成績概要書
(作成平成8年1月)
研究課題 小麦赤かび病の発生生態と品種の抵抗性検定法
(小麦の品質劣化要因の解明と赤かび病抵抗性素材の作出)
(高品質小麦の理化学的条件の解明と赤かび病抵抗性素材の作出)
(極良品質小麦の開発促進一特性検定と選抜の強化一)
予算区分 共同研究および道費 
担当 北見農試研究部病虫科・小麦科
研究期問 (共同:平成元〜6年)(道費:平成7〜12年)
協力・分担  (株)北海道グリーンバイオ

1.目的
小麦赤かび病菌の1種、Microdochiumnivaleの発生生態を解明し、防除対策に役立てると
ともに、抵抗性品種の育成に利用できる簡便で精度の高い赤かび病の検定法を開発する。

2.方法
赤かび病の発生生態::病原菌の同定、発生実態、病原性検定、M.nivaleの生活環・発病要因・大量培養法・子のう殻形成法
赤かび病菌4種の接種条件:接種量、接種時期、小麦品種への病原性
検定法:接種袋掛け法、濃厚液接種法、灌水ハウス法
三つの検定法による品種の抵抗性検定:発病の個体間差、反復間差、開花期と発病程度、
年次間差、二つの方法の組合せ、穂の発病と被害粒、三つの検定法と自然発病の関係

抵抗性検定法の概要
  接種袋掛け法 濃厚液接種法 灌水ハウス法
接種源 F.graminearum分生子 同左 なし ユニバーノズル
初田1/4PT、地上2m
から降水量5㎜程度
接種方法 5x104/ml,30ml/10穂 5x105/ml,120mI/㎡ なし
接種時期 開花期 開花期 なし
灌水 なし なし 2日間隔で散水(開花中)
保温・保湿 パラフィン紙袋、2日間 なし ビニール及び寒冷紗被覆
(出穂直前〜糊熟期)
調査時期 接種3週間後 接種3週間後 開花期3週間後

3.結果の概要
(1)赤かび病の発生生態
1).網走、十勝管内の赤かび病個体から分離された主要な病原菌はFusarium graminearum,
F.avenaceum, およびMicrodochium niva1eであった。その菌種割合は年次によって大きく異なった。
2).このうち、最も強い病原性をもつものはF.culmorumであった。次いでF.avenaceumあるいはF.culmorumでM.nivaleは最も弱かった。またM.nivaleの完全世代であるMonographella nivalis由来の大型分生子も病原性を持つことが明らかになった。
3).昭和63年〜平成5年にかけて、紅色雪腐病の発生と赤かび病の関係について検討し
た結果、紅色雪腐病と赤かび病の発生量には直接的な関係は認められなかったが、紅色雪腐病罹病個体からの分生子・子のう胞子の形成、葉身・葉鞘の発病、さらに赤かび病へとつながる伝環がほぼ明らかとなった。
4).M.nivaleの分生子による穂への感染に必要な水滴保持時間は15℃で6時間前後、子のう胞子はそれよりやや短いようであった。しかし、低湿度条件下ではほとんど感染せず、圃場での分生子接種による発病は難しいと考えられた。
5).M.niva1eの分生子の大量培養にはショ糖添加コムギ煎汁寒天培地またはエンバク粒培地で15℃、12hr/day以上のBLB照射下で培養することが適当であった。また、子のう胞子の形成は15℃の麦稈上で良好であった。
(2)赤かび病の抵抗性検定法の開発
1).赤かび病菌の接種量を検討した結果、F.graminearumでは大型分生子5×103/m1以上の濃度で発病が認められ、5×105/m1までは濃度の高いほど激しい発病となった。この結果から接種袋掛け法では分生子濃度を5×104/m1にすることとした。なお、M.nivaleでは5×105/mlでも発病が認められなかった。
2) 赤かび病菌の感染時期は、F.graminearumの接種袋掛け法で検討したところ、従来から言われているように、開花期およびその前後であることが確認された。
3)F.graminearum, F.culmorum, F.avenaceumでは品種・系統に対する反応がほぼ同様であり、抵抗性検定には最も病原性の強いF.graminearumを3菌種の代表として使用できると考えられた。なお、M.niva1eについては前3菌種と同様の傾向もみられるが、さらに高い発病が得られる接種条件のもとで確認する必要がある。
4).抵抗性検定法として接種袋掛け法、濃厚液接種法、灌水ハウス法について検討した結果、3法ともそれぞれ個別には品種間差の検出が可能であり、検定方法として有効と考えられた。
5).ただし、濃厚液接種法および接種袋掛け法では接種時の低温によって早生種の発病が回避される傾向にあり自然発病と近似する。一方、灌水ハウス法は品種が本来持っている抵抗性を評価できる。そこで濃厚液接種法または接種袋掛け法と灌水ハウス法との組合せによる検定が最も良いと考えられた。即ち、灌水ハウス法の発病指数をX軸、濃厚液接種法または接種袋掛け法の発病指数をY軸とし、基準品種をそれぞれタクネコムギ、ホロシリコムギとして、X軸はタクネコムギの発病指数、Y軸はホロシリコムギの発病指数でそれぞれ線を引き、4つの部分に分ける。こうすることによって左下にある品種は抵抗性、右下は発病回避型、右上は罹病性と判定できる。
6).濃厚液接種法による育成系統の各品種・系統における被害粒率と穂の発病指数とは高い相関が認められ、穂の発病指数から被害粒をある程度推定することも可能であると考えられた。
7).濃厚液接種法は十勝農試自然発病と最も近似した発病傾向を示した。ただし、十勝農試においては3年に1回の割合で全く発病を見ないことがあり、自然発生では安定的に検定することが難しいため、上記の方法を用いた方が有効と考えられた。

4.成果の活用面と留意点
1).Microdochium nivaleの発生生態(病原性、伝染環、感染条件、分生子および子のう殻の形成など)を明らかにした。
2).Fusarium属菌による赤かび病に対する小麦品種の抵抗性検定法として、接種袋掛け法、
濃厚液接種法および灌水ハウス法を確立した。ただし、濃厚液接種法および接種袋掛け法では接種時の低温によって早生種の発病が回避される傾向にある。一方、灌水ハウス法は品種が本来持っている抵抗性を評価できる。実際の検定および選抜に当たっては、規模と精度に左右されるので、これらの3法の組み合わせによって行なう。

5.残された問題とその対応
M.nivaleによる赤かび病の品種抵抗性検定法の開発