【指導参考事項】

1995254

成績概要書    (作成平成8年1月)

課題の分類:北海道畜産めん羊飼養技術滝川畜試
研究課題名:サフォーク母羊を用いたF1ラム肉生産の効率化
       (交雑利用による地域特産ラムの生産方式に関する試験)
予算区分:道費
研究期間:平2〜6年(1990−94)
担当科:滝川畜試研究部めん羊科畜産資源開発科
協力・分担関係:

1.目的

 濃厚飼料主体の舎肥育によるラム肉生産の条件に適した、サフォーク(以下S)を母羊とするF1の組合せを選定するため、ポールドーセット(以下P)、サウスダウン(以下D)、チェビオット(以下C)の雄羊との交配によって得られるF1子羊(以下PS、DS、CS)の発育特性およびF1雄子羊の産肉特性を明らかにする。

2.試験研究方法

1)F1子羊の発育特性
2)F1雄子羊の産肉特性
3)F1雄子羊によるラム肉の生産効率の試算

3.結果の概要・要約

1)−1F1子羊の発育特性(表1)では、F1子羊の育成率はいずれもSを上回っていた。発育ではPSがSより優れており、DSは総じてS程度、CSはやや劣る結果となった。

2)−1F1雄子羊の舎飼肥育における増体、飼料要求率(表2)では、CSがSに比べ、日増体量、要求率とも有意に劣る結果となった。PSでは有意な差ではないが、Sを上回る傾向にあった。

−2肥育後の枝肉成績(表3)では、DSがSに比べ枝肉に占める脂肪割合が高く、骨割合が低かった。なお、肥育前後の枝肉成績から枝肉構成の変化を推定した結果、DSは枝肉の増加量が大きかったが、脂肪の増加量もまた大きかった。一方、正肉の増加量で高い値を示したCSは、肥育日数が長いために産肉効率では劣り、濃厚飼料主体の舎飼肥育には適さないと考えられた。

−3赤肉の理化学性状および官能検査結果(表4)では、PSは赤肉のクッキングロスが少なく、官能検査からも多汁性の点でSより優ると評価された。一方、DSは赤肉にも脂肪を多く含み、テクスチャー特性において硬さ、凝集性、ガム性、いずれも低く、官能検査からも適度な柔らかさで総合評価もSより高いと特徴付けられた。

3)−F1雄子羊によるラム肉の生産効率を試算した(表5)。S母羊100頭からの雄子羊肉の総生産量は、正肉量ではPSとDSは1.3tで差がなく、いずれもSより多かった。TDN1㎏摂取当りの生産量では、枝肉、正肉いずれもPSが高い値となり、DSはSとほぼ同じ量であった。

−2S母羊を用いたF1雄子羊によるラム肉生産では、濃厚飼料主体で舎飼肥育する場合には、発育、増体、飼料の利用性、産肉性など、生産効率の面からPSを選択するのが有利であると考えられる。一方、DSは生産効率ではS並であるが、脂肪に富んだ柔らかい肉質のラム肉を提供できる点を評価できる。

表1 F1子羊の発育特性
交配品種
(雄×雌)
分娩
母羊頭数
生産
子羊頭数
離乳
子羊頭数
子羊
生産率
子羊
育成率
雄子羊の発育
生時体重 90日齢補正体重 離乳まで日増体重
(頭) (%) (kg)
S×S 814 1475 1337 181.2 90.6 5.2 32.7 0.31
P×S 33 61 58 184.8 95.1 5.3 34.8 0.33
D×S 35 60 57 171.4 95 4.8 32.4 0.31
C×S 20 38 37 190 97.4 5 30.7 0.29
F1合計 88 159 152 180.7 95.6 5 32.9 0.31
1)子羊生産率(%)=生産子羊頭数/分娩頭数×100
2)子羊育成率(%)=離乳子羊頭数/生産子羊頭数×100

表2 舎飼肥育の増体成績・飼料要求率
  PS DS CS
肥育開始時
体重(kg)
35.3 34.9 34.3 33.6
肥育終了時
体重(㎏)
54.6 53.7 53.5 52.3
日増体量
(㎏)
0.21 0.22 0.21 0.12**
飼料要求率
乾物 6.25 5.82 6.34 8.69*
TDN 4.76 4.45 4.99 6.95**
DCP 0.54 0.48 0.52 0.71

表3 肥育羊の枝肉成績
  PS DS CS
絶食前
体重(kg)
54.6 53.7 53.5 52.3
枝肉
重量(㎏)
24 24 24.7 24.1
ロース芯断
面積(㎝)
14.2 14.8 15.2 12.7
枝肉構成比(%)
正肉 65 65.8 64 67.1
脂肪 16.3 16.5 19.5* 15.6
18.2 17.3 16.1** 16.8

表4 赤肉理化学性状と官能検査結果
  PS DS CS
赤肉中
脂肪含量(%)
3 3 3.7* 5.1**
クッキングロス
(%)
24.1 20** 26.2 25.6
赤肉テクスチャー特性
硬さ(㎏/W) 3.5 4.2 2.4* 3.6
凝集性 0.62 0.59 0.58** 0.6
ガム性 221 248 142** 215
官能検査結果1)
匂い風味:気にならない 69.7 72.1 77.3 74.2
多汁性:好み通り 46.4 60.6 59 48.7
柔らかさ:好み通り 49.1 51.5 65.4 52.9
総合評価:おいしい 58.7 62 63.4 51.O
1)各回答者数/総数×100(%)
※表2、3、4の平均値の肩マークはSの値との比較における
有意差を示す(:*5%、.:**1%).

表5 F1雄子羊によるラム肉の生産効率の試算(S母羊100頭当り)
  PS DS CS
雄子羊離乳
頭数(頭)
82 86 86 88
肥育開始(90日齢)
体重(㎏)
32.7 34.8 32.4 30.7
肥育終了
体重(㎏)
50 50 50 50
肥育日数
(日)
82 70 85 166
枝肉
総生産量(t)
1.8 1.9 2 2
正肉
総生産量(t)
1.2 1.3 1.3 1.4
TDN1㎏摂取当り
枝肉生産量(㎏)
0.27 0.33 0.26 0.17
TDN1㎏摂取当り
精肉生産量(㎏)
0.17 0.22 0.17 0.12

4.成果の活用面と留意点

農家の保有するS雌羊群にP、Dの種雄羊を供給、交配することにより、効率の良いラム生産が翌シーズンから期待できる。

5.残された問題とその対応

1)今後のP、D種雄羊の供給体制の確保
2)雌子羊の肥育方法の検討