1.目的
　施肥標準を無視した糞尿多量施用は牧草への窒素･カリウム等肥料成分の過剰供給を引き起こす｡そのような牧草の品質はカリウム､硝酸態窒素含量が高く､家畜の代謝障害発生の要因とされる。本課題ではさらに栄養評価にかかわるタンパク質分解特性、散布堆肥の収穫時混入による採食性への影響、乳牛による利用性などの観点も加え､糞尿多量施用による牧草品質への影響を評価した。

2.方法
1)糞尿多量施用の現地実態調査
2)糞尿多量施用が牧草のミネラル､イオンバランス､硝酸態窒素含量に及ぼす影響
3)窒素多量施用が牧草サイレージのタンパク質・繊維の分解特性､硝酸態窒素含量に及ぼす影響
4)収穫時の堆肥混入が牧草サイレージの品質と嗜好性に及ぼす影響
5)糞尿を多量施用した牧草サイレージの給与が乳牛の乳生産と代謝に及ぼす影響

3.結果の概要
1)現地調査:　糞尿を多量施用している22戸の農家を調査した｡糞尿施用量は最大で牧草地(表面施用)で120t/ha､とうもろこし畑で200t/haであった。調査圃場は全般的に表層土壌の養分含量および粗飼料のK含量が高い傾向があった。一部とうもろこし圃場(スラリー200t/ha施用)で心土層の硝酸態窒素･交換性K含量が極めて高く(図1)、地下水汚染の危険性が示された。
2)牧草のミネラル･イオンバランス･硝酸態窒素:　化学肥料標準量に糞尿を上乗せして春施用したところ堆肥20t､尿10t/haといった比較的少量の施用でも､1番草中のCP､K、NO₃-N含量､イオンバランスが顕著に上昇する例が見られ(表1)､堆肥を施用する場合は施肥標準に沿った減肥の必要性が再確認された｡
3)牧草サイレージのタンパク質･繊維の分解特性､硝酸態窒素:　窒素多肥(標準量の2〜3倍)により原料草のタンパク質分解特性(図2)は溶解性分画の増加等の影響がみられたが､そのような傾向はサイレージには必ずしも反映せず､サイレージ調製条件が分解特性に影響していることが示された。窒素多肥により原料草中に蓄積した硝酸態窒素はサイレージ調製により低下し､高水分条件のものほど消失する傾向が見られたが､確実に消失するには至らなかった｡また硝酸態窒素が消失したサイレージはアンモニア態窒素が高く(図3)､発酵品質が劣ることが示された。
4)収穫時の堆肥混入:　Cr標識した堆肥を用いてハーベスタ収穫時の混入量を調査したところ､わらを多く含んだ生堆肥で散布量の13〜17％、腐熟した堆肥で2〜7％が混入した。堆肥を3〜7％混入させて調製したサイレージは酪酸含量の増加(表2)､嗜好性の悪化(表3)がみられた。
5)泌乳牛へ影響:　泌乳後期牛に対し､糞尿の多量施用によりCP､K含量およびDCAD値の高くなった牧草サイレージの割合の高いTMRを給与した結果、飼料摂取量や乳生産には影響が認められなかったが､尿のpHおよび血中尿素態窒素が影響を受けた。

図１　スラリーを200t/ha施用している
とうもろこし畑の層別土壌養分（現地調査）

図２　窒素多肥が牧草のタンパク質分解特性に及ぼす影響

4.　成果の活用面と留意点
1)　糞尿の施用に当たっては養分含量を調べ化学肥料を減肥し､養分施用量が施肥標準を超えないようにする｡
2　)施用した堆肥が収穫時に混入すると､サイレージ品質を悪化させる｡堆肥の腐熟化や草地上の堆肥塊をパスチャーハローで拡散することで混入は低減できる｡

5.　残された問題とその対応
1)　牧草･とうもろこしの飼料としての品質を良好に保ち､肥料成分の有効利用を図るための堆肥･スラリーの施用法の検討｡
2)　牧草中の硝酸態窒素が高濃度となったとき､高品質を保ちつつNO₃-Nを消失させるサイレージ調製技術の検討｡
3)　水系汚染等環境に及ぼす影響からの糞用施用量についての検討。