【指導参考事項】

1995256

成績概要書    (作成平成8年1月)

課題の分野:北海道畜産肉用牛繁殖 新得畜試
研究課題名:牛体外受精における培養技術の改善
       (体外授精技術を活用した良質胚多量確保技術の開発)
予算区分:地域バイテク
研究期間:平成3−7年度
担当科:新得畜試生産技術部生物工学科
              家畜部肉牛育種科
                   肉牛飼養科
担当者:南橋昭
協力・分担関係:畜試、北海道、東北、中国農試、岩手、山梨、滋賀、徳島、熊本県畜試

1.目的

 本試験では、胚移植に用いる良質の胚を多量に安定して確保することを目的とし、卵子の有効利用法、すべての種雄牛に有効な受精能獲得誘起法、および体細胞との共培養によらない発生培養法を検討し、安定して高率に胚盤胞の得られる体外受精技術の確立を目指す。

2.方法

(1)卵子の成熟培養卵巣から吸引採取したすべての卵子を卵丘細胞の付着量および膨化程度により分類し、1卵巣当たりの卵子数、それぞれの卵子の分割率、8細胞期および胚盤胞への発生率を検討した。

(2)精子の受精能獲得誘起受精培地としてカフェインを含むBO液を用い、受精培地に添加したカルシウムイオノホアまたはヘパリンが前核形成に及ぼす影響を検討した。

(3)体外受精胚の発生培養発生培地に血清を添加した修正TALPを用い、発生培養において酸素濃度および卵丘細胞の有無が体外受精胚の発生に及ぼす影響を検討した。

3.結果の概要

(1)卵子の成熟培養卵巣1個当りの平均採取卵子数は10.6個で、われわれが通常実験に用いている良質卵子およびそれに準ずる卵子は、それらの卵子のうち3.4個、32.2%であった。良質卵子およびそれに準ずる卵子以外のいずれの区においても胚盤胞が得られた。しかし、放射冠の無い卵子は、変性卵の割合が高く、体外受精後の分割卵および胚盤胞の割合とも低く、放射冠の一部を欠く卵子も胚盤胞の割合は低かった。卵子の成熟には卵丘細胞とくに放射冠が重要であることが示された。

(2)精子の受精能獲得誘起前核形成卵の割合はBO液のみの区で低かったが、ヘパリンを添加した区では、3頭の種雄牛において最も高く、1頭の種雄牛でも他の区と差はなく高かった。これらのことから、カルシウムイオノホア単独あるいはカルシウムイオノホアとヘパリンの併用よりも、ヘパリン単独、すなわち精子処理にはカフェインを含むBO液にヘパリンを添加した受精培地が最も有効であることが示された。しかし、1頭の種雄牛においてヘパリンを添加した区の前核形成卵の割合が60%に達せず、カフェインを含むBO液にヘパリンを添加した受精培地での精子処理も不十分と考えられた。

(3)体外受精胚の発生培養酸素濃度にかかわらず、卵丘細胞との共培養の区と比較して非共培養の区の方が分割卵、8細胞期胚および胚盤胞の割合が高かった。非共培養の区では、分割卵8細胞期胚および胚盤胞の割合は、酸素濃度が20%の区と5%の区とのあいだに有意差は見られなかったが、5%の区でそれぞれ52.7%39.2%および48.2%と最も高い値が得られた。これらのことから、ウシ体外受精胚は、発生培地に3%子ウシ血精を添加した修正TALPを用い、共培養によらず、39℃、5%CO2、5%O2、90%N2の気相条件で培養することにより、40%以上の高率で胚盤胞の得られることが示された。

(4)以下の方法により1頭から平均3−5個の胚盤胞が得られる。
 1)成熟培養:注射器により吸引採取したすべての卵子を10%子ウシ血清を添加したTCM199で24−26   時間培養する。
 2)受精:成熱培養を終了した卵子を、5mMカフェインと2units/mlヘパリンを含むBO液で3−4時間前培   養した精子に導入する。
 3)発生培養:授精後5−6時間目に卵子の卵丘細胞を剥離して除去し、3%子ウシ血清を含む修正TALP    に移す。授精後8−10日目(授精日を1日目とする)まで培養を継続する。
 4)気相条件:成熟培養および受精は39℃、5%CO2、95%空気、発生培養は39℃、5%C02、5%O2、   90%N2とする。

4.成果の活用面と留意点

 (1)本研究における精子の受精能獲得誘起方法は、種雄牛により効果が異なる。
 (2)血清およびBSAは、ロットにより良否があるので、事前にロットの検討が必要である。
 (3)培地を作成する水は、超純水が望ましい。

5.残された問題とその対応

 (1)生体内卵子の採取と体外受精法の検討
 (2)すべての種雄牛に有効な精子の受精能獲得誘起方法の検討
 (3)体外受精胚の耐凍性の向上