【指導参考事項】

1995147

成績概要書      (作成平成8年1月)

課題の分類:
研究課題名:水田における窒素フローの把握
    〔クリーン農業実現のための環境保全機能の把握と解明農耕地の養分フローと環境への影響把握〕
予算区分:道単
研究期間:平3〜7年度
担当科:道立中央農試環境化学部環境保全科
担当者:
協力・分担関係:

1.目的

 本試験では、本道の一筆水田における窒素の流出および収支の実態を明らかにするとともに、窒素フローに対する肥培管理の影響および時期的変動を把握する。

2.方法

調査圃場:空知管内3町村5地点9圃場。 各地点で標準的な栽培形態をとっている農家圃場を標準区とし、隣接する水田で標準区より化学肥料施用量が少ない圃場を減化学肥料栽培区(以下、減化区)、化学肥料を全く用いていない圃場を有機栽培区(以下、有機区)とした(表1)。

調査項目:窒素濃度(用水、表面排水、暗渠排水)、表面排水流量、田面水位、収穫時作物体吸収窒素量

3.結果の概要

(1)標準区における表面排水中からの全窒素の流出量は0.4〜2.1㎏N10a−1(施用窒素量の5〜24%)であり、移植までの流出が全流出量の5〜8割を占めていた。移植以降は水稲による窒素吸収量が大きく、環境への流出量は相対的に低くなった(図1)。

(2)移植までに表面排水から流出したアンモニア態窒素量は、側条施用を行っていた由仁Bで1994、1995年とも0.02㎏N10a−1(施用窒素量の0.2%、全窒素流出量の4%)と低かった。他の地点では0.1〜0.54㎏N10a−1(施用窒素量の1〜8%、全窒素流出量の12〜51%)であり、その量は全期間の8割以上に相当した。

(3)降下浸透および畦畔浸透による窒素流出量は、それぞれ10a当たり0.1〜0.8、0.3〜1.0㎏N(施用窒素量のそれぞれ1〜8、4〜11%)で、それらの窒素収支に占める割合は無視し得ないものであった(図2)。

(4)標準区と減化区あるいは有機区との比較では、排水中全窒素濃度および窒素流出量に処理区間の明確な差は認められなかった(表2)。

(5)以上から、水田における窒素フローの環境への影響は移植までがもっとも大きく、この時期までに全かんがい期間の5〜8割の窒素が流出することが明らかになった。この傾向は減化学肥料・有機栽培についても同様であった。したがって、この時期の窒素フローをいかに管理するかがこれからの課題である。なお、移植以降の窒素フローは水稲への吸収が主体であり、環境への流出が占めるウェイトは小さいと判断された。

表1 調査地点一覧
地点 町村名 土壌型 調査年次 試験処理区
標準区 械化区 有機区
由仁A 由仁町 黒色火山性土 1992    
由仁B 由仁町 黒色火山性土 1994〜1995  
北村A 北村 泥炭土 1994〜1995  
長沼A 長沼町 グライ土 1995  
長沼B 長沼町 グライ土 1995  

表2 標準区、減化区および有機区における調査期間中窒素収支
地点 年次 処理区 (kgN10a-1
収入 支出 収入−支出
施肥 用水 降雨 水稲* 表面排水 降下浸透 畦畔浸透
由仁B 1994 標準区 8.4 O.7 0.1 14.1 0.8 0.1 O.9 -6.7
減化区 8.6 0.7 0.1 12.8 1.5 0.2 1.2 -6.3
1995 標準区 9.1 0.3 0.1 12.1 0.8 0.3 0.8 -4.5
減化区 9.1 0.3 0.1 11.3 0.7 0.2 0.8 -3.5
北村A 1994 標準区 9.6 1.2 0.1 5.0(9.1)** 2.1 0.7 1 2.1
有機区 0 1 0.1 3.7(5.9)** 2.4 0.7 1.8 -7.5
1995 標準区 9.6 1.8 0.1 7.6(5.1)** 1.9 0.8 0.7 0.5
有機区 0 1.4 0.1 5.3(4.3)** 2 0.8 0.5 -7.1
長沼A 1995 標準区 7 2.6 0.1 12.O 1.7 0.2 0.3 -4.5
減化区 7 2.6 0.1 10.3 1.6 0.2 0.4 -2.8
長沼B 1995 標準区 8.8 1.7 0.1 12.1 0.4 0.2 0.5 -2.6
減化区 7.9 1.5 0.1 11.7 0.8 0.2 0.3 -3.5
*:圃場外持ち出しの値. **:稲わらの値.

4.成果の活用面と留意点

(1)本試験は一筆圃場を対象にしており、水田地帯全体には対応していない。
(2)本試験はかんがい期間中における窒素収支を示したものである。

5.残された問題点とその対応

 非かんがい期間を含む周年を通した窒素収支の把握代かぎを伴わない栽培法や施肥法による窒素フローの評価