成績概要書 (作成 平成9年 1月)
研究課題名:ホウレンソウのシュウ酸含量低減化技術 (ホウレンソウのシュウ酸および硝酸含有量 の変動要因解明と低減化技術確立) 予算区分:道費 担当科:上川農試研究部園芸科 試験期間:平成6〜8年度 協カ・分担関係:なし |
1.目的
ホウレンソウのシュウ酸、硝酸含量に及ぼす品種、栽培時期、栽培技術の影響を検討し、シュウ酸含量の変動要因を明らかにし、シュウ酸含量の低減化技術を示す。
2.試験研究方法
1)現地実態調査
平成6年:7月、北海道主宴産地5地域(51農家)
平成7年:6,7,8月、旭川市周辺(のべ17農家)
2)品種比較試験
平成7〜8年:4月下旬、6月中旬、7月下句、9月上旬播種、のべ261品種・系統
3)栽培法試験
ア.施肥窒素、リン酸、カリ、苦土、石灰施用量の総シュウ酸含量への影響
イ.遮光および気温4遮光資材、昼一夜気温3段階
ウ.堆肥施用バーク堆肥5段階(0,2,4,6,8t/10a)
工.かん水管理 平成7年 5かん水処理×4品種
平成8年 3かん水処理×窒素施肥量3段階×4品種
3.結果の概要
1)現地実態調査結果
ホウレンソウの硝酸含量の平均値は490㎎/FW100gで、指標値を大きく上回っていた。総シュウ酸含量の平均値は761㎎/FW100gで変動係数は17%であり、硝酸含量の指標値を下回った領域でも変動は大きかった(図1)。
2)シュウ酸含量の変動要因と低減化技術
バーク堆肥を利用した堆肥連用試験では、連用3作目から硝酸含量が減少する傾向とともに総シュウ酸含量が減少する傾向が認められた(図2)。また、総シュウ酸含量は、石灰、リン酸、カリ、苦土施用量と一定の関係は認められず、窒素についても少ない施用量では一定の傾向は認められなかった。
品種の総シュウ酸含量は作期により異なり、また、生育環境により異なった。それぞれの播種期で総シュウ酸含量が2年間とも相対的に少なかった品種は、4月下旬播種では「サロニカ」、「ミリオン」、「サンライト」、6月中旬播種では「サザンクロス」、「YP−406」、7月下句播種では「デクタス」、9月上旬では「グリーンページ」、「はやて」であった。また、裁培試験で供試した品種では「テクノス」が5月から7月播きで標準的な品種とした「トニック」に比べて総シュウ酸含量は少なかった。
遮光により総シュウ酸含量は減少する傾向が認められたが、硝酸含量は増加する場合がみられた(表1)。また、遮光率が高くなると総ビタミンCが大きく減少する傾向がみられた。低温(20−10C:昼−夜)条件では、生育は遅延するものの総シュウ酸含量は減少し、それ以上の気温では総シュウ酸含量に一定の関係はみられなかった(表2)。総ビタミンC含量は気温が低いほど増加する傾向で、気温を低くする温度管理が有効と考えられた。
生育後期のかん水を多くする(後期多かん水・遅かん水)と、総シュウ酸含量、硝酸含量、乾物率は減少する傾向となった(表3)。また、標準かん水に比べて総ビタミンC含量は劣っていた。品種と多かん水を組み合わせると標準品種・標準かん水に比べて総シュウ酸が2割程度減少した。また、日持ち性を検討した結果、多かん水区で葉色低下、減耗率がやや大きくなる傾向が認められた。
図1 現地における硝酸含量と総シュウ酸含量の実態(平成6年)
図2 堆肥連用と総シュウ酸含量、硝酸含量の関係
(平成8年、連用2年目、3作期の平均)
表1 内部成分含量に及ぼす遮光の影響(平成8年)
遮光率資材 | 内部成分 | 含量(mg/FW100g) | |
総シュウ酸 | 硝酸 | 総ビタミンC | |
無処理 | 524(100) | 147 | 55.5 |
50%白遮光 | 443(85) | 235 | 14.9 |
50%ハイクール | 486(93) | 238 | 18.2 |
30%ハイクール | 491(94) | 203 | 43.8 |
表2 内部成分含量に及ぼす気温の影響(平成8年)
処理区 気温(昼−夜) |
内部成分含量(mg/FW100g) | ||
総シュウ酸 | 硝酸 | 総ビタミンC | |
低温(20-10℃) | 334 | 176 | 81.9 |
中温(24-14℃) | 627 | 422 | 42.5 |
高温(28-18℃) | 591 | 470 | 36.7 |
表3 ホウレンソウの生育、収量、内部成分含量に及ぼすかん水管理の影響(平成8年)
処理区 | 草丈 (cm) |
葉数 (枚) |
平均 一株重 (g) |
葉身重 割合 |
乾物 率 (%) |
内部成分含量(mg/FW100g) | 収量(kg/㎡) | ||||
総シュウ酸 | 硝酸 全体 |
総ビタミ ンC(全体) |
総 収量 |
規格内 収量 |
|||||||
葉身 | 全体 | ||||||||||
標準かん水区 | 25.3 | 8.7 | 25.2 | 0.69 | 8.4 | 1001 | 770 | 436 | 31.4 | 2.23 | 1.41 |
後期多かん水区 | 26.3 | 8.2 | 24.5 | 0.69 | 7.3 | 950 | 726 | 366 | 23.2 | 2.41 | 1.50 |
遅かん水区 | 26.8 | 8.8 | 24.7 | 0.69 | 7.3 | 952 | 715 | 389 | 27.9 | 2.59 | 1.79 |
4.成果の活用面と留意点
1)現地におけるホウレンソウの硝酸含量は、指標値に比べ多い場合があるので簡易分析システムなどを利用し、窒素を減肥する必要がある。
2)堆肥施用に関しては一般栽培で利用できるが、施用量については[寒地ハウスの土壌管理指標(昭和60年度指導参考)]を準用する。
3)生育後期の多かん水は低シュウ酸化で有利販売(サラダ用ホウレンソウなど)が可能な場合にのみ採用する。
4)品種の選定に当たっては抽台性等を考慮する。
5.残された間題点とその対応
1)露地作型、低温期栽培での総シュウ酸含量の変動要因解明と低減化
2)品種の総シュウ酸含量、硝酸含量変異の機作解明と低シュウ酸、低硝酸品種の開発