【研究参考】
成績概要書 (作成 平成9年 1月)
課題の分類 北海道 作物 園芸 野菜−野菜育種 育種方法 タマネギ 研究課題名:タマネギ雌性不稔細胞質特異的DNA増幅による細胞質型迅速識別法 予算区分:重点基礎 担当科:北海道農試作物開発部上席研究官・野菜花き研究室 試験期間:平成7年度 協力・分担関係: |
1.目的
細胞質雄性不稔系統を新たに育成するためには、細胞質型の識別が不可欠である。タマネギでは検定交配による細胞質型の識別に4〜8年を要しており、迅速な細胞質型識別法の開発が望まれている。近年開発されたPCR法を利用すれば飛躍的に効率の良い識別が可能となるが、そのためには雌性不稔細胞質に特異的なミトコンドリアDNA塩墓配列情報が必要である。そこで本研究では、雌性不稔細胞質に特異的な塩基配列を明らかにすることにより画期的に効率の良い細胞質型識別法をを開発する。
2.試験研究方法
1)正常細胞質(N型)と雄性不稔細胞質(S型)との間で発現パターンの異なるミトコンドリア遺伝子の同定を試みた。
2)タマネギのN型とS型とを識別できるPCR分析法を確立するために、N型とS型との間で発現パターンの異なるミトコンドリア遺伝子の単離とクローニングを行い、DNA断片の塩基配列を解読した。
3)塩基配列情報に墓づいて、各細胞質型に特異的なDNA領域を選択的に増幅できるプライマーを合成し、PCRによる増幅DNAの電気泳動を行った。
4)微量(50mg程度)のタマネギ葉身組織から簡易にミトコンドリアDNAを抽出する方法及び上記プライマーを用いて迅速に細胞質型を識別できる方法を検討した。
3.結果の概要
1)N型とS型との間で発現パターンの異なるミトコンドリア遺伝子はcob及びcoxlであった。
2)クローニングしたcobを含むDNA断片の塩基配列を決定したところ、cob遺伝子そのものの塩基配列には細胞質型による違いが認められなかったが、翻訳開始点より56bp上流の領域は相同性を失っていた。しかもS型ミトコンドリアのこの領域は葉緑体ゲノムの一部と極めて高い相同性があった。
3)各細胞質型に特異的なDNA領域を選択的に増幅できるプライマーを合成し、PCRによる増帽DNAの電気泳動を行ったところ、それぞれの細胞質型に特異的なサイズのDNAが検出された。
4)微量(50mg程度)のタマネギ葉身組織から簡易にミトコンドリアDNAを抽出する方法及び上記プライマーを用いて迅速に細胞質型を識別できる方法を確立した。この方法により、北海迫在来品種「札幌黄」の15系統各20個体について個体別に細胞質型を識別し、雄性不稔系続及び維持系統の育成素材を選抜することができた。
図 雄性不稔細胞質及び正常細胞質に特異的な
DNA領域を増幅するためのプライマー塩基配列
品種・系統 | 調査個体数 | S | N | 品種・系統 | 調査個体数 | S | N |
札幌黄 | 札幌黄 | ||||||
井上系 | 18 | 13 | 5 | 清水系 | 19 | 13 | 6 |
高畑系 | 16 | 10 | 6 | 北林系 | 18 | 3 | 15 |
高田系 | 18 | 5 | 13 | 山本系 | 20 | 19 | 1 |
久保系 | 18 | 2 | 16 | 林系 | 20 | 0 | 20 |
宮本系 | 19 | 7 | 12 | 因系 | 10 | 3 | 7 |
植崎系 | 19 | 5 | 14 | 北見黄 | 19 | 5 | 14 |
黒川系 | 17 | 7 | 10 | そらち黄 | 20 | 7 | 13 |
竹中系 | 20 | 0 | 20 | B.Y.G.D.a | 20 | 3 | 17 |
岩波系 | 17 | 8 | 9 | M.D.b | 20 | 0 | 20 |
上常呂系 | 20 | 13 | 7 | P.L.K.c | 20 | 13 | 7 |
4.成具の活用面と留意点
1)本方法では、タマネギの葉50mgから細胞質型(N型・S型)を一日で識別することができる。
2)近年発見されたT型細胞質を識別することはできない。
3)開発したプライマーについては特許出願中である。