新品種候補                                 (作成 平成12年1月19日)
課題の分類
新品種候補名  てんさい「HT 14」
試験場所名 道立十勝農試、北見農試、中央農試、上川農試、根釧農試、北海道農試
        北海道てん菜協会(日本甜菜製糖㈱、北海道糖業㈱、ホクレン農業協同組合連合会)

1.来歴および試験経過
 「HT 14」は、スウェーデンのノバルティス種子会社が育成した三倍体単胚の一代雑種である。二倍体単胚雄性不稔種子親系統「MS-382-E」と、四倍体多胚花粉親系統「4X/9」を交配し、平成5年に育成された。
 平成6年に北海道糖業株式会社が輸入し、平成7年に同社が「HM95-13」の系統名で輸入品種予備試験を行った。
 平成8年から11年に「HT 14」の系統名で、北海道立十勝、北見、上川、中央農業試験場並びに北海道農業試験場において輸入品種検定試験、てん菜協会において品種連絡試験を行った。
 平成10年から11年に、十勝農試において栽培特性検定試験、褐斑病抵抗性特性検定試験、根腐病抵抗性特性検定試験、中央農試において耐湿性特性検定試験、根釧農試において抽苔耐性特性検定試験、全道17カ所において現地検定試験を行った。

2.特性及び奨励品種として採用する理由
 1)「HT 14」は、葉姿は「ユーデン」と同じ“やや開平”で、葉長は“中”、葉数は“中”で「ユーデン」並である。葉形は「ユーデン」の“楕円形”に対し、“やや皮針形”である。葉面縮は“やや少”で「ユーデン」よりやや少ない。葉身の大きさは“中”で「ユーデン」よりやや大きい。クラウンの大きさは“小”、根周は“中”で「ユーデン」よりやや小さく、根形は「ユーデン」と同じ“やや短円錐”である。分岐根は“少”である。
 2)根重は「ユーデン」よりやや少なく、根中糖分は「ユーデン」並である。糖量は「ユーデン」並である(表1)。
 アミノ態窒素は、「ユーデン」より低く、カリウムは、「ユーデン」並で、ナトリウムは、「ユーデン」より低い。不純物価は「ユーデン」よりやや低く、品質は良好である(表2)。
 抽苔耐性は「モノホマレ」、「ユーデン」並の“強”である(表2)。
 褐斑病抵抗性は「モノホマレ」よりやや弱く、「ユーデン」並の“弱”である(表2)。
 耐湿性は「モノホマレ」、「ユーデン」よりやや強く“中”である(表2)。
 根腐病抵抗性は「モノホマレ」よりやや弱い“弱”である(表3)。
 黒根病の発生は「モノホマレ」並からやや多いが、「ユーデン」より少ない(表3)。
 現地試験の結果、根腐症状の発生が比較的少なかった平成10年では、根重が「ユーデン」より少なく、根中糖分は「ユーデン」より高く、糖量では「ユーデン」並であった。しかし、根腐症状の発生が多かった平成11年では、根重が「ユーデン」より多く、根中糖分が「ユーデン」並で、糖量では「ユーデン」より6%多かった(表4)。
 3)以上のことから、「HT 14」は「ユーデン」と比較して、根重はやや少ないが、根中糖分、糖量は同等であり、不純物価はやや低く、品質が良好である。また、耐湿性が「ユーデン」より強く、黒根病の発生が「ユーデン」より少ないので根腐症状の発生が「ユーデン」より少ない。
 このことから、「HT 14」を「ユーデン」に替えて北海道一円に普及することにより、農家の収益性向上に寄与できる。

表1 農試及びてん菜協会における成績(平成8〜11年)

品種
・系統名
根腐症
状株率
抽苔
株 率
根重
(t/10a)
根中糖分
( % )
糖量
(kg/10a)
「モノホマレ」比
根重 糖分 糖量

HT14 0.7 0.0 6.89 17.41 1,196 104 102 107
モノホマレ 0.8 0.0 6.62 17.00 1,121 100 100 100
ユーデン 1.0 0.0 7.05 17.18 1,207 106 101 108

HT14 0.4 0.0 7.14 16.68 1,189 106 102 108
モノホマレ 0.1 0.2 6.73 16.41 1,104 100 100 100
ユーデン 0.5 0.1 7.25 16.42 1,189 108 100 108


