【研究参考】
成績概要書             (作成 平成9年 1月)
課題の分類
研究課題名:ジャガイモそうか病菌の遺伝子診断
       (馬鈴しょそうか病の防除技術の開発)
予算区分:道費
担当科:中央農試生物工学部遺伝子工学科
試験期間:平6−8年度
協力・分担関係:なし

1.目的
 近年の遺伝子工学的手法の発展により、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerasechanereaction:PCR)を利用した遺伝子診断法が種々の分野で活用されている。ジャガイモそうか病の病原放線菌の遺伝子診断のためのPCRプライマーを設計して、種類判別や土壌検診といった病理試験へのPCRの応用を目的とする。

2.方法
 1)RAPD(randamamplifiedpolymorphicDNA)による特異領域の探索とその利用
 (1)供試材料
  Streptomycesscabies5菌株、S.scabiessub.sp.achromogenes13菌株、
  S.turgidiscabies15菌株、直〜波状胞子鎖緑色色素産生菌1菌株、非病原性
  Streptomyces属放線菌14菌株以上十勝農試分離株(S.scabies4029株佐賀県で分離されたジャガイモそうか病菌)
 (2)試験方法:RAPD分析による特異領域の探索とそれによって得られた増幅断片をプローブにしたRFLP分析
2)RAPD断片の塩基配列情報を利用した菌種判別用のプライマーの設定
 (1)供試材料上記菌株に加え、ATCC標準菌株10菌株を供試した。
 (2)試験方法:inversePCR(IPCR)用プライマーによる隣接する未知領域の増幅とそこで得られた特異断片の塩基配列による種判別用プライマーの設定
3)土壌診断モデル系の検討
 (1)供試材料温室でジャガイモ(男爵)を鉢栽培した人工汚染土28℃で1週間平板培養した菌体を滅菌したポットエースに混和した。5月上旬から9月下旬にかけて15cm鉢で栽培した。汚染土は鉢のまま温室に放置し、12月に採取した。
 (2)試験方法:デンプン培地を基本培地に、添加する抗生物質の濃度を検討した。希釈平板を作成し、接種した放線菌をコロニーの直接PCRによって検出した。

3.成果の概要
1)RAPDにより極限定的な多型断片を観察することができた。その断片をプローブとして用いるサザンハイブリダイゼーションは、病原放線菌の各菌種に特異的なRFLPを示した。
2)S.scabies(subsp.achromogenesを含む)、S.turgidiscabies、および直〜波状胞子鎖緑色色素産生菌を判別するプライマーを設計し、PCRによる遺伝子診断技術を確立した。
3)人工汚染土の希釈平板を作成し、放線菌数を計数した。無接種区、接種区とも全放線菌数は<1×108cfu/g乾土であった。S.scabiessubsp.achromogenes接種区およびS.turgidiscabies接種区のコロニー94個をPCR反応するとどちらからも1つだけ接種菌が検出され、放線菌密度は1×106cfu/g乾土前後と推定された。


図1 S.scabiesに限定的なRAPD断片によるRFLP
   プロープ:EB700制限酵素:EcoRI+BamHI
   *:直〜波 色素産生株に特有な>6kbバンド

図2 ABsp1・ABsp2によるS.scabiesの判別
  反応:鋳型DNA50mg、dNTP各200uM、MgCl22mM、プライマー各0.1uM、
  TaqDNAポリメラーゼlunits液量20ul
  94℃1分→65℃1分→72℃2分を35回
  1.5%アガロースゲル電気泳動


図3 人工汚染土の希釈平板上のコロニーの判別
   S.scabies sub sp.achromogenes接種区
   ABsp1・ABsp2で反応、S:サイズマーカー、P:胞子懸濁液からのコロニーによる陽性対照区

4.成果の活用面と留意点
 1)RAPDによる多型検出とその断片を標識してプローブとして用いるRFLP検出は系統、個体間の多型検出に有効で、PCR装置と電気泳動装置だけで実施できる。
 2)種判別用のプライマー3種は配布可能である。
 3)希釈平板上のコロニーをPCRにより判定することで病原菌密度の推定が可能である。しかし判定に1検体当たり半日以上を要するなど、簡便化が必要である。

5.残された問題とその対応
 1)PCRによる土壌中の簡便な病原菌定量技術が未開発である