【指導参考事項】
1995257
成績概要書 (作成平成8年1月)
課題の分類: 研究課題名:PCR法による牛胚の性判別と新プライマーの開発 (牛胚の性判別に関する試験) 予算区分:道単 研究期間:平3−6年度 担当科:新得畜試生産技術部生物工学科 担当者: 協力・分担関係:なし |
1.目的
牛では生まれた子牛が雄か雌かによって経済価値が大きく変わる場合がある。また、2胚移植による双子生産では、移植する胚の性別がわからないので、フリーマーチンの発生は避けられない。したがって、目的に応じて人為的に産子の性を支配する技術の利用価値は高い。
最近になり遺伝子工学的技術が発達し、中でも目的とするDNA断片のみを大量に増幅できるPCR法は畜産の分野でも利用されはじめている。
本試験では、牛胚の性判別にPCR法が適用できるかを検討した。また新たに牛のY染色体に特異的なDNAを探索・解析し、それをもとにプライマーを設計してPCRによる牛胚の性判別技術の開発をめざす。
2.方法
1)牛胚の性判別におけるPCRの適用性の検討胚の一部をサンプルとしたPCRによる性判別の可能性および切断した胚の受胎性について既製のプライマーを用いて検討した。
2)牛Y染色体特異的DNAの分離・同定および新プライマーの設計牛の雌雄のゲノムDNAを分析して雌雄により違いの見られる部分を検索し、塩基配列を解析した。解析した配列を基にプライマーを設計し、PCRによる胚の性判別法について検討した。
3.結果の概要
1)PCR法を用いて牛胚の一部をサンプルとして雄に特異的なDNAを増幅・検出することにより、牛胚の性判別を行うことができた。また性判別した胚の移植試験・凍結試験を行った結果、コンタミネーション(不純物や不要なDNAの混入)による誤判別および胚を傷つけることによる耐凍性低下の問題が明らかとなった(表1)。
2)雄牛のゲノムDNAを制限酵素EooRIで切断し、1%アガロースゲルで電気泳動した。1.5kb付近のDNAバンド部分を切り出し、DNA断片を回収してプラスミドにクローニングした。得られたクローンについて雌雄に差があるものを検索したところ雄に特異的なバンドを示すクローンが1つ得られた。そのクローンに組み込まれたDNA断片について塩基配列の解析を行った。得られた塩基配列を基にプライマーを3組(A、B、C)設計しPCRを行った結果、プライマーAとCでは雄にのみバンドが1本検出され、プライマーBでは雄のバンドに加え雌雄共通のバンドが検出された(図1)。プライマーBについて胚の一部をサンプルとしてPCRを行い。染色体検査による雌雄判定の結果と比較したところ全て一致した(表2)。この結果からプライマーBを用いたPCRによりサンプリンクミスのチェックと雌雄の判別が同時に行えることが示された。
3)以上の結果から、PCRにより牛胚の性判別が可能であることが示された。また、独自に設計した新プライマーを用いれば従来2組必要であったサンプリンクミス(操作中における胚細胞の消失)のチェックと雌雄の判別が1組のプライマーで同時に行えることが示された。
表1. 性判別胚の移植成績実施年度 | 移植頭数 | 受胎頭数(%) | 分娩頭数 | 適中率 | |||
平成3〜4年 | 新鮮胚 | 13 | 6 | (46.1) | 6 | 66.7% | (4/6) |
凍結胚 | 8 | 3 | (37.5) | 3 | 66.7% | (2/3) | |
平成6年 | 凍結胚 | 35 | 9 | (25.7) | 5 | 100.0% | (5/5) |
合計 | 56 | 18 | (32.1) | 14 | 78.6% | (11/14) |
表2. プライマーBを用いたPCRと染色体検査の結果
検査胚数 | PCRによる判定結果 | 染色体検査結果 | 判定一致率(%) | ||
36 | ♂ | 26 | ♂ | 26 | 100 |
♀ | 10 | ♀ | 10 | 100 |
4.成果の活用面と留意点
PCR法は極めて高感度なので,サンプル採取時およびPCR増幅後の試料のコンタミネーション(不純物や不要なDNAの混入)には特に注意が必要である。
5.残された問題とその対応
以下の問題について,今年度より「キャピラリーPCRによる牛胚性判別実用技術の確立」で取り組んでいる。
1)性判別胚の耐凍性の改善
2)PCR法の簡易化
3)野外での移植実証試験(家畜の雌雄産み分け技術利用促進事業)