成績概要書 (作成 平成11年1月)
課題の分類 北海道 作物 畑作 研究課題名:麦類・大豆の遺伝資源特性情報 (自殖性植物の特性調査(第2次計画)) 予算区分:道費 担当科:植物遺伝資源センター 研究部 資源利用科 資源貯蔵科 担当者: 研究期間:平5−9年度 協力・分担関係: |
1. 目 的
植物遺伝資源センターが保有する遺伝資源のうち、基本的特性(一次評価項目)の把握が不十分なものについて特性調査を行い、遺伝資源の情報充実と活用を促進する。
2. 方 法
麦類:試験年次、供試点数 二条大麦:平成9年 計 47点
大麦(六条):平成9年 計 95点
春まき小麦:平成5、8年 計 589点
秋まき小麦:平成5〜8年(播種年次)計 1,450点
調査項目:叢生、鞘葉の色、出穂期、成熟期、稈長、穂長、穂型、芒の有無と多少、ふ色、葉鞘のWAXの多少、葉色(SPAD値)、粒着の疎密、粒色、千粒重、 リットル重、外観品質
小麦のみ:葯の色、ふ毛の有無、粒形
大麦のみ:並渦性、芒長、芒の粗滑、株の開閉
二条大麦のみ:底刺毛茸の長短、鱗皮の毛の長短、外穎基部の横溝の有無
大麦(六条)のみ:皮裸の別
大豆:試験年次、供試点数 平成2、5〜9年 計 1,650点(図1)
調査項目:胚軸色、開花期、花色、葉形、成熟期、倒伏程度、毛茸色、主茎長、
主茎節数、分枝数、莢数、百粒重、種皮色、臍色、粒の子葉色、粒形
3. 結果の概要
麦類:二条大麦、大麦(六条)、春まき小麦、秋まき小麦について、主として量的形質の特性値の分布を明らかにするとともに、顕著な値を示した品種・系統をそれぞれ抜粋した(抜粋例 表1、2 大麦の短稈で穂の抽出度が大きい品種・系統)。
また、多収性母本材料選定の参考とするため、穂長と粒着の疎密、穂長と一穂小穂数、一穂小穂数と千粒重などの穂の収量構成要素の関係について検討し、特徴的な品種・系統をそれぞれ抜粋した(抜粋例 表3〜7 小麦の比較的早生で一穂小穂数×千粒重が大きい品種・系統)。
大豆:特性調査結果例として種皮色の頻度分布を掲載した(図2)。各形質は原産地毎に傾向が異なり、特徴的な材料が認められた。
粒大と収量構成要素について、比較品種よりも優り且つ早熟な材料についてみると、粒大の優った材料は道南や青森、岩手の材料で多く、道東など無霜期間の短い地域の材料にはなかった(図3)。一方、収量の代用値とした莢数×百粒重値の大きい材料は道南で多く、道東の材料にも認められたが、東北地方では少なかった。また、海外や道農試育成材料も多く、収量性については育種の効果が大きいと考えられた(図4)。
各形質の関係についてカイ2乗検定を行ったところ、供試材料全体では全ての形質間に連関が認められた。原産地別でも多くの形質間で連関が認められたが、連関する形質が地域によって異なっており、原産地によって形質の特性に偏りのあることが考えられた(図5)。
主な9形質について主成分分析により遺伝資源の分類を試みたところ、原産地及び導入先で分布の傾向が異なり、大まかな分類が可能であった(図6)。
表1 短稈である割に穂の抽出度が大きい品種・系統(平成9年 二条大麦)
品種系統名 | 出穂期 | 成熟期 | 稈 長 | 穂 長 | 穂の 抽出度 |
粒着の 疎密 |
千粒重 |
アサヒ5号(OUJ509) | 6.25 | 7.24 | 74 | 6.7 | 9.4 | 3.8 | 49.8 |
CIM91SC57 | 6.24 | 7.25 | 77 | 10.4 | 11 | 2.1 | 54.8 |
関東二条2号(OUJ819) | 6.26 | 7.24 | 73 | 6.9 | 10.5 | 3.8 | 57.6 |
りょうふう(比較品種) | 7.04 | 7.31 | 77 | 7.9 | 9.5 | 3.6 | 51.5 |
表2 短稈である割に穂の抽出度が大きい品種・系統(平成9年 大麦(六条))
品種系統名 | 出穂期 | 成熟期 | 稈 長 | 穂 長 | 穂の 抽出度 |
粒着の 疎密 |
千粒重 |
ATLAS46 | 6.29 | 7.28 | 75 | 6.7 | 11.2 | 2.9 | 47.6 |
会系71号 | 6.24 | 7.25 | 65 | 5.5 | 11.6 | 4 | 38.2 |
会系85号 | 6.27 | 7.28 | 64 | 5 | 13.6 | 4.6 | 37.7 |
会系94号 | 6.25 | 7.25 | 68 | 5.3 | 15.4 | 4.3 | 38.5 |
米国7号 | 6.29 | 7.28 | 74 | 6.8 | 12.8 | 2.7 | 50.3 |
米国標準麦 | 6.28 | 7.27 | 74 | 6.3 | 13.3 | 2.6 | 53.5 |
カリフォルニア1号 | 6.29 | 7.3 | 75 | 6.7 | 10.4 | 2.6 | 51.3 |
北満大麦 | 6.28 | 7.25 | 72 | 6.2 | 10 | 2.9 | 38.5 |
奉天黒 | 6.27 | 7.26 | 75 | 7.1 | 9.9 | 2.4 | 39.3 |
丸実16号 | 6.29 | 7.27 | 72 | 5.5 | 9.8 | 3.7 | 35.8 |
