【指導参考事項】
成績概要書                   (作成 平成9年 1月)
課題の分類  北海道 家畜衛生 豚 細菌病−滝川畜試
研究課題名:豚マイコプラズマ肺炎不活化ワクチンの野外臨床試験
予算区分:共同研究(民間)
担当科:滝川畜試研究部衛生科・養豚科
試験期間:平7年度
協力・分担関係:株式会社科学飼料研究所

1.目的
 Mycoplasmahyopneumoniae(Mhp)は、豚のマイコプラズマ肺炎(MPS)の原因菌である。MPSは、豚の代表的な呼吸器病で、それ自体は致死的な病原性を示さないが、肥育豚の発育を遅延したり、他の呼吸器感染症を増悪するなど、養豚の生産性を低下させる主要因の一つとなっている。MPSの予防対策は、主として抗生物質の飼料添加によって行われているが、食肉の安全性追求の面からも有効なワクチンの開発が切望されてきた。1994年、全農家畜衛生研究所の岡田らは、Mhpの培養濾液を主成分とする不活化ワクチンが、MPSの病変形性抑制に有効であることを報告した。本研究では、野外の豚を用いて本ワクチンの有効性および安全性について検討した。

2.方法
 Mhpの浸潤が確認されている滝川畜産試験場で飼育されていた4週齢の三元交雑子豚9腹94頭を用い、腹ごとにワクチン区と対照区の2区に分けた。ワクチンは(株)科学飼料研究所が試験品として製造したSF−SEPを用い、ワクチン区の子豚に4週齢および8週齢の2回、1ドーズ2mlを筋肉内に注射した。試験開始後、臨床観察を毎回行い、給飼量を記録するとともに体重およびMhpに対するCP抗体価を経時的に測定した。体重90kg到達後、と殺し、1日増体重、飼料要求率を求め、肺病変面積率を測定した。また病変の有無に関わらず肺材料からの菌分離を行った。

3.結果の概要
 1)SF−SEPを子豚に筋肉内注射しても臨床的な異常所見は認められなかった。また、処理区間で4週齢から8または9週齢までの1日増体重および飼料要求率に差はなく、SF−SEPの注射によって発育が阻害されることはなかった。
 2)SF−SEPを25または26日齢時およびその4週後の2回注射することにより、2回目注射後4週目の血清中のMhpに対するCF抗体価は、対照区に対して有意に上昇した(図1)。
 3)ワクチン区のと殺時におけるMPSによる肺病変陽性率および面積率は、対照区に対して有意に減少し、SF−SEPの注射によってMPS病変の形成を阻止または軽減することが確認された(図2)。さらに肺からのMhpの分離率および分離菌数を低減し、Pasteurellamultocidaとの混合感染を抑制する効果のあることが確認された(図3、表1)。
 4)SF−SEPの注射による体重30kgから90kgまでの1日増体重および飼料要求率の改善効果は明らかでなかった(表2)。


図1 Mhpに対するCF抗体価の推移
  **1%水準で有意差あり

表1 肺からのP.multocidaの分離率
処理区 分離の有無 処理間の
有意差
ワクチン区 1(1.8%) 56(98.2%) P≦0.01
対照区 8(21.6%) 29(78.4%)

表2 体重30kgから90kgまでの1日増体重と飼料要求率
処理区 頭数 日増体重(g) 飼料用要求率
ワクチン区 57 956.3 2.99*
対照区 37 996.7 2.80*
数値は最小自乗平均値(Harvey1990)
*5%水準で有意差あり


図2 肺病変面積率
処理間で病変面積率の分布に1%水準で有意差あり


図3 Mhpの分離菌数
処理間で分離菌数の分布に1%水準で有意差あり

4.成果の活用面と留意点
 1)本試験に供した不活化ワクチンは、現在製造承認の申請中であり、平成9年中に市販される見込みである。
 2)本ワクチンによる発育改善効果は、MPSの肺病変がほぼすべての肥育豚に認められる養豚場において確認されているので
  (小此木ら、1996)その利用に当たっては、MPS及びMPSが関与した呼吸器感染症による経済的被害を把握した上で飼養するのが望ましい。
 3)ワクチンは、生物学的製剤であり、獣医師の指示により使用すること。

5.残された間題とその対応
 1)MPS肺病変の程度と発育成績の相関解明
 2)他の感染症とのコンバインワクチンの開発