【指導参考事項】              1995240
 成績概要書               (作成 平成8年1月)
課題の分類 研究課題名:馬鈴薯の疫病に対する減農薬防除技術
      [北海道の立地特性を生かした環境調和型(クリーン)農業の確立−馬鈴薯の滅農薬栽培技術−〕
予算区分:道費
研究期間:平3-7年度
担当科:十勝農試 研究部 病虫科
    北見農試 研究部 病虫科
協力・分担関係:中央農試 病虫部 病理科
        道南農試 研究部 病虫科

1.目的 土づくりを基本とした適正な輪作体系における病害虫の発生変動を明らかにするとともに、馬鈴薯の疫病に対し、薬剤の使用量を減らすために、より一層効率的な防除体系を確立し、生産環境と調和した農業への展望を図る。

2.方法 1.堆肥施用・輪作と病害虫発生変動の評価
      2.FLABSの適合性検定
      3.馬鈴薯疫病の減農薬防除法の検討
      4.馬鈴薯品種の疫病抵抗性と減農薬防除
      5.各種防除法の評価

3.結果の概要

(1)主要畑作物における輪作、堆肥施用、薬剤防除による病害虫の発生変動
1)平成3〜7年の5年間、北見農試および十勝農試圃場に馬鈴薯、てん菜、小麦、菜豆を輪作しながら、輪作のなかで堆肥施用と薬剤防除を組合せ、主要病害の発生と収量に及ぼす影響を調査した結果、堆肥1〜3トン/1Oa施用および輪作によって畑作物の主要病害虫(馬鈴薯の疫病・ナストビハムシ・アブラムシ類、てん菜の褐斑病・テンサイモグリハナパエ・ヨトウガ・テンサイトビハムシ、小麦のうどんこ病・雪腐病、菜豆の菌核病)では、発病が増加または減少することはほとんどなかった。

2)馬鈴薯、てん菜、小麦、菜豆には、それぞれ主要障害として疫病、褐斑病、雪腐病・うどんこ病、菌核病が発生し、それらの薬剤防除と無防除による収量差は4作物とも明らかであった。その減収割合は3〜5年間の平均で、北見農試、十勝農試それぞれ、馬鈴薯で40%、15%、てん菜で7%、17%、小麦で7%(うどんこ病)、26%(雪腐病)、菜豆で14%、14%であった。

3)堆肥施用が収量に及ぼす効果は、1トン/10a施用(北見農試)では馬鈴薯の6〜7%増収を除き、てん菜、小麦、菜豆では認められなかった。3トン/1Oa施用(十勝農試)では馬鈴薯が平均17%、てん菜が同16%、菜豆が同14%程度の増収となった。

(2)馬鈴薯の疫病の初発期予測システム(FLA8S)の適合性検定

1)平成3〜7年の5年間、北見農試圃場では2〜3品種、北見市および美幌町農家圃場では1品種について、FLABSによる初発期予測と実際の圃場での初発日を比較したところ、平成3年と
平成5年はELABSの予測がほぼ適合したが、平成6年は予測では平年より早いとなったが、圃場では発生をみないか、1ヵ月以上遅れた、平成4.7年は実際の初発がALABSの予測より数日早かった。

2)十勝農試圃場および豊頃町農家圃場では平成6年を除き、比較的適合した。

3)以上から網走地方のような地域ではELABSの適合性はやや低く、地域毎の改良が必要である。

(3)馬鈴薯の疫病に対する減農薬防除

1)初発後散布による疫病の防除効果

1)疫病の初発6〜9日後から防除を始めた3回散布では、マンゼプ水和剤500倍およびTPN・シモキサニルフロアブル750倍ともに十分な防除効果が認められなかった(平成7年、北見・十勝農試)。

2)一方、初発日から防除を始めた4回散布では、マンゼプ水和剤500倍の同処理に比較してフルアジナム水和剤1000倍およびTPN・シモキサニルフロアブル750倍の効果は明らかに高かった(平成7年、北見農試)。また、初発日から防除を始めたTPN・シモキサニルフロアブル750倍の3〜4回散布では、初発前からのマンゼプ水和剤500倍の4〜5回散布に比較して、ほぽ同様に発病を抑制した(平成7年、十勝・道南農試)。このことから、TPN・シモキサニルフロアブル750倍またはフルアジナム水和剤1000倍の初発日からの散布で実用的な防除効果が期待できるものと考えられた。

