成績概要書 　　　　　　　　　　　 （作成　平成１２年１月）

１．目的

　中国豚とヨーロッパ改良種の交雑による実験家系作出と、その家系におけるDNAマ−カ−を用いた連鎖地図を作製し、経済形質との連鎖解析により量的形質遺伝子座（QTL）候補を検出する。

２．方法

親世代に中国豚である梅山豚とヨーロッパ改良種である系統豚ハマナスL1、ハマナスW1を用い、そのF1世代のきょうだい交配で実験家系を作出した。F2世代の形質として育成形質、と体形質、肉や脂肪の理化学性状などについて調査した。

DNAサンプルは耳片よりフェノール法で抽出した。STAFF研究所供給の164マーカーを用い、PCR法により目的の配列を増幅した。PCR産物はサブマリン型泳動装置で電気泳動しEtBr染色後、紫外線照射下で写真撮影して多型を検出した。P世代、F1世代で利用可能と判断されたDNAマーカーを用いてF2世代についてタイピングした。

連鎖地図作成はCRIMAPソフトウェアを用いた。QTL解析はインターバルマッピング法によった。

３．結果の概要

(1)実験家系の作出

中国豚とヨーロッパ改良種の交雑によりMLおよびMWの２実験家系を作出した（表１）。

(2)連鎖地図の作製

P世代とF1世代における多型解析により利用可能と判断されたDNAマーカーを用いてML家系のF2世代について連鎖解析をおこなった結果、全ての染色体上にマーカー間の連鎖が認められ、合計101マーカーにより連鎖地図を作製した。1番、4番および8番染色体の連鎖地図を図１に示した。

(3)QTL解析

QTL解析のためF2世代の形質を調査した。そのML家系における測定値と作製した連鎖地図による連鎖解析の結果、新たに15ヵ所のQTL候補が確認された。それらの形質測定値の概要とQTL解析結果とを表２に示した。椎骨数、背脂肪厚および生時体重のQTL候補は他県や農水省畜試など複数の実験家系と同一の染色体上に検出された。

４.成果の活用面と留意点

(1)DNAマーカーの連鎖地図はWWW（World Wide Web）上に公開されており、誰でも閲覧可能である。

(2)本研究においてQTL候補が検出されたが、DNAマーカーアシスト選抜に利用するにはさらなる研究が必要である。

５．残された問題とその対応

(1)高精度遺伝子地図の作成 → 新たなDNAマーカーの開発

(2)より効率的・簡便的な解析 → 最新手法の採用および自動化

(3) 実用的なDNAマーカーアシスト選抜技術の開発 → マーカータイプによる選抜の検証

＜具体的なデータ＞

表１．実験家系のF2世代の内訳

家系	腹数（腹）	産子数（頭）	離乳時と殺(頭)	検定開始(頭)	検定後と殺(頭)
ML	26	304	119	158	139
MW	20	128	30	95	91

	図１．１番，４番および８番染色体の連鎖地図

表２．ML家系F2世代の形質測定値の概要とQTL解析結果

測定形質	形質の概要		QTL解析結果
	頭数	平均値±標準偏差	染色体	F値		LOD値
生時体重(kg)	304	1.14±0.22	8	18.4	***	3.99
日増体量(g/日)	147	716±107	4	27.5	***	5.97
背腰長Ⅰ(cm)	139	70.7±2.9	1	12.0	**	2.61
背腰長Ⅱ(cm)	139	61.6±2.4	1	18.4	***	3.99
ロース断面積(cm2)	137	12.5±1.8	8	14.1	**	3.05
背脂肪厚肩(cm)	139	3.8±0.4	4	12.9	**	2.62
背脂肪厚背(cm)	139	1.8±0.4	4	23.3	***	5.06
枝肉歩留(%)	138	68.8±1.8	4	12.0	**	2.60
ロースバラ重量(kg)	139	8.73±0.67	4	48.2	***	10.46
ロースバラ比重	139	.0260±.007	4	16.4	**	3.56
ハム比重	138	.0530±.006	4	32.8	***	7.12
四肢重量(kg)	139	1.06±.009	4	42.1	***	9.13
管囲 左前(cm)	139	13.8±0.6	4	15.6	**	3.38
椎骨数	139	20.6±0.7	1	36.1	***	7.83
脂肪融点 背内層(℃)	135	37.4±3.1	4	12.2	**	2.64
**P＜0.01　***P＜0.001