成績概要書 (作成 平成11年1月)
課題の分類:草 地 育 種 寒地型牧草−A−3 北海道 畜産・草地 草 地− 研究課題名:メドウフェスクの高品質・放牧向・環境耐性品種の育成 −メドウフェスク新品種「北海12号」の育成− 予算区分: 経 常 担当研究室:北海道農試・草地部・イネ科牧草育種研究室 研究期間:昭57〜平10年度 担 当 者:中山貞夫、高井智之、水野和彦 協力・分担関係:系適・特検場所 |
1.目 的
越冬性、混播適性、収量性に優れる寒地・寒冷地向き品種を育成する。
2.方 法
1)育種方法
8栄養系の組合せによる合成品種法。
2)育成経過
耐凍性幼苗検定の生存株を含む基礎集団を養成し、個体評価、栄養系評価を経て23栄 養系を選抜した。そのうち出穂期が一致した11栄養系と栄養系保存圃での評価から優良 な9栄養系、計20栄養系で多交配を行い、後代検定から8つの構成親栄養系を決定した 。これら8栄養系の来歴は日高エコタイプ、Leto、Salten、Tammistoからそれぞれ1ず つ 、Borisから4つである。
3.成果の概要
1.越冬性及び早春草勢はトモサカエより優れる(表1)。
2.雪腐大粒菌核病抵抗性はトモサカエ並みで「中」、耐寒性はトモサカエ並みで「やや強」、耐雪性 は「極強」で、トモサカエより優れる(表1)。
3.少回刈の収量性は、道東及び本州中部以北の高冷地でトモサカエより多収で、全場所平均でやや 多収である(表2)。
4.多回刈の収量性は道央地域でトモサカエより多収で、道東地域では同程度で、総合的にみて多回刈 適性に優れる(表3)。
5.トモサカエよりも適正なシロクローバ率を維持し、混播適性に優れる(表1)。
6.放牧前草量はトモサカエよりやや少ない。採食程度はトモサカエと同程度である。4年目晩秋にお けるメドウフェスクの被度はトモサカエより高く、シロクローバ及び雑草の侵入割合は低い。
総合的にみて放牧適性は同程度である(表1)。
7.永続性はトモサカエと同程度である(表1)。
8.出穂期はトモサカエより2日遅い早生に属する(表1)。
9.耐倒伏性はトモサカエよりやや強い(表1)。
10.耐病性は、網斑病および複合病害ともにトモサカエと同程度である(表1)。
11.エンドファイト感染率は74%と高いが、家畜毒性に係わるエルゴバリン、ロリトレムBは検出限界 以下である(表1)。
12.飼料成分(CP、ADF、NDF含有率)はトモサカエと同程度である(表1)。
13.採種性はトモサカエよりやや劣る(表1)。
4.成果の活用と留意点
①普及対象地域は北海道全域および本州中部以北の高冷地。普及見込み面積は5,000ha。将来的には トモサカエに置き換える。
②採草及び放牧に利用できる。道東の冬枯れの著しい所では、秋季の強度な放牧はさける。
5.残された問題とその対応
放牧適性、永続性の向上とさらに越冬性を高めて、道東で高位生産できる放牧用品種を育成する。そのために、根釧農試、北見農試と共同で現地選抜試験「メドウフェスクの耐冬性素材の選抜」を実施している。
表1.北海12号の特性
形 質 | 北海12号 | トモサカエ | タミスト | 備 考 |
越冬性 | 6.5 | 4.8 | 4.8 | 全 道、1〜9(良), 3年間平均 |
早春草勢 | 6.5 | 5.0 | 4.6 | 全 道、 〃 〃 |
雪腐大粒菌核 | 中 | 中 | やや弱 | 根釧農試、3年間総合判定 |
耐寒性 | やや強 | やや強 | 強 | 根釧農試、 〃 |
耐雪性 | 極強 | 強 | 中 | 新潟農試、1996年、根雪日数95日 |
混播適性 | 42 | 52 | 60 | 北海道農試、3年間平均の シロクローバ(ソーニャ)率% |
永続性 | 69 | 72 | 65 | 全 道、4年目/2年目乾物収量比 |
放牧前草量 | 65 | 68 | 63 | 新得畜試、3年間平均年草量DMkg/a |
採食程度 | 63 | 63 | 65 | 新得畜試、3年間平均% |
メドウフェスク 被度 |
48 | 41 | 34 | 新得畜試、4年目晩秋放牧前% |
シロクローバ 被度 |
14 | 20 | 23 | 新得畜試、4年目晩秋放牧前% |
雑草被度 | 9 | 15 | 15 | 新得畜試、4年目晩秋放牧前% |
出穂期 | 6/16 | 6/14 | 6/15 | 全 道、3年間平均 月日 |
倒伏程度 | 1.8 | 3.4 | 2.5 | 全 道、1(無または微)〜9(甚) |
網斑病 | 1.9 | 2.1 | 2.5 | 4場所、 1〜9(甚), 3年間平均 |
複合病害 | 2.9 | 2.7 | 3.3 | 2場所、 〃 〃 |
エンドファイト | 74 | 75 | 0 | 北農試、 種子を光顕で調査% |
アルカロイド | 検出限界 以下 | 検出限界 以下 | - | 家衛試・種子協会、 エルゴバリン、ロリトレムB |
CP 含有率 | 12.1 | 12.3 | 12.2 | 北海道農試、3年目年3回刈平均% |
ADF含有率 | 28.4 | 28.9 | 27.6 | 北海道農試、3年目年3回刈平均% |
NDF含有率 | 54.2 | 56.0 | 56.1 | 北海道農試、3年目年3回刈平均% |
採種量 | 3.7 | 4.3 | 4.4 | 北海道農試、2年間平均, kg/a |
表2.北海12号の少回刈の収量性(トモサカエを100とした乾物収量比)
年次 | 品種・系統 | 北農試 | 天北 | 新得 | 北見 | 根釧 | 青森 | 山形 | 長野 | 平均 |
1 (1995) |
北海12号 タミスト |
106 85 |
99 88 |
100 89 |
100 91 |
109 102 |
- - |
- - |
- - |
103 91 |
2 (1996) |
北海12号 タミスト |
100 96 |
105 94 |
103 93 |
110 99 |
100 95 |
97 89 |
105 76 |
106 86 |
103 91 |
3 (1997) |
北海12号 タミスト |
101 83 |
99 86 |
101 97 |
118 93 |
104 91 |
100 92 |
107 88 |
111 81 |
106 89 |
4 (1998) |
北海12号 タミスト |
93 58 |
97 91 |
102 99 |
102 98 |
110 101 |
98 93 |
90 81 |
109 72 |
100 87 |
計 |
北海12号 タミスト |
100 82 |
101 90 |
102 94 |
108 95 |
105 96 |
98 91 |
100 82 |
109 95 |
103 89 |
トモサカエ | 246.7 | 320.6 | 265.2 | 276.7 | 381.8 | 363.9 | 252.7 | 323.7 | 303.9 |
表3.北海12号の多回刈の収量性(トモサカエを100とした乾物収量比)
場所 | 品種・系統名 | 1995 | 1996 | 1997 | 1998 | 合計 |
北農試 |
北海12号(条播) タミスト(条播) |
103 90 |
108 96 |
124 92 |
119 103 |
112 95 |
北農試 | 北海12号(散播) | - | - | 132 | 112 | 122 |
根釧農試 |
北海12号(散播) タミスト(散播) |
105 92 |
102 95 |
95 96 |
101 92 |
101 94 |