成績概要書                 (作成 平成12年1月)
課題の分類
研究課題名:北海道の採草地における牧草生産の現状と課題
      Ⅰ.収量及び栄養価の現状
予算区分:農政部事業
担当科:5農畜試8研究科(事務局 天北、根釧農試)、10
     支庁・28農業改良普及センター、7農試7専技室、
     農政部酪農畜産課、農地整備課、農業改良課
研究期間:平成9〜11年
協力分担:

1.目 的
 北海道の飼料自給率は低下してきている。自給率の向上のためには草地の生産性の把握が不可欠であるが、栄養生産性等の実態は必ずしも明確ではない。本成績では「牧草の栄養価及び収量向上による飼料自給率向上促進事業(Gプロ)」の一環として実施した「作況ほ調査事業」を基に北海道主要酪農地帯の採草地における牧草生産の現状とこれからみた自給率向上のための課題について検討する。

2.方法
①調査ほ場:全道5ブロック(道央道南、道北、網走、十勝、根釧) 、28普及センター管内の約 250ほ場 (地域を代表する混播採草地、経過年数は5年程度を主体)を対象とし、3ヶ年で延べ 719点の調査を行った。
②調査方法:普及センターが作況ほ調査に用いている「農作物生育状況調査要領」 (平成8年北海道農政部) を基本に、統一した調査法を用いた。収量、肥培管理等の調査は普及センターが、分析試料の調製、各ブロックの成績整理は関係農畜試が分担した。また、栄養価分析等は新得畜試が一元的に担当した。収量調査の時期は1番草については出穂始〜出穂期とし、出穂始、農家刈取り期の乾物収量、栄養価については必要に応じて日生育量及び栄養価の日変化量を基に補正した。
③調査項目:草地植生、生育・収量、栄養価(CP、NDF、ADF、TDN、無機成分等)、土壌(土 壌類型、化学性等)、 草地管理の概要(刈取り時期、肥培管理等)。

3.結果の概要
 対象草地の92%がチモシー主体草地であったので、本草地を中心に検討した。
①チモシー品種の早晩性はどのブロックも早生品種が主体で、全体の78%を占めていた。
②化学肥料による早春の追肥はほぼ全草地で実施されていたが、1番刈り後の追肥には地域差が認められ道央道南と道北では半数以下の実施率で低かった。ブロック別年間施肥量は10a当たりN:5〜9kg、PO:7〜12kg、KO:7〜 11kgであり、網走と十勝ブロックが多い傾向にあった。有機質肥料のブロック別施用率は3ヶ年平均で道央道南33%、道北37%、網走28%、十勝46%、根釧65%であった。
③土壌化学性は全道の平均値で見る限り土壌pH、石灰・加里含量は土壌診断基準値に近かったが、個別にみると40%のほ場が土壌pH、石灰が基準値以下で、加里は適正域のほ場が20%以下であった。りん酸、苦土含量については過剰傾向にあった。これに対して、施肥管理は全般に画一的な傾向があった。
④1番草の農家収穫日は概ね6月下旬であり、ほぼ出穂の遅速に対応したブロック間差異が認められた(表1)。農家収穫日と出穂始期の差は大きく、全道平均では8〜12日の遅れとなっており、ブロックでは1戸当たり草地面積が大きな道北と根釧が遅れる傾向にあった。2番草の刈取り時期は概ね8月下旬〜9月上旬であり、道央道南、十勝が早い傾向にあった。2番草の生育期間は概ね60〜70日程度であったが、70日を超える場合が30%あった。
⑤各ブロックとも各番草における平均マメ科率は低く、10%程度であった。
⑥農家刈取り時の年間乾物収量は871〜990kg/10a、全道平均で 930kg/10aであった(表2)。栄養価を重視した出穂始刈取り体系(1番草を出穂始、2番草をその後50日目に刈り取る)では全道平均で 765kg/10aとなり、農家刈取り実態の82%であった。出穂始刈取り体系における各ブロックの乾物収量は688〜816kg/10aであり、網走が最も多く、道北と根釧が少ない傾向にあった。
⑦農家刈取り実態に基づくTDN含量は全道平均で1番草59.2%、2番草56.3%、ブロックでは1番草で十勝が高い傾向があった(表3)。出穂始刈取り体系ではTDN含量は全道平均で1番草64.5%、2番草59.4%であり、刈取り時期を早めることによって1、2番草でそれぞれ5.3、3.1ポイント高まった。
⑧農家刈取り実態に基づく年間TDN収量は495〜574kg/10a、全道平均で532kg/10aであった(表4)。 出穂始刈取り体系では432〜511kg/10a、全道平均で477kg/10aであり、 農家刈取り実態に基づくTDN収量の90%であった。ブロック間では網走が最も多く、根釧と道北が少ない傾向にあった。