2)ダプルインターバル散布による疫病の防除効果

1)ふルアジナム水和剤1500倍の14日間隔の2〜3回散布は、マンゼプ水和剤400〜600倍またはフルアジナム水和剤2000倍の4〜7回散布と同等の防除効果を示した(平成5年、中央農試、平成7年、十勝・中央農試)。

3)減農薬栽培の主要品種における疫病の防除効果

1)5品種を用いて減農薬防除を行った結果、疫病抵抗性の「マチルダ、根育29号」では初発時期が罹病性品種より20日以上遅く、その後の発生も緩慢であり、無防除またはフルアジナム水和剤1000倍の1回散布で十分な対応が可能であった(平成5.7年、北見農試)、

2)夏疫病の発生程度は早生種の「男爵薯、ワセシロ、メークイン」で高く、晩生種「紅丸、マチルダ、根育29号」で低かった。日本病による減収は認めないか、10%以内であった(平成6年、北見農試)。

3)5品種を用いて疫病の初発日から薬剤散布を開始したときの効果を2薬剤で比較した結果、マンゼブ水和剤500倍の4〜5回散布では罹病性品種の「男爵薯、メークイン、紅丸」で高い発病度であったのに対し、フルアジナム水和剤1000倍の4〜5回散布ではこれらの羅病性品種でも低い発病度で経過し、実用的には問題がないものと考えられた(平成7年、北見農試)。

(4)各種防除法の評価1)木酢類(木酢、モミガラ酢、白寿ビネガー、バイオビネガー)50倍または500倍液の馬鈴薯疫病、500倍の夏疫病に対する防除効果を検討したが、それぞれの単独効果は認められず、さらにモミガラ酢では農薬に混用したが、効果増強も認められなかった。

表-1 初発後散布による馬鈴薯疫病の防除効果(平成7年・十勝農試、試験1:品種「メークイン」)
供試薬剤・
処理区分
希釈
倍数
散布月日 病株率
(8/2)
発病度
(8/2)
防除価 総薯重
(kg/10a)
ライマン

7/
1 5 6 12 20 27
TPN・シモキサニル
フロアブル
750倍    
1.初発後防除区     75.6 18.9 81 3.684 13.O -
2.初発期防除区     70 18.1 82 4.138 13.2 -
対マンゼブ水和剤 500倍  
3.初発前防除区   47.8 11.9 88 3.704 13 -
無散布             100 99.7 2.074 12.9  
疫病初発期:7月5日

表-2 初発後散布による馬鈴薯疫病の防除効果(平成7年・北見農試、品種「メークイン」)
供試薬剤・処理区分 希釈
倍数
散布月日 発病度 防除価
(8/7)
上薯重
(kg/10a)

7/ 8/ 7月24日 8月2日 8月7日
11 20 2 12
TPN・シモキサニル
フロアプル
750倍  
1.初発後防除区   27.7 33.3 52.2 46.4 3,154
2.初発期防除区 8.3 25 28.7 70.5 4,006
対マンゼブ水和剤 500倍  
1.初発後防除区   39.7 43.4 69.7 28.4 3,102
3.初発期防除区 24 27.4 44.7 64.2 3,446
対フルアジナム水和剤 1000倍  
3.初発期防除区 3.4 25 34.9 49.2 3,127
無散布         42.1 70.9 97.4 100 2,548
1.s.d. 5%           14.6 19.4   735  
  1%           20.7 27.6   1,045  
 疫病初発期:7月11目

表-3 ダブルインターバル散布による馬鈴薯疫病の防除効果(平成7年・中央農試、品種「メークイン」)
供試薬剤・処理区分 希釈倍数 散布月日 病株率(%) 発病度
7/ 8/ 8月17日 8月24日 8月17日 8月24日
7 14 21 28 4 11 21
フルアジナム水和剤 1500倍         17.3 28 4.3b 7.Ob -
対マンゼブ水和剤 600倍 9.3 65.3 2.3b 17.0b -
無散布               70.7 100 24.7a 74.7a  
 疫病初発期:7月12日、表中の同一英小文字間には、Duncanの多重検定(5%水準)による有意差なし。

