【指導参考事項】
1995140
成績概要書 (作成平成8年1月)
課題の分類: 研究課題名:低蛋白米生産からみた窒素分追肥法の評価 (北海道米の食味水準向上技術の開発) 予算区分:道単 研究期間:平3〜7年度 担当科:上川農試研究部土壌肥料科 中央農試稲作部栽培第一科 協力・分担関係:なし |
1.目的
本試験では重窒素標識硫安を用いた施肥試験を上川・中央農試圃場および現地農家圃場で実施し、窒素の動態と白米蛋白含有率の関係を解析した。
これにより現行施肥法が白米蛋白含有率に及ぼす影響を解明し、もって低蛋白米生産の観点から分追肥法の再評価を行い、普及指導の参考に資する。
2.方法
(1)上川農業試験場土壌肥料科
a)供試品種:きらら397
b)試験構成:基肥用量と施肥位置…農試圃場内枠試験分追肥の時期…農試圃場内枠試験墓肥用量と 分追肥の組み合わせ…農試圃場内枠試験および農試圃場試験止葉期追肥の実証…旭川周辺の農家 圃場試験
3.結果の概要
1)全層基肥窒素の利用率は40%程度であり、施用量の増加とともに白米蛋白含有率は上昇した。
2)表層施肥は利用率(28%)が極めて低く、白米蛋白含有率も低いが、等量の窒素施肥量で比較すると他の施肥法に比べて収量性が明らかに劣っていた。
3)側条施肥は窒素の利用率(46%)が全層施肥よりやや優れているが、穂および白米への分配率および利用率は低く、白米蛋白含有率も低く推移した。
4)各種基肥窒素施肥ともに水稲による吸収利用は施肥初年目に利用率40%ほどで集中しており、残効として2年目4%、3年目2%、3カ年の総吸収率は50%以下であった(表1)
5)幼穂形成期〜幼穂形成期1週後の分施は窒素の玄米生産効率が全層基肥と同程度であり、白米への利用率および分配率が小さいために白米蛋白の上昇は低い(図1)。この場合、幼穂形成期分施は基肥量や気象による収量および登熟の変動が大きいと考えられるため幼穂形成期1週後が適当と考えられる。
6)止葉期追肥では窒素の玄米生産効率が低下し、白米への利用率および分配率が高まり、白米蛋白含有率を著しく上昇させることが確認されたので食味の観点からこれを中止すべきであると判断した(表2)。なお、出穂期以降の分追肥による白米蛋白含有率の上昇は出穂期〜出穂後10日程度に最大となり、それ以降漸減した(図2)
7)現地農家圃場試験からも幼穂形成期1週後分施は白米蛋白含有率を上昇させず、止葉期追肥では著しく上昇することが確認され、この傾向は道内の広い範囲で共通するものと判断された(表3)
したがって、低蛋白米生産のためには過剰な基肥窒素を避け、さらに生育初期の窒素吸収を促進させる側条施肥等を組み合わせることが必要となる。窒素分追肥は施肥標準内の分施に限り、しかも幼穂形成期1週後に行うべきであると判断した。なお、止葉期追肥は低蛋白米生産の観点から中止すべきと判断した。
表1.施肥後3ヶ年における稲体による窒素利用率
処理区 | 初年目 | 2年目 | 3年目 | 3ヵ年 |
(kg/10a) | 合計 | |||
全層基肥4 | 36.O | 4.1 | 1.8 | 41.9 |
全層基肥8 | 35.5 | 4.O | 1.8 | 41.3 |
全層基肥12 | 39.2 | 2.9 | 1.6 | 43.7 |
全層基肥16 | 44.3 | 3 | 1.3 | 48.6 |
表層施肥4 | 24.O | 2.7 | 1.O | 27.7 |
側条施肥4 | 41.7 | 2.5 | 2.O | 46.2 |
表2.白米蛋白含有率の上昇に関する基肥と止葉期追肥の比較
窒素施肥処理 | 上昇した白米蛋白 | 変動幅 |
NKg/10a | 含有率(%) | 最小〜最大 |
基肥10(基肥2kg増) | O.23 | 0.1〜O.45 |
基肥8+追肥2(止葉期) | 0.58 | 0.5〜0.6 |
農家慣行+追肥2(止葉期) | O.86 | 0.4〜1.4 |
表3.現行の分・追肥法と収量・蛋白含有率の変化
施用時期 | 幼穂形成期1週後 | 止葉期 |
施肥法 | 分施 | 追肥 |
収量 | やや増 | やや増 |
蛋白含有率 | ほぼ同じ | 増 |
4.成果の活用面と留意点
1)止葉期追肥の中止は良食味米生産を指向する場合にのみ限定し、加工用米などには従来の指導を継続する。
2)幼穂形成期1週後の分施技術の指導は継続と判断するが、その要否には気象条件および土壌窒素診断結果を考慮する。
5.残された問題点とその対応
1)低肥沃度水田の登熟期間における葉身窒素濃度を維持する方法の検討