【指導参考事項】

1995182

成績概要書    (作成平成8年1月)

課題の分類:北海道農村計画農業物理
研究課題名:遠隔地圃場の蒸発散モニタリングシステム開発
予算区分:経常(土地改良事業費)
研究期間:平成6−7年度
担当:北海道開発局開発土木研究所農業開発部農業土木研究室
協力・分担関係:東京農工大学、北海道大学農学部(財)日本気象協会帯広支部

1.目的

 北海道の農業では、農作物の収量増加・品質の向上・均一化を図るため、国営および道営の畑地かんがい事業が実施されている。
 このような畑地の生産環境の進展に応じて、安定的な生産体系の維持管理のために、圃場での適期、適量のかん水技術の開発が求められている。
 この目的のため、圃場の水分状態のモニタリングと予報の技術開発をはかる。

2.方法

 北海道河西郡中札内村(ビート・馬鈴薯・小麦)、枝幸郡枝幸町(牧草)の試験圃場に、蒸発散量計測システムを設置し、生育時期の気象・土壌水分データの計測・伝送を試行した。また、このシステムで得られたデータや天気予報情報をもとに蒸発散量の推定・予測手法を検討した。

3.結果の概要

(1)遠隔地圃場の計測データ伝送技術の開発(図−1)電源確保の困難な現地圃場において燃焼熱式のDC発電装置の利用により、長期間の蒸発散量の計測が可能となった。また、携帯電話(無線電話)によるデータ収録の安定性を確認した。

(2)熱収支ボーエン比法による蒸発散量の計測と推定(図−2、3)ボーエン比の日中平均値は、気象・土壌水分データ(気温・相対湿度、風速、pF値)と作物の植被率(VC)によって精度よく推定された。この手法による蒸発散量の標準推定誤差は各年、各作物により変化するものの総じて約1㎜であった。

(3)計測情報の利用と試行(図−4)蒸発散量の推定に必要な正味放射量を予報天気から推定することにより、蒸発散量予報が可能となった。予報は、天気予報精度に左右され、約3日先までの予報値が1週間先までと比べ高いことから、週2回程度の頻度の予報が望ましいと判断された。

(4)アンケート等にみられる農家の評価(図−5)蒸発散予報データは、回答者の全員(総数の89%)が利用し、このうち潅水に関する具体的な情報が良かったという理由で63%が役に立つと評価した。

4.成果の活用面と留意点

 蒸発散モニタリングシステムは、その安定性が確認され、今後の計測に汎く応用が可能である。
 また、蒸発散量予報の手法は、推定式の係数の適用性の確認が必要であるが、天気予報の行われている地域であれば適用可能である。

5.残された問題とその対応

 圃場に設置された観測機器は、各機能の維持管理が容易となるものが望ましく、熱収支ボーエン比法の観測システムの製品化が望まれる。
 また、本システムは、各農家ごとの特定情報を提供するものでないため、各農家ごとの差別化した情報伝送へと改良を進めることが必要である。
 今後は、少数の観測点のデータと衛星画像を活用した手法を組合わせて、広域な地域の蒸発散量の分布やその個別情報を各農家へ提供するシステムについて検討を進めたい。