- 目的
家畜糞尿の多量施用による牧草中硝酸態窒素の蓄積が懸念されている。牧草中硝酸態窒素含量の現場における簡易な確認法として、硝酸イオンメータや硝酸イオン試験紙があるが、これらの方法は定量性に欠ける。そこで、小型反射式光度計(製品名RQ-flex、Merck社製)を用いた牧草中硝酸態窒素の現場での簡易迅速測定方法について検討した。
- 方法
1) 牧草中硝酸態窒素の簡易抽出方法の検討
簡易抽出法として下記の3つの方法を、硝酸態窒素の抽出率および抽出液の着色がRQ-flex測定に及ぼす誤差の観点で比較した。
①ジューサー法: 牧草生草と蒸留水をジューサーミキサーで激しく撹拌。
②煮沸法: 牧草生草をガスレンジまたは電子レンジにより10分間煮沸。
③静置法: 牧草生草を蒸留水中に静置。
2) 抽出液中の硝酸態窒素濃度のRQ-flexによる測定精度の検討
牧草生草の煮沸法による抽出液中硝酸態窒素濃度のRQ-flexによる推定精度について検討した。 供試牧草: 硝酸態窒素含量が0〜0.28%DMであるチモシー牧草生草30点。
- 結果の概要
1) 牧草中硝酸態窒素の簡易抽出方法の検討
ジューサー法の抽出液は濃緑色に着色し、RQ-flex測定値に誤差をもたらした。静置法は抽出液の着色は少ないものの、抽出率は12時間静置後も50%以下と低かった(図1)。煮沸法は硝酸態窒素の抽出率が88%以上と高く、溶液の着色も少ないため、簡易抽出法として採用できると考えられた。
2) 抽出液中の硝酸態窒素濃度のRQ-flexによる測定精度の検討
30点の牧草サンプルの煮沸法による抽出率は、硝酸態窒素含量が0.05%DM以上である牧草では90%以上であり、十分に高かった。抽出液中硝酸態窒素濃度のRQ-flexによる測定値は、公定法の測定値ときわて高い相関を示し(図2)、両者の関係は次式であらわされた。
y = 1.1068x (R2 = 0.9781) x:RQ-flex測定値、 y:公定法による測定値 (抽出液中ppm)
以上の結果をもとに、煮沸法抽出およびRQ-flexによる牧草中硝酸態窒素含量の簡易推定方法を提案した。100gの牧草を1000mlの蒸留水で抽出した場合の換算式は以下のとおりである。
牧草乾物中硝酸態窒素含量(%)=
RQ-flex表示値(NO3,ppm)×2.4993×10-5×(1000+W)/(100-W) W:牧草の水分(%)

図1 抽出方法による牧草からの硝酸態窒素抽出率の違い

図2 牧草抽出液中の硝酸態窒素のRQ-flexによる測定精度
- 成果の活用面と留意点
1) RQ-flexは必要に応じて、硝酸態窒素標準液を用いて補正する。
2) RQ-flexの表示値が150 (NO3, ppm)以上のとき、測定誤差が大きくなる傾向があるため、精度を求める場合は抽出液を希釈して再度測定することが望ましい。
- 残された問題とその対応
1) 牧草サイレージ・とうもろこしにおける硝酸態窒素の簡易測定については、基本的には本方法を応用できると考えられるが、さらに検討が必要である。