三徳 | 6.24 | 7.23 | 72 | 5.4 | 18 | 3.7 | 39 |
マリモハダカ(比較品種) | 7.06 | 7.31 | 88 | 9.8 | 7.9 | 2.6 | 34.3 |
表3 比較的早生で一穂小穂数×千粒重が大きい品種・系統(平成5年 春まき小麦)
品種系統名 | 出穂期 | 成熟期 | 稈 長 | 穂 長 | 一穂 小穂数 |
粒着の 疎密 |
千粒重 |
北系春542 | 7.01 | 8.15 | 79 | 10.1 | 16.5 | 1.7 | 56.1 |
SAKHA61 | 7.03 | 8.19 | 66 | 9.5 | 18.3 | 2.1 | 52.1 |
新曙光1号 | 7.03 | 8.16 | 88 | 10.2 | 17.5 | 1.7 | 54.2 |
ハルユタカ(比較品種) | 7.04 | 8.14 | 75 | 9.6 | 14.6 | 1.6 | 43.5 |
表4 比較的早生で一穂小穂数×千粒重が大きい品種・系統(平成5年 秋まき小麦)
品種系統名 | 出穂期 | 成熟期 | 稈 長 | 穂 長 | 一穂 小穂数 |
粒着の 疎密 |
千粒重 |
FEN GKANG 15 | 6.1 | 7.27 | 55 | 9 | 17.6 | 2 | 47.8 |
北陸11号 | 6.1 | 7.26 | 100 | 9.6 | 17.2 | 1.9 | 51.4 |
北見28号 | 6.11 | 7.26 | 81 | 9.2 | 18.8 | 2.2 | 48.8 |
ホロシリコムギ(比較品種) | 6.16 | 7.31 | 67 | 8.7 | 16.8 | 2.1 | 42.9 |
表5 比較的早生で一穂小穂数×千粒重が大きい品種・系統(平成6年 秋まき小麦)
品種系統名 | 出穂期 | 成熟期 | 稈 長 | 穂 長 | 一穂 小穂数 |
粒着の 疎密 |
千粒重 |
TROUGO | 6.06 | 7.25 | 58 | 10 | 18.4 | 1.8 | 56.8 |
ホロシリコムギ(比較品種) | 6.09 | 7.28 | 70 | 9.6 | 16 | 1.7 | 46.7 |
表6 比較的早生で一穂小穂数×千粒重が大きい品種・系統(平成7年 秋まき小麦)
品種系統名 | 出穂期 | 成熟期 | 稈 長 | 穂 長 | 一穂 小穂数 |
粒着の 疎密 |
千粒重 |
北見系統62149 | 6.14 | 7.3 | 64 | 8.7 | 18.6 | 2.2 | 47.2 |
SKITI 34 | 6.15 | 7.26 | 63 | 8.7 | 19.7 | 2.5 | 43.1 |
ホロシリコムギ(比較品種) | 6.2 | 7.31 | 64 | 8.3 | 14.3 | 1.8 | 40.7 |
表7 比較的早生で一穂小穂数×千粒重が大きい品種・系統(平成8年 秋まき小麦)
品種系統名 | 出穂期 | 成熟期 | 稈 長 | 穂 長 | 一穂 小穂数 |
粒着の 疎密 |
千粒重 |
92012 | 6.09 | 7.17 | 77 | 9 | 19 | 2.1 | 43.5 |
東北165号 | 6.05 | 7.17 | 86 | 9.4 | 19.7 | 2.3 | 42.4 |
ホロシリコムギ(比較品種) | 6.17 | 7.24 | 81 | 8.7 | 15.7 | 2 | 39.5 |
(左側)図1 大豆遺伝資源供試材料の内訳
(「移管」は北海道立農業試験場の品種保存から移管した材料、
「収集」は植物遺伝資源センターで収集を実施した材料、「岩手
農試」は岩手県農試から導入した材料を示す)
(右側)図2 大豆遺伝資源の種皮色(種皮地色及び臍色)の頻度
(種皮地色「褐」と「黒」については臍色によって分け
ていない。また、未熟粒となった材料は除いたため、
図1の点数とは異なる)
図3 「ユウヅル」比で早熟且つ百粒重の重かった 図4 「トヨムスメ」比で早熟且つ莢数×百粒重値が高材料の産地かった材料の産地
図5 大豆遺伝資源の形質間の連関
(形質間の各線は5%水準で有意な連関が認められた組み合わせを示した。
階級値の相関が正であるものを実線、負であるものを破線で示した。)
4. 成果の活用面と留意点
1)育種交配母本材料の選定や二次評価を行うための参考として利用する(全調査データは資料として近く刊行)。
2)遺伝資源の分類・整理のための基礎データとして利用する。
3)試験年次により生育等が若干異なるので、それを考慮したうえで利用する。
5. 残された問題点とその対応
1)麦類、豆類等の一次評価が未実施の遺伝資源については、「自殖性植物の特性調査(第3次計画)」で対応する。
2)遺伝資源の特性情報をより充実させるため、貯蔵遺伝資源の再生産時に再度特性調査を行い、データの蓄積をはかる。
3)育種交配母本材料としての評価を高めるため、二次評価項目の特性調査を進めることが必要である。
注)一次評価:遺伝資源の分類・整理のため共通的に実施する必要最低限の特性調査
二次評価:各種病害・ 障害抵抗性、収量性、成分特性、加工適性などの特定形質についての特性調査