成績概要書 (作成平成12年1月)
課題の分類北海道 畜産 鶏 − 滝川畜試
研究課題名:鶏卵黄抗体を用いたカスタム抗体の作成
(鶏卵黄抗体の作成とカスタム抗体としての利用)
予算区分:共同研究(民間)
研究期間:平10〜11年
担当科:滝川畜試 研究部 家きん科
協力分担関係:株式会社サイエンスタナカ |
1.目的
生物科学領域の拡大に伴い、分析を必要とする微量物質が極めて多種類になっている。抗原抗体反応を用いる分析は、現在人類の持つ最も感度の高い分析方法の一つである。この分析には、分析する微量物質に対応するオーダーメイドの抗体が必要となる。これらの抗体はカスタム抗体と呼ばれ、一つの市場が成立している。現在、カスタム抗体市場ではウサギなど哺乳動物で作成しているが、卵黄抗体を用いることで、安価で大量の抗体が供給できると考えらる。
今回の試験は、鶏の新たな利用機会を開拓し、さらには医薬や農業の分野で利用される高付加価値な卵を生産する技術へと発展させるため、鶏卵黄抗体を用いたカスタム抗体の作成方法について検討した。
2.方法
1)効率的な抗体生産の検討
- 抗原を14日間隔で皮下、筋肉、腹腔にそれぞれ投与し、産卵と抗体産生について検討した。
- 抗原を初回はフロインドコンプリートアジュバントと、2回目以後はフロインドインコンプリートアジュバントと等量混合し、油中水滴乳剤として投与した。
- 卵黄中抗体価の測定はELISA用い、実用化に必要とされる希釈倍率3200倍、吸光度0.2を基準抗体価とした。
2)試供品の作製とエンドユーザー評価
- 卵黄を蒸留水で抽出後、硫安分画を2回繰り返し、試供品を作製した。
3.結果の概要
1)効率的な抗体生産の検討
- 抗原の投与により産卵は低下した(表1)。
- 筋肉および腹腔に抗原を投与しても充分に抗体価が上昇しなかったが、皮下注射により抗体価は、今回、基準抗体価とした希釈倍率3200倍で、吸光度0.2以上(ELISA)になった。これらのことから投与部位は皮下が適当と考えられた(表2)。
2)試供品の作製とエンドユーザーの評価
- タンパク質を抗原に用いた時、抗体価が基準抗体価を越えた事例では多くのユーザーが、卵黄抗体をカスタム抗体として利用出来ると評価していた(表3)。
- 合成ペプチドを抗原に用いた時、抗体価は半数の例で基準抗体価に達していた。しかし、抗体価が基準抗体価を越えていても、ユーザーが利用できないと答えた例があった(表3)。抗体価が上昇しないことは、抗原の性質上、希なことではなく、どの動物を用いた場合もあることで、このことが短絡的に商品化を否定するものではないと考えられた。
- 卵黄中の抗体価は個体による差が見られ、個体の免疫応答に違いがあることが認められた(表3)。
- これらのことから、卵黄抗体をカスタム抗体として商品化できると判断された。



集卵:免疫開始後49日 試供品を3200倍希釈、ELISA、波長415nmで測定
抗体価の評価: +:吸光度が0.2以上、−:吸光度が0.2以下
ユーザーの評価+:商品として利用出来る、−:商品として利用出来ない、?:未回答
4.成果の活用面と留意点
- カスタム抗体の生産は現状では受注生産である。
- 免疫した鶏の卵及び肉は食用とせず廃棄すること。
- 抗原が変わると、抗体価が充分に上昇しない例があった。抗体価は抗原により変動するものであると認識しておくこと。
- 投与に際し、間違って人間に針を刺さないよう十分注意を払うこと。アジュバントを含む溶液が体内に入ると無菌性膿瘍の原因となる。
5.残された問題とその対応
- 抗体価が上昇していてもユーザーが、利用できないと評価した例もあり、このような時の技術的な対応策の検討が必要である。
- 付随して生産される血漿(血清)抗体の利用も考えられる。