表-4 ダブルインターバル散布による疫病の防除効果(平成7年・十勝農試、品種「メークイン」)
供試薬剤・処理区分 希釈倍数 散布月日* 病株率
(7/28)
発病度
(7/28)
総薯重
(kg/10a)

7/ 8/
4 10 17 27 1 7 15
フルアジナム水和剤 1500倍     11.10% 2.8 3.062 -
対マンゼブ水和剤 400倍 14.4 3.6 3.057 -
無散布                 100 89.4 2.311
 疫病初発期:7月5日    表中、*:◎はマンゼブ水和剤500倍。

表-5 馬鈴薯の疫病に対する木酢類の防除効果(平成5年・北見農試)
処理区分 散布月日 発病度
7月15日 7月23日 8月2日 8月12日 8月1日 8月10日 8月18日
マンゼブ水和剤500倍   O.5 1.1 2.4
マンゼブl000倍+モミガラ酢500倍   1.1 6.3 32.7
マンゼブ2000倍+モミガラ酢500倍   0.2 5.5 66.5
マンゼブ水和剤500倍 0 0 0
モミガラ酢500倍 0.8 24.5 80.6
白寿ビネガー500倍 1.3 25.8 90.1
バイオビネガー500倍 1.8 25.8 82.2
木酢500倍 4.5 26.1 84.3
無散布 1.3 25.3 88.O
1.s.d. 5%         2.1 3.7 19.9
I%         n.s 5.1 27.5

表-6 疫病の発生後に薬剤散布した馬鈴薯5品種における防除効果(平成7年・北見農試)
品種・防除方法 疫病
初発日
薬剤散布月日 発病度 上薯重
(kg/10a)
7/ 8/ 7月24日 8月2日 8月7日 8月17日 8月31日
11 20 2 12 23
男爵薯    
1.フルアジナム区 2.7 19.9 20.5 35.7 - 4,016
2.マンゼブ区 11.4 26.1 36.5 81.9 - 2,632
3.無防除 30.6 86.2 93.9 100 - 1,975
メークイン 7月11日  
1.フルアジナム区   3.4 25 34.9 49.2 - 3,127
2.マンゼブ区 8.2 25.5 33.3 78.8 - 3,013
3.無防除 27.2 67.8 92.5 100 - 1,771
紅丸 7月11日  
1.フルアジナム区   1.6 1.9 14.4 29 37.3 4,419
2.マンゼブ区 2.7 12.5 28.5 57.7 69.2 4,181
3.無防除 13 34.2 68 97.1 100 2,662
マチルダ 8月2日  
1.フルアジナム区   0 0 0 0.5 2.4 3,086
2.マンゼブ区 0 0 0 0.8 10.9 3,178
3.無防除 0 0.3 0.3 2.1 18.9 3,319
 表中、1.フルアジナム区:フルアジナム水和剤1000倍  2.マンゼプ区:マンゼプ水和剤500倍

4.成果の活用面と留意点

1.ELABSの予測による危険期到達日から圃場を観察し、疫病の初発を確認した後、速やかにTPN・シモキサニルフロアブル、750倍あるいはフルアジナム水和剤。1000倍で防除を開始する。または、慣行の防除時期からフルアジナム水和剤、1500倍を14日間隔で散布することにより。馬鈴薯疫病の減農薬防除が可能である。

TPN・シモキサニルフロアブル(商品名:ブリザードフロアプル、未登録)フルアジナム水和剤(商品名:フロンサイド水和剤、登録)1000〜2000倍、収穫前14日、4回以内

2.疫病の圃場抵抗性品種「マチルダ」を用いることにより、馬鈴薯の減農薬栽培が可能である。ただし、8月以降に疫病が発生した場合には、塊茎腐敗が発生する恐れがあるので、速やかに必要な対策を講ずる。

5.残された問題点

1.効率的な疫病防除体系の確立
2.FKABSの地域的な改良
3.塊茎腐敗防除効果の評価