【指導参考事項】

1995250

成績概要書    (作成平成8年1月)

課題の分類:
研究課題名:フィールドデータを用いた黒毛和種の産肉能力の推定
(肉牛の選抜に関する試験)
予算区分:道単
研究期間:平成3−7年度
担当科:新得畜試家畜部肉牛育種科
協力・分担関係:なし

1.目的

 道内で肥育・と畜された枝肉成績を収集・分析し、と畜牛や肥育地などの違いによる影響(環境の効果)を検討するとともに、繁殖牛とその血縁牛および交配供用種雄牛の産肉能力の推定を行った。

2.方法

(1)道内31農協から収集した3,204頭の黒毛和種枝肉成績(89〜95年と畜分)を用いてBLUP法のアニマルモデルにより種雄牛および繁殖雌牛の産肉能力を分析し、育種価を推定した。

(2)分析形質は枝肉重量、ロース芯面積、ばらの厚さ、皮下脂肪厚、歩留基準値、脂肪交雑の6形質とした。

(3)環境の効果としては肥育牛のと畜年次、性(去勢および雌)、肥育農協(肥育地)を推定し、肥育牛のと畜時月齢と近交係数の影響も考慮した。

3.結果の概要

(1)推定した遺伝率は枝肉重量が0.65、脂肪交雑が0.56と各形質とも比較的高い値であった(表1)。

(2)推定した環境の効果のうち、肥育牛のと畜年次と肥育地の効果に大きな変異が認められた。

(3)肥育牛の血縁の種雄牛(579頭)について産肉能力の育種価を明らかにした。各形質とも種雄牛によって極めて大きな変異があった(表2)。種雄牛「安福165の9」「北国7の8」の2頭は脂肪交雑をはじめ各形質で高い能力を有することが示された(表3)。

(4)肥育牛の血縁の繁殖雌牛(5,507頭)について産肉能力の育種価を推定した。脂肪交雑の正確度0.3以上の雌牛3,690頭について生年別の育種価の推移をみると、ロース芯面積、脂肪交雑などの能力は確実に向上していることが認められた(図1)。

表1 遺伝率の推定値と標準誤差
形質 枝肉
重量
ロース芯
面積
ばらの
厚さ
皮下
脂肪厚
歩留
基準値
脂肪
交雑
遺伝率 O.65 O.52 0.56 0.55 0.59 0.56
標準誤差 0.08 0.07 0.07 0.07 0.07 0.07

表2 種雄牛育種価の最大・最小値
形質 最大値 最小値
枝肉重量(㎏) 58.6 -105.6
ロース芯面積(cm) 11.1 -5.2
ばらの厚さ(㎝) 1.09 -1.2
皮下脂肪厚(㎝) 0.86 -1.14
歩留基準値(%) 2.17 -1.28
脂肪交雑 2.07 -0.71
 ○脂肪交雑の正確度0.8以上

表3 各形質の育種価上位種雄牛
順位 枝肉重量 ロース芯面積 ばらの厚さ 皮下脂肪厚 歩留基準値 脂肪交雑
長尾 安福165の9 北国7の8 福谷 安福165の9 安福165の9
賢隆 美桜5 安福165の9 糸光 安金 北国7の8
谷水 谷水 賢晴 安美土井 賢深 第33平茂
糸北鶴 賢深 糸杉4 糸杉4 絞次郎 糸晴波
寿高 糸晴波 寿高 初代14 9中丸
・脂肪交雑の正確度0.8以上
・種雄牛名の未公表牛は除外

4.成果の活用面と留意点

(1)育種価を適正な種雄牛(精液)の選択に活用する。育種価の高い雌牛は後継牛生産用とし、育種価の低い牛は早期に淘汰することが望ましい。

(2)種雄牛および繁殖雌牛の育種価を利用して子牛の育種価を予測することが可能である。子の育種価は父母の育種価の平均値によってほぼ予測できる。

(3)道内の飼養頭数に比べて収集できた肥育成績数が少ないことから、個々の育種価がある程度の変動を生ずるので留意する必要がある。

5.残された問題とその対応

(1)育種価の評価頭数を早期に拡大するために肥育成績の収集システムを緊急に整備する必要がある。

(2)評価値の変動を抑えてより精度の高い育種価を推定するために道内牛群の血統構造の分析、アニマルモデル以外のモデルの導入および環境の効果の分類方法の検討を行う必要がある。