【指導参考事項】

1995290

成績概要書     (平成8年1月)

課題の分類:
研究課題名:タマネギと水稲を対象としたクリーン農業の経営経済的評価
        (クリーン農業の経営経済的評価)
予算区分:道費
研究期間:平3〜7年
担当科:中央農試経営部経営科
協力・分担関係:なし

1.目的

 本道の各地地域では、環境保全や安全・良質な農産物の安定供給として、減農薬・減化学肥料栽培のクリーン農業が推進されている。この先進的な実態解析からは、クリーン農産物の販路形成と収益を実現している事例はみられるが、一方では、減農薬・減化学肥料技術はまだ未確立な段階であり、「労働負担増」、「収量の低位性」、「費用増」などの問題点が指摘されている。この課題では、露地野菜(タマネギ)と水稲を対象に減農薬・減化学肥料栽培の事例を慣行栽培との対比において、その栽培の特徴と経済性を検討した。

2.方法

 (1)道内におけるクリーン農業(有機栽培を含)の事例解析
 (2)クリーン農業の実態調査・解析
  ①タマネギにおけるクリーン栽培の実態分析と経済性評価
  ②水稲におけるクリーン栽培の実態分析と経済性評価

3.結果の概要

(1)タマネギの減農薬・減化学肥料の栽培実態と経済的評価

①調査対象とした事例からは、減農薬・減化学肥料栽培は収量などの不安定要因や除草作業など新たな労働負担の制約があり、タマネギ作付面積の一部に限定された取り組みとなっている。

②タマネギの減農薬・減化学肥料栽培には次の二つの形態が示される。①生産者と流通・消費者との提携した有機物活用と減農薬栽培や、農産物の販路形成、契約価格の設定が行われている事例と、②収量を維持しながら減農薬・減化学肥料技術を確立し、品質向上とコスト低減の取り組みがある。②の事例においても特定の消費者と提携した流通・販売を行っており、クリーン農業はこれを強める取り組みとして位置づける経営が含まれている。

③ここで対象としたフードプラン事業や生協と提携した減農薬・減化学肥料栽培の事例をみても、代替技術がまだ未確立な段階であり、慣行栽培との対比で収量低下や除草作業の労働費、肥料費増加などの問題点が指摘される。これら問題点を抱えながらも、この取り組みが進んできたのは、①堆肥の投入など地力維持を基礎に減農薬栽培で安全・良質な農産物の持続的生産と、②消費老との提携による安定した販路形成と生産費用を償う価格の設定があげられる。調査農家においても、生産者と消費者で協議した栽培方法が費用増や単位収量の減少(15〜20%)しても、それを償う価格が設定されると慣行栽培と同等の収益確保が可能となる。

(2)水稲の減農薬・減化学肥料の栽培実態と経済的評価

①水稲において減農薬・減化学肥料栽培は、特別栽培米及び特別表示米の生産・流通で行われる事例が多い。本道では、この特別栽培米と特別表示米の生産・流通量は毎年増加しており、平成6年には道産米流通の5%を越えていると推計される。

②この特別栽培米と特別表示米の生産・流通を農協が主体となり組織的な取り組みを進めている稲作の事例からその栽培の特徴と収益形成をみた。特定の消費者と提携した減・無農薬栽培等の特別栽培米の生産を進め、その取り組みを基礎として地域全体を対象に特別表示米の生産・流通を進めている。これは、米産地としての競争力を高める方向で、生産者と消費者の健康と安全で良質な米の安定供給やそれを可能とする栽培技術の確立を自らで試行している。

表1 タマネギフードプランと慣行栽培の費用比較、経済性 単位:円、kg
項目 慣行栽培 フードプラン 価差 要因・備考 生産費調査
種苗費 13,000 13,000     I3,95I
肥料費 15,775 33,768 17,993 有機質肥料の使用 32,543
農業費 12,008 5,800 △6,208 農薬使用の減少 15,958
その他費用 26,413 26,413     12,631
機械・施設 39,433 39,433   償却費含 48,409
労賃 61,880 85,540 23,660 手取除草の労働費増 97,854
生活費 168,509 203,954 35,445   221,346
①単位費用 602 1,118 516   800
収量 5,600 3,650   収量35%減 5,481
流通経費 207,340 135,051 △72,289 収量差による  
費用統計 375,849 339,005 △36,844    
販売価格 1,700 1,950 250    
②農業手取 960 1,210 250    
②−①利益 358 92 △266 単位農業手取費用  
 注)慣行栽培の販売価格はここ数年の東京・大阪の市場価格(道産物)

表2 タマネギ減農薬・減化学肥料栽培と慣行栽培の費用比較 単位:円、Kg
項目 慣行栽培 減農薬栽培 格差 果因・備考
種苗費 15,028 15,028    
肥料費 20,027 36,342 15,415 有機質肥料の使用
農薬費 10,224 7,923 △2,301 農薬減少・資材投入
その他費用 14,682 14,682    
機械・施設 40,770 40,770    
労賃 72,410 96,460 24,050 除草・粗選果時間増
生活費 174,041 211,205 37,I64  
①単位費用 720 1,086 366 20㎏当り費用と格差
収量 4,835 3,890   収量20%減
流通経費 161,973 I6,533 △145,440  
費用統計 336,014 227,738 △108,276  
販売価格 I,700 1,500 △200  
②農家手取 1,030 1,415 385  
②−①利益 310 329 19 単位農家手取-費用
注1)減農薬栽培の流通経費には運賃・選果(個選)を含めない。
2)滅農薬栽培の販売価格は流通経費の減額分を考慮した庭先価格

表3 水稲の無除草剤、有機栽培の経済性評価 単位:円
項目 A慣行栽培 B無除草剤
栽培
C無農薬・
無化学肥料
備考
肥料費 0 0 12,776  
農薬費 0 3,307 1,340* 木酢等
諸材料費 9,135 9,135 9,135 種子・光熱含
農機・賃料 34,449 36,449 36,449* 除草機加算
建物・水利 19,295 19,295 19,295* 公課含
労働費 0 31,600* 40,600* 除草労資増
①費用合計 62,879 99,786 119,595  
労働時間 0 41.8* 46.3* 除草労働増
収量 568 540 483  
②価額 I61,170 171,225 173,276  
②−①   B-A C-A  
差引   -20,900 -31,647  
(労賃除く)   (I0,700) (8,953)  
注1)収量は冷害年を除くここ3年の平均収量
2)費用等は調査対象農家を標準(平均)化した値

4.成果の活用面と留意点

①タマネギと水稲を対象とした減農薬・減化学肥料栽培の事例は、いずれも生産者と消費者との提携による栽培方式の協定と生産物の販路形成、契約価格の設定が行われている。消費者との提携を欠く減農薬栽培は販路が形成されず収益の不安定要因となる。

②農薬・化学肥料の削減に代替する技術は多様である。ここでは個々の栽培技術の効果は検証していない。技術の適用に当たっては実証的な栽培の実施が必要である。

5.残された問題点とその対応

①減農薬・減化学肥料栽培の代替技術の体系化と慣行栽培との比較評価は不十分な段階である。

②クリーン農業技術の実践には、「低コスト」と「差別化」視点からの評価が必要となるが、開発技術の導入と技術的効果、経済的評価における評価基準は、今後、新たな課題で取り組む。