【指導参考事項】

1995144

成績概要書    (作成平成8年1月)

課題の分類:総合農業生産環境土壌肥料3−2−1a
研究課題名:畑土壌における微生物活性(α−グルコシダーゼ活性)の実態と標準値の設定
(北海道の立地特性を生かした環境調和型農業の確立、畑地生態系制御による有機物管理技術の確立)
予算区分:道費
研究期間:平成3〜7年度
担当科:十勝農試研究部土壌肥料科
協力分担関係:なし

目的

 作物への養分供給や腐植・団粒の生成等、土壌の基本的な機能と深く関連する土壌微生物の活性を評価するための手法として、α−グルコシダーゼ活性が有効である。本成績では、α−グルコシダーゼ活性の高低を判断するための“標準値”を設定することを試みた。併せて、土壌の採取時期、保存条件についても検討を加えた。

2.試験方法

 農家圃場でのα−グルコシダーゼ活性の実態、長期の有機物管理がα−グルコシダーゼ活性に及ぼす影響、及びα−グルコシダーゼ活性の実態と土壌理化学性との関係などから、標準値を設定した。

3.結果の概要

①十勝管内の畑土壌におけるα−グルコシダーゼ活性の平均値は580pmol・g−1・分−1であり、活性が中庸である50%の圃場が450〜700pmol・g−1・分1の範囲にあった(図1)。淡色黒ボク土と多湿黒ボク土で窒素地力や土壌有機物が減耗方向にあると考えられる有機物管理を継続した処理区のα−グルコシダーゼ活性は、500pmol・g−1分1前後であった(表1)。

②有機物分解の抑制が起こらない気相率15%以上のときのα−グルコシダーゼ活性は550pmol・g1・分1前後であった(表2)。また、黒ボク土では、熱水抽出性窒素3.0㎎・100g1以上、トルオーグリン酸10㎎・100g1以上、交換性マグネシウム25㎎・100g1以上に対応するα−グルコシダーゼ活性はそれぞれ450、550、550pmol・g−1・分1であった。農家圃場のてん菜収量はα−グルコシダーゼ活性が高いほど高い傾向であり、α−グルコシダーゼ活性が750pmol・g1・分1以上と以下の圃場間のてん菜乾物収量の平均値に育意性があった(表3)。

③以上の試験結果から、α−グルコシダーゼ活性の標準値を550〜750pmol・g−1・分−1とする。それ以下では、微生物活性が低く問題であり、それ以上では標準よりも高レベルの圃場である。

④α−グルコシダーゼ活性の測定条件を以下のようにした。標準値を利用する場合の測定時期は、4月中、及び7月以降が望ましい(表4)。その際作付作物は問わないが、秋播小麦の起生期から収穫までは測定に適さない。採土とふるい通しにあたっては土壌表面のごく乾燥した部分、堆肥、作物根、前作残渣等の有機物を除くように注意する。土壌採取後直ちに分析することが好ましいが、それができない場合には、土壌を冷暗所に保存し、10口間以内に分析する。ただし、ふるい通しは分析の直前に行う。

⑤セルラーゼ活性からα−グルコシダーゼ活性を求めるための推定式を以下のようにした。
黒ボク土:α−グルコシダーゼ=140×セルラーゼー+180
多湿黒ボク土:α−グルコシダーゼ=170×セルラーゼ十30

表1.異なる有機物処理を継続した圃場の酵素活性
    (十勝農試試験圃場.昭和50年処理開始)
処理内容 α−グルコシダーゼ 易分解性 熱水抽出
(pmol-1・g-1・分) 炭素量 性窒素
6年 7年 (㎎・lOOg-1 (mg・lOOg-1
3要素 473 515 20.5 2.1
堆肥1.5t連用 659 599 33.3 3.2
堆肥3t連用 664 679 36.9 4.O
 全区で収穫残渣を搬出した。

表2.気相率がα−グルコシダーゼ活性に及ぼす影響(淡色黒ボク土を供試)
気相率
(%)
水分
含有率
(%)
α−グルコ
シダーゼ*
炭酸ガス
放出量**
5 38 264 0.08
I0 37 413 0.21
15 35 561 0.34
20 33 556 0.59
25 31 547 0.52
 *:Pmol・g-1・分-1
 **:Cmg・日-1・100g-1

表3.てん菜の乾物収量指数とα−グルコシダーゼ活性の関係
α−グルコ
シダーゼ活
活の境界
乾物収量
指数の
平均
差の
有意性
(t検定)
550以下 21 99 なし
550以上 33 101
650以下 38 99 なし
650以上 16 105
750以下 46 99 5%で有意
750以上 8 109
800以下 50 99 なし
800以上 4 110
 *pmol・g-1・分-1

表4.α−グルコシダーゼ活性(pmol・g-1・分-1)の季節変化
供試土壌 作物 4月5日 5月8日 6月14日 7月17日 8月3日 9月25日 11月14日 平均値**
黒ボク土 馬鈴しょ 802 870 712 819 758 715* 750* 759
大豆 882 701 1,268 830 694 790 711 768
てん菜 627 688 895 615 697 638 614 647
多湿 菜豆 319 508 686 528 574 506* 483* 486
黒ボク土 てん菜 515 514 680 593 679 545 530 562
てん菜 1,262 1,294 1,447 1,615 1,400 1,224 1,073 1,283
 (平成7年),*:小麦播種,**:最大値を除いて平均した。

4.成果の活用面と留意点
①標準値の適応範囲は十勝地方の火山性畑土壌とする。
②黒ボク土においてα−グルコシダーゼ活性が低い要因の多くは、有機物量、有効態リン酸などの不足であった。多湿黒ボク土では排水不良が原因することが多かった。

5.残された問題点とその対応
①標準に達しない圃場の具体的対策指針。
②対応地域の拡大。