HT14 0.4 0.0 6.97 17.18 1,194 105 102 107
モノホマレ 0.1 0.2 6.65 16.81 1,116 100 100 100
ユーデン 0.5 0.1 7.11 16.94 1,202 107 101 108
注1)農 試:道立十勝、北見、中央、上川農試、北農試の5カ所、4カ年平均。
 2)協 会:日本甜菜製糖㈱(帯広市)、北海道糖業㈱(本別町)、ホクレン農業協同組合連合会
       (女満別町)の3カ所、3カ年(H9〜11)平均。
 3)全平均:農試5カ所4カ年、協会3カ所3カ年平均。
 4)根腐症状株率:指数4以上。

表2 品質調査、特性検定試験(十勝、根釧、中央、北見、上川、北農試、平成8〜11年)
系統名
または
品種名
品質調査(H8〜11年) 褐斑病抵抗性
発病程度(十勝)
抽苔耐性(根釧)
抽苔率(%)
耐湿性(中央)
腐 敗 度
有害性非糖分
7 (meq/100g)
不純
物価
(%)
アミノN Na 9上 10上 判定 H10 H11 判定 H10 H11 判定
HT14 1.77 4.45 0.40 4.19 0.99 3.02 0.2 0.2 37.6 86.1
モノホマレ 1.95 4.44 0.55 4.49 0.68 2.96 ヤヤ弱 0.0 0.0 69.1 91.9 ヤヤ弱
ユーデン 2.05 4.62 0.48 4.61 (弱) - - (強) (ヤヤ弱)
注1)品質調査は農試5カ所4カ年、協会3カ所3カ年の平均。
 2)不純物価(%)=(3.5×Na(%)+2.5×K(%)+10×Amino-N(%))÷根中糖分(%)×100
    Na:ナトリウム K:カリウム Amino-N:アミノ態窒素
 3)褐斑病発病程度は平成10〜11年の2カ年平均値。( )は平成9年以前の結果。

表3 根腐病抵抗性特性検定試験、黒根病調査(平成9〜11年)
系統名
品種名
根腐病発病程度
(十勝農試)
黒根病発病程度
中央農試 現地試験
H10 H11 判定 H9〜11平均 H10 H11
HT14 3.65 3.88 0.2 0.46(0.62) 0.39(0.45)
モノホマレ 3.55 2.62 やや弱 0.5 0.35(0.52) 0.22(0.24)
ユーデン 0.5 −(0.90) −(0.80)
注1)根腐病は病原菌を接種、黒根病は無接種。
 2)現地試験はH10:15カ所、H11:14カ所、( )内は「ユーデン」供試した場所の平均値。

表4 現地検定試験成績全道平均(平成10〜11年、17カ所)
系統名
品種名
年次 根腐症状
株率(%)
根重
( t/10a)
根中糖分
(%)
糖量
(kg/10a)
対「モノホマレ」比(%)
根重 根中糖分 糖量
HT14 H 10 2.5(5.3) 6.82(6.54) 15.87(15.77) 1085(1037) 103(100) 101(102) 104(102)
H 11 5.9(7.1) 6.09(5.96) 15.36(15.40) 936( 916) 101(103) 99(100) 100(103)
平均 4.2(6.4) 6.47(6.20) 15.62(15.56) 1013( 967) 102(101) 100(101) 102(102)
モノホマレ H 10 1.0(2.5) 6.62(6.55) 15.74(15.53) 1043(1019) 100(100) 100(100) 100(100)
H 11 3.1(4.9) 6.05(5.80) 15.53(15.41) 938( 892) 100(100) 100(100) 100(100)
平均 2.0(3.7) 6.34(6.11) 15.64(15.46) 993( 945) 100(100) 100(100) 100(100)
ユーデン H 10 - ( 9.5) - (6.79) - (15.43) - (1050) - (104) - ( 99) - (103)
H 11 - (11.5) - (5.62) - (15.33) - ( 861) - ( 97) - ( 99) - ( 97)
平均 - (10.6) - (6.11) - (15.37) - ( 940) - (100) - ( 99) - (100)
注)( )内は「ユーデン」供試の延べ12カ所の平均値。

3.配布可能種子量
 平成12年度  8,000kg   平成13年度以降 10,000kg

4.適応地帯および普及見込面積
 北海道一円  平成12年度 8,000ha  平成13年度以降 10,000ha

5.栽培上の注意
 1)褐斑病抵抗性が“弱”なので、適期防除に留意する。
 2)根腐病抵抗性が既存品種同様に“弱”なので、適期防除に留意する。