成績概要書  (作成平成12年1月)
課題の分類
研究課題名:ばれいしょの葉柄汁液を用いた栄養診断
予算区分:総合的開発研究(軽労化農業),経常
研究期間:平9〜11年度
担当研究室:北海道農試 生産環境部 養分動態研
担当者:建部雅子・笠原賢明・唐澤敏彦
協力分担関係:農研センター 土肥 栄養診断研

1.目的

 ①収量の安定化、②品質の向上、③環境負荷の軽減を目的として、多くの作物で汁液を用いた栄養診断情報を蓄積していく必要がある。本研究は、ばれいしょを対象として、汁液の特性を明らかにするとともに、診断基準値を得ようとするものである。

 

2.方法

1997〜1999年に、ばれいしょ(男爵薯、キタアカリ)を、窒素施用量4段階、リン酸施用量3段階、①N0, P018 ②N4, P018 ③N8, P018(標準区)④N16, P018 ⑤N8, P00 ⑥N8, P036 gm−2で栽培し、主に着蕾期、開花期に汁液中硝酸態窒素、リン濃度等を測定した。

 

3.結果の概要

1)ばれいしょ葉柄汁液の特性として、採取された汁液が葉柄全重に占める割合は22〜37%であり、汁液中の硝酸態窒素濃度は葉柄の硝酸態窒素濃度とほぼ等しく(表1)、汁液中の無機リン濃度は葉柄の水溶性無機リン濃度より低い(表2)。

2)汁液中硝酸態窒素およびリン濃度は地上部全窒素、全リン含有率との相関が高く、作物体の栄養状態を良く表す。汁液中硝酸態窒素濃度は着蕾期、開花期ともに窒素施用量を反映し(図1)、汁液中リン濃度は着蕾期のみリン施用量を反映する(図2)。

3)汁液中硝酸態窒素濃度は一株内の茎間、葉位間で変動した。汁液採取には、数株について、一株中の第2茎のすべての葉柄をサンプルとする。または、一株中のすべての茎で10cmに達した上から3〜5葉位の葉柄をサンプルとする(データ省略)。

4)十分な収量を得るために、着蕾期葉柄汁液の硝酸態窒素濃度は1.3〜1.5 gL-1、リン濃度は100 mgL-1程度が望ましい(図3、4)。品質面でも、硝酸態窒素濃度1.5 gL-1以上になると男爵薯でデンプン価14以下になるものが出現する(図5)。

5)リンの簡易分析法として、小型反射式光度計の試験紙を用いる方法(RQflex法)およびセルを用いる方法(RQflex plus法)は精密分析値との間にそれぞれ r=0.973、0.985の相関があり、ともに利用可能である。汁液を静置し上澄液を希釈することによって測定できる。なお、試験紙を用いる方法では、標準液も測定して、測定値の補正をする必要がある(データ省略)。

 

4.成果の活用面と留意点

1)診断基準値は男爵薯、キタアカリに適用する。2)着蕾期の硝酸態窒素濃度が1.5 gL-1を越えるような資材の投入が行われている生産現場では、翌年からの窒素施肥を控える必要がある。3)着蕾期のリン濃度100〜130 mgL-1は好気象条件で得られ、リン施用量の増加のみで得られるものではない。

5.残された問題点とその対応

 本試験よりも養分供給量(特に窒素)が多い栽培条件、また、堆肥など有機資材多施用条件において、品質や環境負荷との関連で診断時期や基準値の決定をしていく必要がある。