【指導参考事項】
成績概要書              (作成 平成9年 1月)
課題の分類  根釧農試
研究課題名:乳牛の糞尿量および糞尿窒素量の低減
(環境保全型飼養技術の確立1.糞尿窒素量の低減技術の確立)
予算区分:道単
担当科:根釧農試研究部酪農第一科
試験期間:平6−8年度
協力・分担関係:なし

1.目的
 根釧農業試験場で実施した出納試験で得られたデータをもとに、乳牛の糞尿量および糞尿窒素量について検討するとともに、飼料蛋白質の分解性およびアミノ酸バランスを考慮することにより、糞尿窒素量低減の可能性を検討した。

2.方法
 1)乳牛の糞尿量および糞尿窒素量解析に用いたデータは1988〜1996年に実施された初産牛144頭、経産牛152頭の出納試験成績であり、給与飼料は牧草サイレージ主体で自由採食で行われた。出納試験は予備期2週間、本期4日間(一部3日間)とし、本期には糞尿を全量分離採取した。
 2)飼料蛋白質の効率的利用による糞尿窒素量の低減供試飼料は牧草サイレージ主体の混合飼料(粗濃比55:45)で、CP含量13、15、17%の3水準設け、CP13、15%区にはアミノ酸バランスを考慮して魚粉を2%給与した。供試牛は泌乳中期牛6頭を用い、1期3週間の32ラテン方格法で窒素出納試験を実施した。

3.結果の概要
1−1)給与飼料のCP含量は初産牛、経産牛各々16.6、15.5%、TDN含量が70.0、71.5%、NDF含量は43.9、43.6%、乾物摂取量は15.5、20.9kg/日であった。
1−2)糞量は初産牛、経産牛各々35.8、51.4kg/日であり、乳期による差がみられなかった。また、糞量はNDF摂取量と正の相関がみられたことから、良質粗飼料の給与などによりNDF摂取量を減少させることにより、糞量は低減できることが示唆された(表1、2)。
1−3)糞窒素量は初産牛、経産牛各々146、179g/日と経産牛が多く、乳期ではいずれも泌乳前期が後期に比べ多かった。また、糞窒素量はCP摂取量と正の相関がみられた。
1−4)尿量は初産牛、経産牛各々13.8、13.0㎏/日、尿窒素量は78、110g/日でありTDN/CP比と負の相関がみられた。また、尿量は尿窒素量とも相関がみられ、蛋白質とエネルギーのバランスを保つことにより、尿量及び尿窒素量を低減できることが示唆された。
2−1)乳量及び乳蛋白質量はCP13%区がやや低かったが有意差はみられなかった(表3)。
2−2)糞尿量および糞窒素量は処理間に差がみられなかったが、尿窒素量はCP13、15、17%区各々69、98、125g/日と、いずれの処理間にも有意差がみられた。
2−3)乳中尿素窒素と血中尿素窒素との相関は高く、飼料中CP含量とともに高くなった。

 また、それらは尿窒素量とも相関が高く、尿窒素量低減の指標として有用と考えられた。このように、乳中および血中尿素窒素を指標に飼料蛋白質(分解性)とTDN摂取量とのバランスを適正に保ったり、飼料蛋白質(非分解性)のアミノ酸組成を考慮することにより、糞尿窒素量はある程度低減させることが可能であると考えられた。

表1.初産牛・経産牛における乳量、体重、乾物摂取量、糞尿量および窒素出納
  乳期 頭数 乳量 体重 乾物
摂取量
糞尿量 窒素出納
尿 摂取N 糞N 尿N 乳N 蓄積N
  kg kg kg/日 g/日
初産牛 前期 51 26.7A 527A 15.9A 34.7 12.1A 431A 152A 76AB 124A 79
中期 41 22.5B 548AB 15.3AB 36.9 13.6A 405AB 147AB 72A 108B 78
後期 36 18.8 567B 15.3B 36.0 16.4B 391B 138B 90B 94C 69
全乳期 128 23.1C 545 15.5 35.8 13.8 411 146 78 110 76
経産牛 前期 55 37.6A 650 22.5A 50.7 13.4 574A 196A 115 179A 84
中期 36 29.0B 656 20.1B 51.1 13.0 497B 174B 117 148B 58
後期 40 25.5C 678 19.4B 52.5 12.4 463B 161B 97 130C 74
全乳期 131 31.5 660 20.9 51.4 13.0 519 179 110 156 74
注)異文字間に有意差あり(P<0.01)

表2.経産牛における糞尿量および糞尿窒素量に及ぼす要因との相関係数
  泌乳成績 体重 飼料摂取量 TDN/CP
乳量 蛋白質量 体重 MBS 乾物 CP TDN NDF ADF
糞尿量 .11 .10 .13 .13 .34** .14 .19 .58** .51** .07
尿 .20 .14 .01 .02 .26* .45** .09 .15 .12 -.58**
窒素量 .65** .63** -.12 -.12 .69** .77** .58** .25* .17 -33**
尿 .25* .22 .17 .17 .30** .57** .14 -.02 -.20 -65**
注)右肩の印は有意差を示す(*:P<0.01、**:P<0.001)

表3.糞尿窒素量低減試験の乳量、乾物摂取量、糞尿量、窒素出納および血液成分
区分 乳量 乾物
摂取量
糞尿量 窒素出納 尿素窒素 血清アミノ酸
尿 摂取N 糞N 尿N 乳N 蓄積N 血液 メチオニン リジン
kg kg/日 g/日 mg/dL μmoL/dL
CP13%区 29.5 20.6 52.8 10.5 435a 161 69a 150 54a 7.3a 8.7a 2.44 8.18
CP15%区 30.3 20.9 54.6 11.5 503b 174 98b 157 74a 10.6b 12.0b 2.24 8.05
CP17%区 30.5 21.5 55.2 13.2 573c 171 125c 154 124b 15.2c 15.5c 1.99 7.08
注)異文字間に有意差あり(P<0.05)

4.成果の活用面と留意点
 1)本成績は泌乳牛における牧草サイレージ主体飼養での出納試験に基づいており、乳量水準、飼料構成などにより、糞尿量および糞尿窒素量は異なり、また尿量は個体差も考慮して利用する。
 2)飼料蛋白質の分解性およびアミノ酸組成を考慮することにより、尿窒素量を低減できることが示唆されたが、アミノ酸レベルでの飼料設計はまだ研究段階と考えられる。
 3)乳中および血中尿素窒素は尿窒素量低減の指標として有用であり、その利用にあたっては「乳中尿素窒素の暫定基準値」(平成8年度成績会議資料)を参照する。

5.残された問題とその対応
 1)飼料中の蛋白質、繊維、水分、ミネラル含量と糞尿量および窒素・リン量との関連を検討し、飼養管理面からの低減技術を確立する必要がある。
 2)飼料のルーメン内分解速度およびアミノ酸要求量に基づく飼料設計モデルを検討する。