【指導参考事項】

1995264

成績概要書     (作成平成8年1月)

課題の分類:
研究課題名:天北地域における放牧実態と高泌乳牛の放牧技術指標
       (天北地域における放牧を主体とする高泌乳牛飼養管理技術モデルの策定)
予算区分名:道費
研究期間:平5−7(1993−95)
担当科:天北農試研究部草地飼料科
担当者:
協力・分担関係:なし

1.目的

 天北地域における放牧についての今後の意向を明らかにするとともに、通年繁殖における高泌乳牛の放牧飼養管理技術指標を設定し、当地域の放牧技術の向上を図る。

2.方法

1)天北地域における放牧の実態と今後の意向(アンケート調査)アンケート配布酪農家:天北地域の12市町村、155戸(回収数133戸)

2)放牧主体高泌乳牛飼養酪農家の放牧技術と成果高泌乳農家4戸、中・低泌乳農家5戸(浜頓別町、中頓別町、猿払村)

3)高泌乳牛の放牧飼養管理技術指標の設定1)、2)の結果および既往の成績を基にして放牧飼養管理技術指標を設定する。

3.結果の概要

1)天北地域における放牧の実態と今後の意向(アンケート調査結果)
 放牧は搾乳牛で84%実施されていた。今後放牧を現状維持・拡大する理由として低コスト、手間がかからない、健康・繁殖に良いなどがあげられた。放牧地の管理利用についての重視事項としては、マメ科草割合、利用草丈、草種・品種、早春からの放牧などがあり、今後放牧地で増加したい草種ではペレニアルライゲラス(PR)が多かった。

2)放牧主体高泌乳牛飼養酪農家の放牧技術と成果

ア.1戸当たり経産牛頭数は高泌乳農家が35頭、中・低泌乳農家が41頭であり、また、経産牛1頭当たり乳量はそれぞれ8,740㎏、7,070㎏であった。

イ.高泌乳農家は放牧利用草地(経産牛1頭当たりの放牧地十兼用地)が多く、放牧開始時期も早く、放牧期間は長かった。

ウ.牧区および牧道の配置、整備状況は酪農家間で大きな差異があり、省力化のためには、牧区や牧道の整備が重要であった。

エ.高泌乳農家では、入牧時の草丈が低く、単量は少なく、その変動も少なかった。また、放牧草の栄養価は高く、ケンタッキーブルーグラス(KB)の割合が少なく、マメ科率も高かった。PR基幹放牧草の栄養価は、特に、高い傾向にあった。

オ.放牧期における日乳量は高泌乳農家が29.5㎏と中・低泌乳農家の23.6㎏に比べて高く、また、泌乳の持続性について問題は認められなかった。

カ.疾病の年間発生率は酪農家間の差異が大きかった。高泌乳農家では中・低泌乳農家に比べて発生率が全般的に低く、また1〜6月分娩で空胎日数は少なかった。

キ.高泌乳農家では、牛乳生産費が低く、経営成果も良好であった。

3)高泌乳牛の放牧飼養管理技術指標の設定上記1)、2)および既往の成績から、PR基幹放牧草地の放牧草の乾物中TDN含量は5月〜6月に75%、7月以降は70%に、乳量8,500㎏の乳牛における放牧草の日乾物摂取量は昼夜放牧で12㎏、8時間放牧で8㎏にそれぞれ設定し、飼料給与設計例を示した。また、放牧草の年間乾物生産量を620㎏/10aに設定し、放牧必要面積と牧区数、放牧利用スケジュールの基準を示した。

表1.高泌乳農家と中・低泌乳農家における放牧実施状況の差異(平成5年)
乳量水準 放牧期間
月日〜月日
入牧時草丈
イネ科草㎝
入牧時草量
DMkg/10a
草種構成(生草%) 栄養価(DM中%)
PR OG KB マメ科 CP TDN
5.11〜11.2 22±5 137±47 27 12 4 25 19.5 69.1
中・低 5.21〜10.24 28±10 189±85 11 26 23 5 16 61.2

表2.PR基幹マメ科混播放牧草の月別TDN含量(DM中%)
5 6 7 8 9 10 全平均
平均 74.1 75.7 71.8 66.5 68.7 73.7 71.8
標準偏差 4.3 4 2.6 2.9 2.9 3.9  
*サンプルはPRが30%以上で、かつPR+マメ科牧草の合計が50%以上の酪農家の放牧草である。

表3.乳量および乳脂率の推移(高泌乳農家、平成5年)
4 5 6 7 8 9 10 11 夏期間 冬期間
乳量(kg) 27.7 29.6 32.3 31.2 28.8 28.4 27.1 24.7 29.5 26.9
乳脂率(%) 3.94 3.87 3.74 3.71 3.66 3.56 3.98 4.01 3.75 3.98

表4.設定した放牧条件の基準値(草量は乾物量)
草地:PR基幹シロクローバ混播草地、放牧期間:5月上旬〜1O月下旬・11月上旬
放牧草地の生産性(年間再生量:620㎏/10a、年間利用草量:530㎏/10a、年間利用率:85%)
入牧時草量:130kg/10a、退牧時草量:70kg/10a、放牧1回当たりの利用草量:60㎏/1Oa
放牧回次毎の牧草利用率(放牧地と兼用地1:46%、兼用地2:60%)、滞牧日数:1日
放牧草摂取量(昼夜放牧:12㎏/頭・日、8時間制限放牧:8㎏/頭・日)
必要生育日数*(5月:15目、6月:14日、7月:18日、8月:20日、9月:23日、10月:45日)
*利用時までに必要な草量60㎏/1Oaを生産するために要する日数

表5.放牧草地の利用計画例
  放牧地 兼用地1 兼用地2
基幹草種 PR PR TY、OG
面積
(ha/頭・泌乳牛)
 
昼夜放牧 O.28 0.12 0.13
8時間放牧 0.187 0.08 0.087
牧区数 14 6 1(13)
年間利用回数 10 6 1
利用開始時期 5月上旬〜 7月上旬〜 9月下旬〜
*兼用地1は1番草を6月中旬に刈り取り、再生草量(乾物)130kg/10a程度で利用する。
**兼用地2は再生草量(乾物)200kg/10a程度を確保出来るように前番草を収穫し、放牧時には移動式電牧で13区分し利用する。

4.成果の活用面と留意点
1)天北地域こおける高泌乳牛の放牧飼養管理の技術指標として活用する。
2)採食性の良好な高栄養の放牧草の利用、および放牧利用草地の整備が前提である。

5.残された問題とその対応
1)舎飼期を加えた総合的な高泌乳牛飼養管理モデルの策定と経済評価