【指導参考事項】

1995258

成績概要書    (作成平成8年1月)

課題の分類:
研究課題名:ロタウイルスに起因する子牛下痢症の疫学的解析と診断・予防法
       (子牛のウイルス性下痢防除に関する試験)
予算区分:道費
研究期間:平2−6年度
担当科:新得畜試生産技術部衛生科
           家畜部肉牛育牛科
協力・分担関係:

1.目的

 子牛の下痢症の主要な病原体であるロタウイルスの疫学的な解析を行うとともに、その診断法、免疫学的予防法を検討し、子牛の下痢症による損耗の低下を目指す。

2.方法

 (1)牛C群ロタウイルスの疫学的解析
  1)牛C群ロタウイルスの分離と培養法の確立
  2)ELISAによるC群ロタウイルス診断法の開発と抗体調査

 (2)牛A群ロタウイルスに起因する子牛下痢症の免疫学的予防法の検討
  1)筋肉内および乳房内免疫によるA群ロタウイルスの母子免疫効果の検討
  2)不活化A群ロタウイルス投与時のアジュバント効果の検討
  3)子牛下痢症混合ワクチン投与による下痢予防効果の検討

3.結果の概要

(1)−1)十勝管内の成牛下痢便より牛で初めてC群ロタウイルスを分離し、Shintoku株と命名した。また、アカゲザル腎臓由来MA104細胞を用いた培養法を確立した。

(1)−2)ロタウイルス感染症の簡易診断法として、豚C群ロタウイルスに対する高度免疫血清を用い、牛、豚、人のC群ロタウイルスが検出可能なサンドイッチELISAを開発した。また、このウイルス検出用ELISAのブロッキング反応を利用して、特異性の高い抗体検出用ELISAを開発した。この抗体検出用ELISAを利用して、道内におけるC群ロタウイルス感染症の血清疫学的調査を実施した結果、牛の56.0%、豚の92.5%が抗体陽性であり、牛および豚C群ロタウイルスが広く浸潤していることが示唆された。

(2)−1)分娩前の成牛に対するA群ロタウイルスの筋肉内および乳房内接種により、血清中および乳汁中のウイルス中和抗体価を上昇させ、子牛の下痢発症率を低下させることができた。

(2)−2)野外応用が可能性なオイルアジュバント(MBL社)および水溶性樹脂アジュバント(カーボポール)の利用により、A群ロタウイルスに対する免疫応答を高めることができた。

(2)−3)分娩前の成牛に対する子牛下痢症混合ワクチン(ラクトバック、ドイツ)の接種により、初乳中のA群ロタウイルスに対する中和抗体価は上昇したが、子牛下痢症の予防効果は明らかにできなかった。

表1.C群ロタウイルスに対する抗体の保有状況
宿主 検査数 抗体陽性数(%) GMTa
80 74 (92.5) 120
50 28 (56.0) 27
(小児) 78 2 (2.6) 20
(成人) 53 7 (13.2) 44
a:抗体価の幾何平均値

表2. 筋肉内および乳房内免疫後の母牛の牛A群ロタウイルス中和抗体価と子牛の下痢発生状況
  免疫群(9頭) 対照群(10頭)
母牛分娩時抗体価    
血清 Lincoln 32,359a 490b
KK3 17,378a 832b
初乳 Lincoln 309,030a 3,388b
KK3 229,086a 7,585b
下痢発生頭数   5(55.6%) 1O(100%)
下痢持続日数   2.2 3.1
A群ロタウイルス
陽性頭数
  0(0%) 5(50%)
a,b:異文字間に有意差あり

表3. 子牛下痢症混合ワクチン接種後の母牛の牛A群ロタウイルス中和抗体価と子牛の下痢発生状況
  ワクチン群
(51頭)
対照群
(46頭)
母牛分娩時抗体価    
血清 640 160
初乳 5,881a1114b
下痢発症頭数 29(56.9%) 23(50.0%)
下痢初発日齢 19.2 14.4
下痢持続日数 2.7 2.9
A群ロタウイルス
陽性頭数
4(7.8%) 8(17.4%)
K99大腸菌
陽性頭数
O(0%) 0(O%)
サルモネラ菌
陽性頭数
0(O%) O(O%)
a,b:異文字間に有意差あり

4.成果の活用面と留意点

(1)開発したC群ロタウイルス検出用ELISAおよび抗体検出用ELISAは特異性が高く、多検体処理に適していることから簡易診断法として活用できる。なお、ウイルス検出用ELISAの検出感度は電子顕微鏡法と同程度である。

(2)試験2−(1)で試作したA群ロタウイルス生ワクチンの野外における実用化は困難であ乱また子牛下痢症混合ワクチンは現在日本には輪入されていない。

5.残された問題とその対応

 (1)牛C群ロタウイルスの病原性解明と広範な疫学調査による感染実態の解明
 (2)牛A群ロタウイルスに対する効果的なワクチンの開発と免疫方法の検討