 (クリーン農業の評価と実証)
予算区分:道費
担当科:中央農試 環境化学部 土壌生態科
研究期間:平3-7年度
協力・分担関係:中央農試 病虫部 害虫科

1.目的

F1品種を主体とした現行のタマネギ栽培において農家慣行施肥が妥当かどうかを検討し、減化学肥料栽培のための施肥指針を策出する。

 

2.方法

  1)化肥窒素の用量試験:平成5年から7年の3ヶ年間、空知地方(岩見沢、栗沢、由仁、三笠)で、農家慣行栽培と減化肥窒素の用量試験を実施した。

  2)在来種とF1品種の生育、養分吸収経過の比較:在来種2種(札幌黄、空知黄)とF1品種3種(H86,H136A,T400,以下これら品種を一括してF1品種と表記した)を用いて、生育経過、養分吸収経過を調査した。

  3)根はりと化肥窒素の動態:施肥後の無機態窒素(深さ0〜100㎝)の経時変化、最大茎葉繁茂期の層位別根長を調査した。

 

3。結果の概要

  1)F1品種を主体とした現在のタマネギの収量は蓄積リン酸と無関係であり、蓄積リン酸が130mg/100g以上の圃場でも化肥窒素の増肥効果は認められなかった(図1)。

  2)F1品種は在来種に比較し、①生育初期から結球始期までの乾物増加率が大きく、また同時期の茎葉中のリン酸及び窒素含有率が高かった(表1)。②F1品種は蓄積リン酸が多い条件でも生育の後期凋落傾向を示さなかった。

  3)生育に対する蓄積リン酸の制限要因が2)の要因で解消された結果、生育・収量は土壌の窒素供給能に支配された。①収量は生土培養法による窒素無機化量が

1mg/100g程度まで急激に増加し、1.5mg/100g程度以上では漸減傾向を示した(図2)②化肥窒素の増肥効果は窒素無機化量が0.5mg/100g以下で大きく、1.5mg/100g以上では化肥窒素の増肥によって漸減した(図3)。③生育後半に土壌窒素が旺盛に放出される泥炭土であっても、F1品種の特性から結球始期までに十分な茎葉量を確保するためには化肥窒素が15㎏/10a程度必要であった(表2)。

  4)化肥窒素の増肥は腐敗球数率を高めるだけでなく、①収量とは無関係な結球始期以降の窒素吸収量を増加させ、②結球部の窒素含有率を高め、③収穫期の残存無機態窒素量を増加させた。

  5)タマネギの根は深さ40㎝までに全体の96〜99%が存在し、深さ0〜40㎝の無機態窒素減少量(定植時と収穫期の差)は全体の84〜100%を占めていた。また、収穫期に深さ0〜40㎝土層に残存した無機態窒素の56〜64%が翌春施肥前までに消失した。

さらに、'94年春と'95年春の深さ0〜80㎝までの無機態窒素量は大差ないことから、吸収し残された施肥窒素の大部分は系外に消失したと推定した(表3)。

  6)以上の結果から、品種の交代により蓄積リン酸に対応した化肥窒素の増肥は必要なく、施肥標準量で十分であった。このことにより、吸収し残した窒素の環境への負荷も軽減できる。

表1 品種の違いによる乾物増加率の変化(岩見沢)
品種 乾物増加率(全乾物水) 養分含有率(%)**
6/19-7/5 7/5-7/20 7/20-8/5 8/5-9/4 P205 N
6/19 7/5 6/19 7/5
空知黄 3.9 2.4 1.5 0.7 0.84 1.09 4.09 3.84
H86 4.5 2.8 1.6 0.7 0.85 1.29 4.23 3.95
H136A 4.6 2.7 1.6 0.7 1 1.22 4.69 4.07
 *茎葉部+結球部**茎葉部

表2 泥炭地1)における化肥N量と初期生育量、収量
  GI6/20 結球始期 収穫期
乾物* 吸収N* L<率** L<収量***
N10 329 624 13.4 91 7.2
N15 334 697 15.1 99 8.2
N20 308 611 15.4 95 7.9
 1)北村(水田転換6年目)、*㎏/10a、**%、***t/10a

表3 タマネギ畑における施肥前及び収穫期の無機態N量(g/㎡)
層位** 94年春 施肥
N量
吸収
残N
94年秋 95年春 減少量*
0-40 合計 0-40 合計 0-40 合計 0-40 合計
少肥 3.5 7.1 16 5 6.3 12 2.8 5.9 3.5 6.1
多肥 4.9 10.7 23 11 9.1 16.3 3.3 9.8 5.8 6.5
 *94年秋と95年春の差、**㎝、合計は0〜80㎝土層を示す。

4.成果の活用面と留意点

 1)リン酸施肥量は「土壌診断に基づく施肥対応」に準拠する。
 2)本試験で対象としたF1品種は晩生からやや晩成(H86(北もみじ86)、H136A(スーパー北もみじ)、T400(カムイ)、天心)である。

5.残された問題点とその対応

 1)初期生育確保のための有機物管理と化肥窒素の施用法
 2)タイプの異なるF1品種についての今後の対応