課題の分類 北海道 総合研究 農業物理 研究課題名 乳牛ふん尿の固液分離特性 (固液分離機の開発および低コスト貯留施設の開発) 予算区分 道費(糞プロ) 担 当 根釧農試 研究部 酪農施設科 研究期間 平成6〜10年度 協力分担 な し |
1.目的
牛舎から搬出される糞尿は、堆肥化のためには水分が高く、液状として扱うには水分が低すぎる。糞尿の取り扱い易くするために、固液分離機が導入利用されているが、糞尿性状によって処理量が大きく変わるなど、利用にあたって不明な点が多い。そこで、水分や粘度等による糞尿の分離特性を明らかにするとともに、既存の固液分離機の分離方式別に、処理能力、分離後の固・液分の水分等を検討して、効率的な糞尿の分離法を明らかにする。
2.方法
1)糞尿性状別の分離特性
糞尿水分と粘度、および希釈材料(水道水、曝気液、固液分離液)による糞尿の分離特性
2)静的分離法の検討
加圧法:トラクタを重石にした時の糞尿分離の可否を検討
減圧法:真空ポンプで吸引した時の糞尿分離の可否を検討
3)市販固液分離機の方式別分離特性
市販されている機種の固液分離性能を、方式別に検討するとともに、現地導入農家の聞き取り調査による、耐久性と運転状況の把握
3.結果の概要
1)スラリーの粘度は糞尿の乾物割合によって指数的に変化し(図1)、スラリーを水道水で希釈して搾汁した方が、分離後の固形物水分が低く、分離液の回収率も高かった(図2)。
2)水道水あるいは曝気液で希釈した場合、分離後の固形物水分は分離液で希釈したものよりも低かった(図3)。[分離液中の水]と[希釈に用いた水]の比は、水道水希釈では[希釈に用いた水]を超える2〜4.5倍の水が回収され、曝気液でもこれに準ずる量の水が、分離液口から回収された。しかし、固液分離液による希釈では1〜2倍の範囲で、分離改善効果はほとんどないと判断された(図4)。これらのことから、固液分離する場合のスラリーは、水道水あるいは曝気液で、水分91%〜92%、粘度2000mPa・s程度に希釈するとよい。
3)静的分離法による搾汁は、原料粘度を低くすることによって可能であったが、原料の投入方法、重石のバランス、除液後の真空ポンプの連続運転、分離後の固形物水分が高いなど問題点が多く、実用施設設計までは至らなかった。
4)市販機種の方式別分離特性は、スクリュープレス方式の処理能力は7〜11t/hで、分離後の固形物水分は70〜78%である。ローラプレス方式の処理能力は10〜12t/hで、分離後の固形物水分は75〜81%である。圧縮方式の処理能力は約6t/hで、分離後の固形物水分は約79%である。バーンクリーナ用分離機の処理能力は約2t/hで、分離後の固形物水分は約85%である(表1)。
5)聞き取り調査では、導入後、2〜5年間で、分離用スクリーンを2〜5回交換していた。原料を分離液、曝気処理液で希釈している例が多く、原料水分は87.5%〜92.8%であった。破損の主なものとして、牛舎の新築時に導入した事例で、工事でのコンクリート片等が糞尿中に混入して機械の破損を招いていた(表2)。
図1 スラリーの乾物割合と粘度(約20℃)
図2 調製水分と分離液の回収率(簡易圧搾試験)
図3 希釈液別の調製水分と固形物水分
図4 (希釈に用いた水)に対する(分離液中の水)の比率
表1 市販固液分離機の分離性能
方式 |
原料水分 (%) |
原料粘度 (mPa・s) |
流量(t/h) | 水分(%) |
固口流量 割合(%) |
備考 | |||
固口 | 液口 | 合計 | 固形物 | 分離液 | |||||
SP-1 | 91.96 | 280 | 3.51 | 7.27 | 10.78 | 77.73 | 96.16 | 32.53 | 縦溝 |
SP-2 | 92.34 | − | 1.05 | 5.61 | 6.66 | 69.44 | 96.57 | 15.75 | φ1.5mm |
RP-1 | 91.95 | − | 2.37 | 9.85 | 12.22 | 75.16 | 96.13 | 19.38 | 農試 |
RP-2 | 91.97 | 475 | 2.09 | 8.10 | 10.19 | 80.98 | 95.49 | 20.58 | 農試 |
PP-1 | 87.5 | − | 1.9 | 4.2 | 6.1 | 79.0 | 91.4 | 31.15 | 現地 |
BS-1 | 85.57 | − | 1.64 | 0.44 | 2.08 | 84.77 | 88.47 | 78.85 | 現地 |
表2 市販機種導入農家での聞き取り調査結果(1998、スクリュープレス式)
農 家 | II | UM | GD | IT | ST | SZ | TK | HR | TH | SK | AZ |
導 入 年 | H5 | H5.12 | H7 | H8.2 | H8.4 | H6.7 | H5 | H5.11 | H7.5 | H5.6 | H5 |
運転状況 | 通年 | 通年 | 通年 | 通年 | 通年 | 通年 | 通年 | 通年 | 冬× | 冬× | 中止 |
スクリーン交換回数 | 3 | 2 | 2 | 2 | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 | 1 | 4〜5 |
希釈の有無 | なし | 曝気液 | なし | なし | 洗浄水 | 洗浄水 | 分離液 | 分離液 | 曝気液 | 曝気液 | |
原料水分 (%) | 89.17 | 90.90 | 92.48 | 90.78 | 91.30 | 87.51 | 91.90 | 92.83 | 92.35 | ||
粘 度 (mPa・s) | 7500 | 5200 | 1600 | 4900 | 3400 | 13500 | 1820 | 1080 | 3400 |
4.成果の活用面と留意点
①分離のために洗浄水等で希釈する場合には、分離液の貯留槽容量は十分な大きさとする。
②固液分離機を牛舎工事等と同時に導入するときは、コンクリート片などの異物除去に留意する。
5.残された問題とその対応
①ミルカ洗浄水、殺菌水による希釈と分離後の糞尿性状(発酵の可否、散布時の問題の有無)。