成績概要書 (作成平成12年1月)
課題の分類: 研究課題名:生理活性物質による感染防御機能増強および牛乳房炎の治療 (生理活性物質による感染防御機能増強とそれを利用した牛乳房炎の予防 予算区分:道費 担当科:新得畜試 衛生科、酪農科 研究期間:平6〜10年度 協力・分担関係:なし |
1.目 的
牛乳房炎の治療には主として抗生物質が用いられている。しかし、現在抗生物質に耐性を持つ細菌が増加してきており、抗生物質を用いない治療法の開発が待たれている。
本試験では、牛好中球機能を増強して感染防御機能を高める生理活性物質についての検索を行い、その中から最も増強効果の高い物質を用いた牛乳房炎治療効果について検討した。
2.方 法
1)生理活性物質による牛好中球殺菌機能増強効果
(1)水溶性リボフラビンの牛好中球殺菌機能増強効果
ホルスタイン種子牛5頭を2頭および3頭の2群に振り分け、それぞれに水溶性リボフラビン10mg/kgおよび20mg/kgを1回静脈内に投与し、経時的に好中球化学発光能(CL index)を測定した。
(2)ジヒドロヘプタプレノール(DHP)の牛好中球殺菌機能増強効果
アンガス種育成牛14頭を5頭、5頭および4頭の3群に振り分け、それぞれにDHP0.5、1.0および2.0mg/kgを1回、頚部皮下に投与し、経時的に好中球NBT還元能を測定した。
(3)組換えウシ型顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(rboGM-CSF)の牛好中球殺菌機能増強効果
①In vitroにおけるrboGM-CSFの牛好中球殺菌機能増強効果
牛好中球浮遊液にrboGM-CSFを0.005、0.05および0.5μg/ml(最終濃度)添加し、無添加区と併せて37℃、5%CO2下で9時間培養し、3時間毎に化学発光能を測定した。
②In vivoにおけるrboGM-CSFの牛好中球殺菌機能増強効果
ホルスタイン種搾乳牛11頭を4頭、3頭および4頭の3群に振り分け、それぞれにrboGM-CSFを5.0μg/kg、2.5μg/kgおよびプラセボ(0.0μg/kg)を1回、頚部皮下に投与し、経時的に好中球NBT還元能を測定した。
2)組換えウシ型顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(rboGM-CSF)の牛乳房炎治療効果
黄色ブドウ球菌あるいは連鎖球菌の感染が認められた10分房にrboGM-CSF200あるいは400μgを1ないし3回注入し、経時的に乳汁中細菌数を測定した。
3.結果の概要
1)-(1) 水溶性リボフラビン20mg/kg投与群では、好中球CL indexは投与1日後にやや低下した後、投与2ないし3日後に上昇する傾向が認められた。
1)-(2) DHP投与牛14頭を一括して検定を行った結果、投与2および5日後に投与時に比較して有意(P<0.05)な好中球NBT還元能の上昇が認められた。
1)-(3)-① rboGM-CSF0.05および0.5μg/ml添加区がいずれの測定時においても無添加区に比較して有意に高い化学発光最大値を示した(表1)。
1)-(3)-② rboGM-CSF5.0μg/kg投与群の好中球NBT 還元能は、投与24時間後に対照群に比較して有意(P<0.05)に高い値を示した(図1)。
2) rboGM-CSFを注入した10分房のうち、5分房については一時的に細菌が消失した。このうち黄色ブドウ球菌の感染が認められた1分房については再度の注入により同菌が消失した。残りの5分房については、一時的な細菌数の減少が認められたが、消失はしなかった(表2)。
以上の成績より、水溶性リボフラビンおよびDHPは牛好中球殺菌機能増強効果を有することが示唆された。また、バキュロウイルス発現系を用いて作製されたrboGM-CSFの牛好 中球殺菌機能増強効果が明らかになるとともに、乳房内注入による乳汁中細菌に対する殺菌 効果も確認され、抗生物質を用いない乳房炎治療の可能性が示唆された。
表1.rboGM-CSF添加後の好中球化学発光最大値の推移
GM-CSF濃度 (μg/ml) |
培養時間(時間) | |||
0 | 3 | 6 | 9 | |
0.5 | 3.863* | 4.644* | 4.972** | 5.187* |
0.05 | 3.859** | 4.467* | 4.840* | 5.098* |
0.005 | 3.966** | 4.395 | 4.809 | 5.002 |
0.0 | 3.321 | 3.873 | 4.095 | 4.423 |
表2.rboGM-CSF乳房内注入による乳房炎治療成績
起因菌 | GM-CSF投与量 (μg) |
GM-CSF 投与回数 |
分房数 | 治療効果 | |||
+++ | ++ | + | ± | ||||
黄色ブドウ球菌 | 200 | 1 | 1 | 1 | |||
〃 | 〃 | 3 | 2 | 1 | 1 | ||
〃 | 400 | 1 | 2 | 1 | 1 | ||
連鎖球菌 | 200 | 1 | 4 | 1 | 1 | 2 | |
〃 | 〃 | 3 | 1 | 1 |
4.成果の活用面と留意点
rboGM-CSFは現在市販されていない。
5.残された問題とその対応
rboGM-CSFを乳房炎の治療に用いる場合の至適用量、投与回数および抗生物質との併用効果について検討する必要がある。