【指導参考事項】
1995239
成績概要書 (作成平成8年1月)
課題の分類: 研究課題名:発酵熱による製糖工場排出土の消毒技術 (製糖工場排出土の消毒試験) (製糖工場排出土の堆肥熱による消毒実用化試験) 予算区分:受託および共同研究 研究期間:(受託:平成3〜6年) 担当:北見農試研究部病虫科 協力・分担関係:ホクレン中斜里製糖工場技術課 |
1.目的
製糖工場の排出土(遊離土および洗浄土)に生存している土壌伝染性病原菌および線虫を発酵熟で消毒し、その発酵熱処理済み排出土(排出土コンポスト)を有用資源として活用する技術を確立する。
2.試験研究方法
1)排出土に生存している病原菌と線虫の致死温度試験:そうか病菌、ジャガイモシストセンチュウ等
2)排出土のコンポスト化試験:材料の混合比・水分量、通風方法・期間
3)排出土コンポストの消毒確認試験:コンポストパイルに埋没した病原体の生死確認等
4)排出土コンポストの畑地への還元試験:そうか病の発生、作物の生育、土壌pHの変化
3.結果の概要
(1)排出土に生存している主要な病原菌の温熱による致死温度は、テンサイそう根病の病原ウイルス媒介菌:Polymyxa betae(以下、そう根病菌)では40℃14日間または60℃1日間、ジャガイモシスセンチュウでは40℃10日間または50℃5日間、ジャガイモそうか病菌は3種のなかで最も高く、60℃7日間、65℃5日間または70℃1日間であることが明らかとなった。
(2)排出土をコンポスト化する方法として、排出土を麦稈、澱粉粕、CCR(廃糖蜜)、余剰汚泥などと混合し、30〜50トン程度のカマボコ型の山(パイル)に堆積し、発酵させたが、無通風ではそうか病菌を死滅させる温度に達しなかった。
(3)そこでコンポストパイルの底に設置した有孔バイプから強制的に約1週間間隔で吸排気を行う強制通風を行なったところ、より高い温度が比較的均一に得られ、底部の角など裾の一部を除き、コンポストパイルのほぼ全部位でそうか病菌の致死に達する温度が得られた。
(4)なお、温度上昇が不十分であった裾部分は、パイルの側面に新たな混合物を順次堆積し発酵させる連棟方式にすることにより低温部分を最小限にすることができた。
(5)コンポストパイルでの昇温は材料の水分含量(空隙率)によって大きく影響されるため、排出土など材料の水分含量に応じて麦稈の混合割合を調整する必要がある。その目安は材料全体の水分が40%以下で麦稈割合3%、40%以上で4%、45%で5%程度と考えられた。
(6)コンポストパイルの発酵熱がそうか病菌の致死温度に達した部位では、排出土中のそう根病菌。ジャガイモシストセンチュウ、そうか病菌の死滅が確認された。
(7)排出土コンポストの畑への還元を想定して土性の異なる3町9圃場において排出土コンポストを施用し、そうか病の発生程度を調べたが、いずれの場所でも排出土コンポストを入れることによって発病が激しくなる傾向は見られなかった。
(8)排出土コンポストはpHが7以上であり、畑に3トン/10a施用するとpHは0.3〜0.4上昇した。しかし、その後pHは緩やかに低下し、裸地条件でも翌夏には元の数値まで回復した。
表1 排出土に生存している主要な病原菌と線虫の致死温度(湿熱)
処理温度 (℃) |
処理期問 (日) |
そう根病菌 (P.betae) |
そうか病菌 | ジャガイモシスト センチュウ |
||
(S.s.) | (S.s.a.) | (S.t.) | ||||
40 | 6 | + | + | |||
40 | I0 | - | ||||
40 | 14 | - | + | |||
45 | 7 | - | + | - | ||
50 | 5 | - | - | |||
60 | 1 | - | + | + | + | |
60 | 5 | - | - | + | - | |
60 | 7 | - | - | - | - | |
65 | 3 | - | - | + | ||
65 | 5 | - | - | - | ||
70 | 1 | - | - |
表2 強制通風方式による排出土の消毒試験(累年成績)
試 験 年 次 |
通 風 日 数 |
材料の混合割合(%) | 水分% | *致死温度別箇所数 | ** 致死温度 確保箇所 数 |
|||||||||
洗 浄 土 |
遊 離 土 |
汚 泥 |
澱 粉 粕 |
廃 糖 蜜 |
発酵 鶏糞 |
麦 稈 |
設 置 時 |
完 了 時 |
60℃< 7日間 以上 |
65℃< 5日間 以上 |
70℃< 1日間 以上 |
|||
1991 | 74 | 37 | 33 | 12 | 12 | 2.1 | 0 | 2.5 | 56 | 46 | 12月19日 | 11月19日 | 3月19日 | 12月19日 |
1992 | 60 | 43 | 35 | 7 | 9 | 1.5 | 1.5 | 3.2 | 39 | 31 | 14/15 | 13/15 | 14/15 | 14/15 |
1993 | 90 | 40 | 40 | 5 | 1O | 1.5 | 1.5 | 2.5 | 48 | 38 | 7月16日 | 5月16日 | 3月16日 | 7月16日 |
I994 | 30 | 64 | 17 | 7 | 7 | 2.O | 0 | 4.O | 37 | 28 | 14/15 | I4/15 | I4/15 | 14/15 |
I995 | 37 | 63 | 15 | 7 | 7 | 3.O | O | 5.2 | 44 | 41 | 12月15日 | 12月15日 | IO/15 | 13/15 |
4.成果の活用面と留意点
(1)製糖工場排出土中の病原菌および線虫は、60℃7日間、65℃5日間または70℃1日間の発酵熱によって消毒される。
(2)コンポスト化する材料の混合割合は排出土80%、余剰汚泥7%、澱粉粕7%、廃糖蜜2〜3%、麦稈3〜5%程度で好結果が得られるが、材料の水分量に応じて麦稈の混合割合を変える。
(3)コンポストパイルの設置は平均気温15℃以上の暖侯期に行なう。
(4)コンポストパイルには温度センサーを埋設し、パイルの主要部位の温度をチェックする。
(5)コンポスト化中(約1ヵ月)は約1週間間隔で吸排気を行なう強制通風とする。
(6)コンポストパイルの設置直後から強制通風とし、4日目でも昇温がないときは水分量を調査し麦稈を再混合してパイルを積み直す。
(7)排出土コンポストを畑に3t/10a施用すると土壌pHは0.3〜0.4上昇するので、施用に当たっては土壌診断を活用し、pHが上昇し過ぎないように十分注意する。
(8)排出土コンポスト3t/10a施用で熱水抽出性窒素は2㎏/10a、交換性加里は10㎏/10a程度施用されることになるので適正な施肥対応を行なう。
(9)排出度コンポストの特性から、施用量の上限を3t/10aとし、同一圃場へ連続施用しない。
(10)排出土コンポストの施用に当たっては局所多量施用を避けるため、均一散布と十分な混和に注意する。
(11)排出土コンポストの畑への還元は排出土が産出された地域内に限る。
5.残された問題とその対応