成績概要書  (作成平成12年1月)
課題の分類:北 海 道 生産環境 土壌肥料
       畜産草地 草地
研究課題名:草地緩衝帯による地下水水質の保全
予算区分:経常
研究期間:平6〜11年
担当研究室:北海道農試、草地部、上席研究官  草地部、草地管理・地力研
担当者:早川嘉彦、寳示戸雅之、金澤健二
協力分担関係:土壌特性・微生物研、養分動態研、北大農学部・土壌学教室

1.目  的
 農業由来と考えられる地下水・水系の硝酸性窒素の汚染は北海道でも顕在化しつつある。そこで、草地などが持つ自然の地下水浄化能を適切に評価し、浄化に必要な草地緩衝帯の必要幅を検討する。
 
2.方  法
 トウモロコシ畑の斜面下方に採草地を配置し、トウモロコシ標準施肥区と草地区を組み合わせた「標準施肥区」、トウモロコシ2倍施肥区と草地区との「2倍施肥区」、トウモロコシ標準施肥区と草地に除草剤を散布した裸地区との「除草剤区」の3処理区を設けた(1区200m×70m)。各処理毎に最大傾斜方向に調査線(200m)を設定し、地下2m迄の採水管を埋設した。各地点の標高を測量により求めた。本圃場の地下約2mに難透水層がある。4週間毎に地下水位を測定し、地下水を採取し、分析した。地下水流量はダルシー則より算出した。
 
3.結果の概要
(1)窒素収支は畑地標準施肥区で16〜17kgN/10a、2倍施肥区で27〜29kgN/10a投入 量が多く、草地で1kgN/10a持ち出し量が多かった。除草剤区では降水による負 荷量1kgN/10aのみであった。なお、草地は800kg/10a程度の乾物生産量を示した。
(2)地下水流出は地下水位が約1m以深の流出と、地下水位が地表近くまで上昇す
 る大量降雨時および春の融雪時の流出に分けられた(表1、図1)。畑地から
 の窒素流出は主に秋と春の流出時に増加した。
(3)草地に流入すると地下水中窒素濃度は急激に減少した(図2)。この減少度合 いを平均化した曲線を、地下水位1m以深の流出時と1m以浅の流出時につき求め、
 この曲線から濃度が10mgN/Lになる草地流入距離(草地緩衝帯の幅)を、草地区、 除草剤区それぞれにつき求めた。畑地草地の境界を地下水が通過する断面(通 水断面)100m当たりの畑地流出窒素負荷量と草地緩衝帯幅との関係を求めると (図3)、地下水位1m以深の流出時には窒素負荷量に応じて草地緩衝帯幅は増 加した(図3●)。除草剤区でも同様の関係が認められるが、浄化能は低かっ た(図3▲)。
(4)草地区では、地下水位が約0.5m程度迄(図3、○)、更に地表近く迄(図3、 ○矢印)上昇すると、段階的に窒素浄化能は増加した。しかし、除草剤区では 地下水位が0.5m以浅、地表近くまで上昇したときのみ浄化能が高まった(図3、 △、△矢印)。
(5)除草剤区の窒素負荷量と裸地緩衝帯幅の回帰直線より、草地区と同量の窒素負 荷が流入した場合の裸地緩衝帯の必要幅を試算すると、極めて大きな値を示し (図4)、植生の有無、地下水位の高低が草地の緩衝能に大きな影響を与える ことが示唆された。
(6)以上の結果、地下水位が比較的高く、乾物生産量800kg/10a程度に維持するよ う施肥管理された草地を緩衝帯として使用する場合、流入する窒素負荷量が約 1.7kgN/日・100m長通水断面程度であれば、硝酸性窒素濃度を10mgN/L以下に浄 化可能な草地緩衝帯の幅は約30mであった。                 

 

 

4.成果の活用面と留意点

 本成果は地下水位が2m以浅に維持されている採草地を、その生産性を維持しつつ、地下水水質を保全するための緩衝帯として利用する際に活用できる。

 

5.残された問題とその対応

 草地の施肥管理と浄化能の関係を検討する必要がある。

 草地緩衝帯のもつ地下水中の窒素を浄化する複数の機作を解析する必要がある。