【指導参考事項】
成績概要書 (作成 平成9年 1月)
課題の分類 研究課題名:泌乳牛におけるアミノ酸供給量と蛋白質飼料のアミノ酸特性 (泌乳牛におけるアミノ酸供給量に及ぼす蛋白質源の影響) 予算区分:受託 担当科:新得畜試家畜部酪農科 試験期間:平成7−8年度 協力・分担関係:なし |
1.目的
十二指腸カニューレを装着した泌乳牛を用いて、北海道の飼料基盤における泌乳牛のアミノ酸バランスについて検討するとともに、泌乳牛のアミノ酸バランスを改善する際に必要となる蛋白質飼料のアミノ酸特性を明らかにする。
2.方法
1)泌乳牛の小腸に移行するアミノ酸量
供試家畜:十二指腸カニューレ装着泌乳牛3頭
処理:トウモロコシサイレージ(CS)と牧草サイレージ(GS)の給与比率4
CS:GS比 ①0:100 ②33:67 ③66:34 ④100:0
(以下、0、33、66、100%区とする)
給与飼料:各粗飼料、圧片トウモロコシ、大豆粕(TMRの栄養価:TDN75%、CP16%)
調査項目:乾物摂取量、乳量、乳成分、十二指腸に移行するアミノ酸量及び組成
2)蛋白質飼料のアミノ酸特性
供試家畜:十二指腸カニューレ装着泌乳牛3頭(3×3ラテン方格)
処 理:蛋白質飼料7大豆粕を標準飼料として各蛋白質飼料2点すつ比較
試験A:大豆粕、魚粕、血粉
試験B:大豆粕、ゴーングルテンミール(CGM)、アマニ粕
試験C:大豆粕、加熱大豆、ポテトプロテインM
試験項目:試験1)と同様
3.結果の概要
1)泌乳牛の小腸に移行するアミノ酸量
①乾物摂取量、乳量および乳成分には、処理間に有意な差は見られなかった。
②ルーメン内の有機物消化率は処理間に差はみられなかったが、トウモロコシサイレージ割合が増加するとともにNDF消化率が低下し、デンプン消化率は高まる傾向がみられた。
③菌体蛋白合成量は、有意ではないがトウモロコシサイレージ割合が増加するとともに多くなる傾向がみられた。総蛋白質供給量には、処理間に差はみられなかった。
④各必須アミノ酸供給量には、処理間差は認められず、トウモロコシサイレージと牧草サイレージの構成比が異なってもアミノ酸供給量には差はないと考えられた(表1)。
⑤アミノ酸要求量算出モデル(正味炭水化物蛋白質システム)を用いて算出したアミノ酸要求量に比べて、メチオニン、リジン、イソロイシン、ヒスチジン供給量が不足する値を示し、これらのアミノ酸が不足しやすいと考えられた(表2)。
2)蛋白質飼料のアミノ酸特性
①大豆粕と比べて魚粉、CGM、アマニ粕ではメチオニン含量が多く、血粉はリジン含量が高かった。加熱大豆、ポテトプロテインのアミノ酸の組成は、大豆粕とほぼ同じであった(図1)。
②大豆粕単独給与時に比べて、魚粉、血粉を添加することによりリジン、ヒスチジン、バリン、ロイシン供給量が高まる傾向を示した(表3)。
③コーングルテンミールを給与すると、大豆粕給与時に比べて、必須アミノ酸供給量に増加傾向が見られた。しかし、本試験の添加量(11%)ではルーメン発酵が抑制され、乾物摂取量および乳量の低下が生じたため、添加量を制限する必要があると考えられた。一方、アマニ粕では大豆粕と明瞭な差は認められなかった。(表3)
④加熱大豆、ポテトプロテイン給与では、大豆粕給与時に比べて各必須アミノ酸供給量の増加は認められなかった。(表3)
表1 小腸へのアミノ酸移行量 (g/日)
0%区 | 33%区 | 66%区 | 100%区 | |
ヒスチジン | 33.7 | 32.1 | 29.0 | 31.1 |
バリン | 94.8 | 91.3 | 87.0 | 92.7 |
メチオニン | 36.3 | 31.7 | 34.6 | 33.6 |
イソロイシン | 86.9 | 85.0 | 82.7 | 89.2 |
ロイシン | 141.4 | 137.9 | 128.6 | 133.7 |
リジン | 104.6 | 105.2 | 100.5 | 107.8 |
表2 推定アミノ酸要求量
に対する供給量(%)
ヒスチジン | 82 |
バリン | 101 |
メチオニン | 84 |
イソロイシン | 97 |
ロイシン | 117 |
リジン | 91 |
図1 アミノ酸粗性の比較
表3 小腸へのアミノ酸移行量 (g/日)
試験A | 試験B | 試験C | |||||||
大豆粕区 | 魚粉区 | 血粉区 | 大豆粕区 | CGM区 | アマニ粕区 | 大豆粕区 | HSB区 | PP区 | |
ヒスチジン | 31.4a | 38.5ab | 42.7b | 31.0 | 42.9 | 31.9 | 33.2 | 33.5 | 33.1 |
バリン | 106.7a | 126.1b | 128.8b | 100.5 | 121.3 | 113.4 | 111.3 | 86.5 | 109.7 |
メチオニン | 33.6 | 33.8 | 32.7 | 26.Ia | 50.8b | 39.2ab | 37.6 | 35.3 | 27.7 |
イソロイシン | 102.7 | 112.0 | 104.6 | 99.2 | 120.7 | 108.6 | 110.8 | 100.1 | 109.5 |
ロイシン | 171.9A | 201.6B | 204.2B | 164.7 | 342.4 | 184.0 | 196.6 | 172.5 | 197.3 |
リジン | 134.3 | 157.1 | 163.7 | 138.9 | 129.2 | 149.6 | 162.9 | 140.2 | 161.2 |
4.試験結果の活用面と留意点
・乳牛の飼料給与においては、従来の飼養基準を遵守した上で飼料のアミノ酸組成を考慮する。
・動物性蛋白質飼料およびコーングルテンミールでは、嗜好性等が劣ることから給与量の上限に注意する。
・正味炭水化物蛋白質システムは現在開発中であり確立されたものではない。
5.残された問題とその対応
・泌乳におけるアミノ酸要求量算出方法の確立
・小腸内のアミノ酸吸収率および利用効率の解明
・正味炭水化物蛋白質システムのアミノ酸バランス推定精度の向上