課題の分類:
研究課題名:寒地の乾田播種早期湛水直播水稲の時期別生育指標 予算区分:地域総合・経常 研究期間:平成6〜10年 担当研究室:北海道農試 生産環境 水田土壌管理研 総合研究 総研第1チーム 担当者:粟崎弘利・伊藤純雄・君和田健二 渡辺治郎・大下泰生・湯川智行 協力・分担関係: |
1.目的
寒地の直播で安定多収を実現するには、出穂期を遅らせずに栄養生長量を確保すること
が大切で、そのためには播種出芽を早める必要があり、この点でも早期播種が可能な乾田
播種早期湛水栽培は利点がある。寒地の乾田播種早期湛水栽培のこのような利点を生かし
600㎏/10a以上の安定多収を実現するための好適生育相と時期別生育指標を明らかにする。
2.方法
平成6〜10年に行った、早期播種による安定生産技術、収量安定・向上のための施肥技術、現地実証栽培から安定した生産を得るための稲群落形成と生育診断基準を検討した。
(1)早期播種試験:播種期間4月21日〜5月16日、早期播種による有効温度の獲得から生育促進効果、良食味・安定多収のための栽培技術を検討した。
(2)収量安定・向上のための施肥試験:側条施肥による生育促進や緩効性肥料の利用効果か
ら安定多収のための生育型、窒素栄養の制御、効率的施肥法について検討した。
(3)現地実証栽培:基盤整備技術(圃場の均平、排水、乾燥、砕土、鎮圧)、基本作業技術
体系を導入して実証栽培を行った。
3.結果の概要
①苗立ち密度は200〜250本/m2、穂数790本/m2以上、籾数3.6〜40万粒/㎜2、登熟歩合80%以上確保を目標とする。節位別穂の構成は、主稈と下位節位穂(1〜4節位)で86%程を確保し、5節位以上の分けつ穂や2次分けつ穂を少なくする(表1)。
②収量は栄養生長中期(4〜6葉展開期)の生育経過に最も影響され、好適生育相の獲得
には1〜4節位の下位分けつ、特に1〜2節位分けつの確保が大切である。また、苗立教が200本/m2以下では下位節位穂の構成割合が少なく、2次分けつ穂が著しく多くなるため生産は不安定である。側条施肥すると全層施肥にくらべて1〜4節位の下位分けつ穂の構成割合が高まリ、特に、1節位穗が多く確保される(図1)。
③好適生育量は、6葉期で茎数600本/㎜2、乾物35㎏/10a、茎葉の窒素含有率は3.6〜3.9
%(葉緑素計値41〜45)程度である。
有効茎決定期(7葉期)では、茎数940本/m2、乾物85㎏/1Oa、窒素吸収2.9㎏/10a、窒素含有率3.2〜3.6%(葉緑素計値41〜45)が好適である。この時期の葉緑素計値が38以下の場合は下位分けつや1穂籾数が少なくなる(表2)。
④乾物重、窒素吸収量はそれぞれ草丈×茎数(乾物推定指標)、草丈×茎数×葉緑素計
値(窒素吸収推定指標)から推定して診断できる。
表1 安定多収水稲の獲得すべき主要形質
収量 | 714±35㎏/1Oa |
苗立 | 225±25本/m2 |
(個体穂数4.0±0.4本) | |
穂数 | 840±50本/m2 |
1穗籾 | 43〜48粒 |
総籾 | 36〜40X103/m2 |
〔節位別種の構成〕 | |
主稈 | 29±4% |
1-2節位 | 25±2% |
3-4節位 | 32±2% |
5≦節位 | 7±2% |
2次分けつ | 7±2% |
表2 直播水稲の時期別好適生育量
生育栄養診断 | 分けつ 期 |
分けつ 盛期 |
有効茎 決定期 |
幼穂形 成期 |
止葉期 (減数分裂盛期) |
(生育期:美唄・妹背牛 〜札幌羊ヶ丘) |
6月20日 -25日 |
6月27日 -7月2日 |
7月4日 -9日 |
7月10 -15日 |
7月26 -31日 |
葉数 | 5 | 6 | 7 | 7.8 | 10 |
草丈(㎝) | 16〜20 | 24〜30 | 32〜38 | 39〜47 | 59〜65 |
茎数(/m2) | 440±50 | 600±70 | 940±100 | 1100±120 | 880±100 |
乾物重(㎏/10a) | 11±1 | 35±5 | 85±5 | 220±40 | 500±20 |
窒素含有率(%) | 3.6〜4.0 | 3.6〜3.9 | 3.2〜3.6 | 2.6〜3.0 | 1.6〜1.8 |
窒素吸収(㎏/1Oa) | 0.42±0.06 | 1.3±0.2 | 2.9±0.3 | 6.2±1.6 | 8.5±0.8 |
葉緑素計値(SPAD) | 37〜40 | 41〜45 | 41〜45 | 41〜43 | 41〜43 |
乾物推定指標1) | 0.8 | 1.6 | 3.3 | 4.7 | 5.5(X104) |
窒素吸収推定指標2) | 0.3 | 0.7 | 1.4 | 2 | 2.3(X106) |
図1 苗立教および施肥法が節位別穂の構成に及ぼす影響
4.成果の活用面と留意点
①本生育指標は、苗立ち数200〜250本/m2の場合の結果であり、この範囲外は指標の適
用の外である。
②生育指標は、早生品種「ゆきまる」、道央以南の初期生育の良い稲作安定地域に適用
する。
③本生育指標を実現できた条件では窒素の玄米生産効率が高まリ、低タンパク米が生産
される。
5.残された問題とその対応
水稲直播の地域適応性を高め、良食味米安定生産のための省力栽培技術を検討する。