表1 チモシー主体草地の1番草収量調査日、農家収穫日及び出穂始(ブロック別平均)
ブロック 平成9年度 平成10年度 平成11年度

収量
調査

農家
収穫
b-a

出穂
b-c

収量
調査

農家
収穫
b-a

出穂
b-c

収量
調査

農家
収穫
b-a

出穂
b-c
道央道南 6/15 6/19 4 6/14 5 6/ 9 6/17 8 6/7 10 6/15 6/19 5 6/12 7
道北 6/20 7/5 15 6/21 14 6/14 6/28 14 6/12 16 6/17 6/25 8 6/16 9
網走 6/17 6/26 9 6/17 9 6/14 6/23 9 6/10 13 6/16 6/23 7 6/1211
十勝 6/16 6/21 5 6/18 3 6/ 9 6/19 10 6/10 9 6/14 6/20 6 6/12 8
根釧 6/23 7/2 9 6/23 9 6/18 6/30 12 6/17 13 6/21 6/29 8 6/17 12
平均 6/18 6/27 86/19 8 6/13 6/23 11 6/11 12 6/17 6/23 7 6/14 9
 注)収量調査日はGプロの調査日を示す

表2 チモシー主体草地の推定乾物収量(ブロック別3カ年平均)     (kg/10a)
ブロック 1番草 2番草 年間合計
調査1) 出穂始2) 農家3) 調査1) 50日後4) 農家3) 調査1) 出穂始5) 農家3)
道央道南 543 531 594 287 261 354 832 792 948
道北 479 489 585 264 254 336 743 743 921
網走 531 515614 313 301 376 843 816 990
十勝 481 487 535 295 303 382 776 790 917
根釧 422 411 516 293 277 354 715 688 871
平均 492 486 569 291 279 360 783 765 930
 1)Gプロ調査時収量 2)出穂始期の推定値 3)農家刈取り日の推定値 4)1番草刈取り後、
 50日目の推定値 5)1番草を出穂始、2番草をその50日後に刈取りした場合の合計値

表3 チモシー主体草地の推定TDN含量(ブロック別3カ年平均、%) 
ブロック 1番草 2番草
調 査1) 出穂始2) 農 家3) 調 査1) 50日後4) 農 家3)
道央道南 62.1 63.0 58.3 4.7 58.6 59.4 56.5 2.9
道北 63.9 63.3 57.7 5.6 60.1 59.5 55.3 4.2
網走 63.7 64.7 58.9 5.8 59.3 59.7 57.8 1.9
十勝 66.7 66.4 62.5 3.9 58.8 58.9 56.6 2.1
根釧 64.1 65.1 58.5 6.6 58.5 59.4 55.3 4.1
平均 64.1 64.5 59.2 5.3 59.1 59.4 56.3 3.1
 1)〜4)は表2参照。

表4 チモシー主体草地の推定TDN収量(ブロック別3カ年平均) (kg/10a)
ブロック 1番草 2番草 年間合計
出穂始1) 農家2) 50日後3) 農家2) 出穂始4) 農家2)
道央道南 333 343 152 199 485 542
道北 307 330 153 180 459 510
網走 331 357 180 217 511 574
十勝 321 332 179 215 499 547
根釧 267 299 164 194 432 495
平均 312 332 165 200 477 532
 1)〜4)は表2参照。

4.成果の活用面と留意点
①本成績は全道を道央道南、道北、網走、十勝、根釧の各ブロックに分け、農家草地を対象に地域を代表する混播採草地約 250ヶ所、3カ年間で延べ 719点の調査により得られたものである。調査の中心となったチモシー主体草地については現状における平均的な採草地の生産性を推定する資料として利用できる。
②農家ほ場を調査する関係から収量調査は原則として出穂始から出穂期に一斉に行ったので、出穂始期、農家刈り取り日の収量、栄養価は生育日数で補正されている。

5.残された問題点とその対応
①自給飼料への依存を高めるため、適期刈り、早晩性品種の有効利用、草地更新、土壌診断、糞尿を活用した適正な肥培管理、マメ科牧草の追播などによる植生改善等によって収量と栄養価を高める必要性が改めて示された。Gプロ後期事業では既往の技術を活用し、酪農家、農業改良普及センター、関係農畜試が連携した技術実証に取り組む計画である。