【指導参考事項】
1995291
成績概要書 (作成平成8年1月)
課題の分類: 研究課題名:根釧地域における高泌乳牛を対象にした集約放牧技術の経営経済的評価 (放牧を効率的に利用した低コスト牛乳生産技術の実証) 予算区分:国補 研究期間:平成3年〜6年 担当科:根釧農試研究部経営科(放牧プロジェクトチーム) 協力・分担関係:なし |
1.目的
乳牛飼養の多頭化が進むなかで放牧の利用率は低下してきた。しかし、国際競争力が問われるなかで、低コスト化、省力化が期待される放牧利用への関心が高まってきた。ここでは高泌乳牛8,550kg(初産牛を除くと9,000㎏)を対象に開発した集約放牧(1日15時間放牧)技術について、経営経済的効果を明らかにする。
2.方法
集約放牧技術(比較標準化モデル2:実証試験成果および既往の試験成果により構築)についてつぎの二つの経営モデルと比較分析して評価する。
(1)基準標準化モデル:精査農家の実態調査および地域の実態を考慮した放牧経営
(2)比較標準化モデル1:基準標準化モデルを通年舎飼とした場合の経営モデルは、根釧地域を代表する標茶町と標津町の実態調査をもとに構築した。なお、比較分析上各経営モデルとも、経産牛頭数規模50頭、スタンチョン飼養とした。
3.結果の概要
1)放牧期(5月下旬〜10月中旬)における所要労働時間は集約放牧が2,116時間であり、地域の標準的な放牧より9%、通年舎飼より15%少なく省力的であった。とくに、兼用地の増加による2番草収穫作業の減少は労働ピークを緩和し、雇用労働費の軽減に結びつき、集約放牧の省力化効果は大きいものと考えられた(図1)。
2)集約放牧による農業所得額は1,298万円であり、地域の標準的(1日4.5時間)な放牧に対して9.7%増加し、通年舎飼に対しては11.8%の増加が見込まれ、所得のうえでも放牧飼養、とりわけ集約放牧の効果が高いことがしられた(表1)。
3)家族労働10時間当たり農業所得額は集約放牧が26,656円であり、地域標準に対して11.5%増加し、通年舎飼に対しては13.8%増加した。
4)草地10a当たり農業所得額は通年舎飼の22,538円に対して、地域の標準が10.5%、集約放牧が4.0%減少した。
5)牛乳100㎏当たりの生産原価は、集約放牧が5,666円であり、地域の標準的な放牧より4.9%、通年舎飼より5.8%低コストであった(表2)。
6)土地生産性では放牧飼養が低位となるが、省力化および所得の同上を併せ総じてみるならば、通年舎飼よりは、放牧飼養の効果が高く、放牧でも1日4.5時間の制限放牧よりは1日4.5時間の集約放牧技術を採用した経営の成果は高いものと考えられた。
表1 モデル別の良業粗収益および模業経営費(単位:1000円)
経営モデル | 地域の標 準的放牧 |
通年舎飼 | 集約放牧 | |
粗 収 益 |
牛乳収益 | 32918 | 32918 | 32918 |
個体販売 | 4840 | 4840 | 4840 | |
農業粗収益 | 37758 | 37758 | 37758 | |
農業経営費 | 雇用労働費 | 416 | 580 | 233 |
25924 | 26147 | 24773 | ||
農業所得① | 11834 | 11610 | 12985 | |
家族労働時間 | 4950 | 4955 | 4871 | |
家族労働10時間当り① | 23907 | 23431 | 26656 | |
草地面積10a当り① | 20092 | 22456 | 21568 |
表2 自給飼料生産原価(単位:1000円)
地域標準 | 通年舎飼 | 集約放牧 | |
草地面積ha | 58.9 | 51.7 | 60.2 |
費用合計 | 11001 | 10751 | 10707 |
副産物価額 | |||
生産原価 | 11001 | 10751 | 10707 |
10a当り生産原価 | 18677 | 20795 | 17786 |
同上(自家労貸除く) | 17015 | 18911 | 16440 |
表3 牛乳生産原価(単位.1000円)
地域標準 | 通年舎飼 | 集約放牧 | |
乳量t㎝ | 4275 | 4275 | 4275 |
費用合計 | 30223 | 30506 | 29061 |
副産物価額 | 4840 | 4840 | 4840 |
生産原価 | 25470 | 25708 | 24221 |
100㎏当り原価 | 5958 | 6014 | 5666 |
同上(自家労貸除く) | 4398 | 4452 | 4131 |
4.成果の活用面と留意点
1)根釧地域の放牧利用を主たる対象とする。
2)スタンチョン飼養で経産牛40〜60頭規模経営の放牧利用を主たる対象とする。
3)放牧の効果をより高める上から地域的な視点での交換分合による団地化が望まれる。
4)根釧地域における高泌乳牛の集約放牧技術(平成6年度:根釧農試)を遵守する。
5.残された問題とその対応
1)放牧の導入割合別経営経済効果
2)放牧の乳牛飼養頭数規模別経営経済効果
3)フリーストール飼養方式における放牧導入の経営経済効果
4)放牧地(施設含む)の配置と生産コスト
なお、1)については、「ゆとりある酪農経営を目指した放牧による生乳生産の体系化:平成7〜9年」の課題で取り組んでいる。