【指導参考事項】

 成績概要書 (作成 平成8年1月)
課題の分類 北海道 家畜衛生 豚 細菌病 − 滝川畜試
研究課題名:北海道における豚のHaemophilus parasuis感染症の実態解明と診断技術の開発
      (豚のHaemophilus parasuis感染症の発病機構の解明)
予算区分:共同研究(大学)
担当科:滝川畜試 研究部 衛生科
研究期間:平5〜7年(1993〜95)
協力・分担関係:酪農学園大学

1.目的
 Haemophilus parasuis(Hps)は、Hps陰性のSPF豚に初感染するとしばしば致死的な病原性を示すため、SPF豚の普及上・注意すべき疾病となっており、その予防法の確立が急がれている。そこで本研究では、Hps感染症の予防法確立に向けて、これまで調査が行われたことがない北海道内の養豚場におけるHps浸潤の実態を明らかにするとともに、不活化ワクチンによる交差防御について検討した。また、Hpsの同定検査の簡易化・迅速化をはかるため、免疫学的な手法を応用した同定法の開発を行った。
 

2.方法
1)北海道内の養豚場におけるHaemophilus parasuisの浸潤状況
(1)見かけ上健康豚の鼻腔スワブから分離されたHaemophilus parasuisのPAGE型および血清型
(2)発病豚の病変から分離されたHaemophilus parasuisのPAGE型および血清型
2)野外株の病原性の検討
3)ホルマリン不活化菌体による免疫の交差防御の検討
(1)感染実験による交差防御の検討
(2)ウェスタンブロッティングによる抗原解析
4)ELISA法による迅速同定法
 

3.結果の概要
1)-(1)見かけ上健康豚の鼻腔スワブからの菌分離により、北海道内の15養豚場のうち13場でHpsの浸潤が確認された。分離株の血清型では型別不能株が最多で、次いで1型、2型が多かった。しかし、道外で高率に分離される5型は検出されず、Hpsの血清型の分布に地域的な相違があると推察された(表1)。
1)-(2)発症豚の病変から、国内での報告が少ないPAGEⅠ型株や血清型2または7型株が分離されたことから、PAGE型や血清型と病原性の関連をさらに検討する必要性が認められた(表2)。
2)病変由来のPAGEⅠ型血清型2型の2株、PAGEⅠ型血清型7型の1株について病原性を検討し、これらの株が致死的な病原性を有することを明らかにした(表3)。
3)-(1)血清型2、5および7型株の間で、ホルマリン不活化菌体の免疫により交差防御が認められたが、市販ワクチンに用いられている5型株で免疫し、2型株で攻撃した場合に、交差防御の程度が弱いことを明らかにした(表4)。この結果に基づいて、ワクチン製造会社による血清型2型株を用いた市販ワクチンの開発研究が開始された。
3)-(2)Hpsで免疫した豚の血清を用いて、Hpsの抗原をウェスタンブロッティングにより解析したところ、57kDa,41kDa,32kDa,18kDaおよび15kDa付近のバンドが検出され、主要な抗原であると考えられた。しかし、PAGE型のマーカーバンドは検出されず、抗原として認識されていないことが明らかになった。
4)ELISA法を応用したHpsの迅速同定法について検討し、純培養した菌株により調製した菌液をセルロースアセテート膜にスポットし(菌液スポット法)、血清型5または6型株で免疫したウサギ血清を一次血清に用いることにより、血清型1〜6型の野外Hpsを効率よく検出・同定できることを明らかにした(図1)。
以上の成績から、北海道内の養豚場におけるHpsの浸潤株および病原性株は道外こおける報告と異なっていることが明らかとなり、北海道独自のHps感染症予防対策の必要性が示された。また、従来法よりも早期にかつ簡易にHpsを検出できる迅速同定法が開発された。

表1 鼻腔スワブから分離されたHpsのPAGE型および血清型の分離頭数の内訳1)
血清型
  1 2 3 4 5 6 7 UT2)
PAGE 17 16 4 2 0 9 0 39 73
4 9 0 4 0 0 1 14 28
21 25 4 6 0 9 1 50 93
1)頭から複数型の分離があるため各行列の合計と計の数字は一致しない.
2)型別不能株

表2 病変由来HpsのPAGE型および血清型
事例 分離株
No. 農場 頭数 PAGE型 血清型
1 KE 1 2
2 HM 1 2
3 TK 2 4
4 TK 1 7
5 AB 1 4
6 SK 1 4
7 YN 3 5、UT
8 TK 1 5、UT

表3 PAGEⅠ型株によるSPF豚攻撃試験の成績
接種菌量 気管内接種 鼻腔内接種
滝川1881) 滝川6351) 滝川5992) 滝川599
109 3(3)/33) NT4) NT NT
105 3(2)/3 3(3)/3 2(2)/2 2(O)/3
104 NT 2(2)/2 NT O(O)/2
103 NT 3(3)/3 1(0)/2 O(0)/3
1)血清型2型、2)血清型7型、
3)発病頭数(死亡頭数)/供試頭数、
4)実施せず

表4 不活化菌体により免疫したSPF豚に対する攻撃試験成績
  攻撃株1)
滝川1882) 滝川5993) Nagasaki4)
免疫株 滝川188 0(0)/35) 0(0)/3 0(0)/3
滝川599 1(0)/3 0(O)/3 1(0)/3
Nagasaki 2(0)/3 0(0)/3 0(0)/3
なし 3(2)/3 2(2)/2 1(1)/1
1)10個を気管内接種、2)血清型2型、
3)血清型7型、4)血清型5型、
5)発病頭数(死亡頭数)供試頭数

4.成果の活用面と留意点

1)現在、滝川188株を用いた不活化ワクチンの開発が進められており、市販に至れば北海道に特徴的な血清型2型によるHps感染症の予防が可能となる。

2)本試験で明らかにされた以外にも病原性株が存在する可能性が考えられるので、発病豚から分離したHpsについてはPAGE型・血清型を決定し、菌株を保存しておくことが望ましい。

3)現時点におけるHps感染症の予防・治療法は、平成6年度成績書「コンベンショナル養豚場におけるSPF種豚の導入技術」を参照のこと。

5.残された問題とその対応

1)より広範囲な病原性Hps株に対応した予防法を確立するためには、Hpsの病原性物質を明らかにすること、そしてその検出方法を確立することが必要である。

2)感染抗体は不活化ワクチンによる抗体よりも広範囲のHps菌株に対して交差防御が認められると考えられているが、そのような現象が認められるか、また認められた場合の機序について明らかにする必要がある。

3)Hpsをより高精度かつ迅速に検出できるDNA診断技術を応用した同定法の開発が必要である。