成績概要書(作成平成8年1月)
研究課題名:水稲の育苗期における細菌病の防除対策 (水稲の育苗期における細菌性病の防除対策) 予算区分:道費 担当科:中央農試 稲作部栽培第二科 上川農試 研究部病虫科 研究機関:平成3−6年 |
1.目的:水稲の育苗期における細菌病の発生生態を解明し、総合的な防除対策を確立する
2.方法:発生生態:発生実態、被害、種子伝染、二次伝染
防除対策:種子予措および育苗管理による対策、種子消毒
3.結果の概要
(1)苗立枯細菌病
1)本病の発病苗は、本田移植後枯死し、枯死しないものも著しく生育が劣るので、発病苗は廃棄し移植に用いない。
2)苗の発病したハウスの苗床には病原細菌は残らない。しかし、罹病残渣には菌が残存するので、発病苗および育苗土は苗床にすき込まず、育苗に関係ない場所で処分する。
3)本病の第一次伝染源は種子であるが、保菌種籾率は1%以下と極めて低いため、実際の発病と被害は育苗過程における二次伝染で決まる。
4)本病の二次伝染期問は浸種開始時から1葉期までの長期間に及び、特に催芽から出芽および出芽後の加温期問における蔓延がもっとも著しい(図1)。
5)浸種が不十分だと、その後の加温期間である催芽および出芽期問が長引き、二次伝染が助長される(図2)。したがって、浸種は適温(11〜12℃)で十分行う。
6)出芽器の使用は発病を助長するので(図3)、できるだけ使用を避ける。出芽期間は本病の蔓延期間であるので、長引かないように注意する。置床出芽での被覆期間の延長は、発病を助長するので注意する。
7)出芽後の育苗管理は、1葉期までの期間の温度および水管理に特に注意する。高温と過灌水は著しく発病を助長するので(図4)、育苗温度を25℃以上にしないで、灌水も必要最小限にとどめる。
(2)褐条病
1)不完全葉以上に褐条がみられる重症苗では苗質が低下し、本田に移植すると生育および収量が著しく劣る(表1)。また、軽症苗や無病徴の保菌苗を移植しても、種籾が汚染されるため、発病苗を移植した水田産の籾は種籾として使用すべきではない。
2)予浸および催芽を循環または静置、出芽を出芽器使用または置床出芽で、褐染病の発病に及ぼす影響を調査した結果、その影響は、催芽>>出芽>予浸の順に大きく、循環催芽は静置催芽に比べて発病が1.8〜21.0倍に助長された。
3)種子消毒を行っても、循環催芽を行うとその防除効果は明らかに低下したため、種子消毒だけで発病を抑えるのは困難である。以上のことから、催茅には循環式催芽器を使用しない。
(3)種子消毒
以下の種子消毒剤がいずれの細菌病に対しても有効であった。しかし、その効果は完全ではなく、種子消毒を行っても実用上問題となる発病がみられる場合もあり、種子消毒だけで細菌病を防除することは困難であるので、上記の種子予措および育苗管理による対策を必ず講じる。
①銅水和剤:2000倍液24時間浸漬
②イプコナゾール・銅水和剤F:200倍液24時間浸漬,7.5倍液3%吹き付け
③オキソリニック酸・プロクロラズ水和剤F:20倍液24時間浸漬,7.5倍液3%吹き付け
(風乾あり)
④オキソリニック酸・トリフルミゾール水和剤F:20倍液24時間浸漬,7.5倍液3%吹き付
け(風乾あり)
表1褐条病発病苗の本田移植後の生育と次年度の発病(平成4年)
発病程度 | 生存株数 | 分げつ(本/株) | 収量 | 発芽率 | 保菌種籾の発病菌率(%) | |
(無病徴を100) | 軽症苗 | 重症苗 | ||||
無病徴 | 27/27 | 14.6 | 100 | 100 | 50.7 | 14.4 |
鞘葉に褐条 | 21/21 | 15.6 | 92 | 101 | 68.9 | 10.8 |
不完全葉に褐条 | 27/27 | 16.9 | 84 | 111 | 59.4 | 8.3 |
第1葉以上に褐条 | 16/24 | 10.5 | 56 | 89 | 61.8 | 6.7 |
4.成果の活用面と留意点
種子消毒だけでは細菌病の被害を防ぐことは困難なので、種子予措および育苗管理による対策を必ず講じることを基本とする。
5.残された問題とその対応
健全種子生産のための種子の保菌抑制技術の開発